1話:隣のおる理由
あのあと、部員を集めさわりの部分だけ説明した俺は「他言無用」と念を押して、解散させた。
真優は相変わらず、せかせか動いて俺らのサポートをしてくれとる。
被害を受けたなんて、おくびにも出さずいつも通りに過ごしとる。
本人がそれを望むなら。
これ以上の心配は最小限にせなあかん。
俺はふっと息を吐き出し、ボールを宙に投げた。
「いくで!」
打撃音とともに、サーブを放った。
□ + ◇ + □
その日の帰り、なんや揉めとる謙也と真優を見かけた。
なに言い合ってんねやろ思て、聞き耳立てれば「せやから、家まで送るって!」という謙也の声が聞こえてきて。
そら、被害の様子をリアルに見とる謙也からしたら、犯人が捕まったとはいえ、一人で帰らせるのは抵抗があるんやと思う。
真優は真優で「や、もう大丈夫やで!……多分」とか言っとるし。
真優が気にしてるんは、あの母親のことやろな、と俺は小さく笑ってしまった。
――謙也、思いっきり叩かれてるもんな。
ただ、このままやと埒が明かなさそうや。
そう思って俺は割って入った。
「ほんなら俺も送ろか」
途端に謙也と真優の目が見開かれ、言い合いが止まった。
――なんやねん。
似た者同士やな、こいつら。
そこへ、頭の後ろで手を組んだ財前がやってくる。
「俺も行きますわ」
続いて千歳が「よかねー」と続けた。
「俺も行くばい」
続々と集まってくる人数に、真優の目がまん丸くなる。
「あーん、財前きゅんが行くならウチも」
「小春が行くなら俺も行くで!」
「ワイも! なんやオモロそうやなぁ!」
「金太郎はんが行くなら、わしも行こか」
「なら、俺もやな」
真優は数回瞬いたあと、ふはっと吹き出した。
「なんやの、みんなして!」
あははっとおかしそうに笑いながら真優は続ける。
「みんなに送ってもらうとか、お姫さまになった気分やわ」
「実際そうやろ。わがまま姫さま」
謙也のやるせなさそうな声に、笑い声が響いた。
真優の笑顔に謙也の表情が柔らかく緩む。
――真優は気付いてへんかもしれんけど……。
分かりやす。
にぎやかな帰り道。
不意に、真優がぱっと顔を上げて「アイス食べて帰ろ!」と、無邪気に声を弾ませた。
俺たちは一瞬目を丸くして黙り込んだけど、次の瞬間、誰からともなく声を上げる。
「ええな!」
「俺チョコミント!」
「あずき一択でしょ」
「は? いちごやしな」
ぎゃいぎゃい盛り上がる中、謙也だけは反応が遅れた。
なんでやろ? と思って見れば、あいつ絶対に真優の隣、他ん奴割り込ませへんように歩幅合わせとって。
それに気付いた瞬間、俺は吹き出した。
――あの誰よりも先にアイス買いに行きそうな謙也が?
そんなことある?
浪速のスピードスターの名折れやんか。
くくくっと笑いかみ殺してれば、不意に財前の訝しげな視線が向けられた。
「何笑とるんです?」
「いや、なんも……」
俺はそっと真優の背中に視線を送った。
なあ、真優。知っとるか?
部活ってこういうときのためにあるんやで。
なんでもかんでも、一人で背負い込まんでええように。
それから、ふっと空を見上げる。
明日から、夏休み。
関西大会、全国大会――そして、真優のコンクール。
一年でもっとも大切な勝負の季節が始まる。
そんな静かな闘志を燃やす俺たちの影を夕日が長く伸ばした。
真優は相変わらず、せかせか動いて俺らのサポートをしてくれとる。
被害を受けたなんて、おくびにも出さずいつも通りに過ごしとる。
本人がそれを望むなら。
これ以上の心配は最小限にせなあかん。
俺はふっと息を吐き出し、ボールを宙に投げた。
「いくで!」
打撃音とともに、サーブを放った。
□ + ◇ + □
その日の帰り、なんや揉めとる謙也と真優を見かけた。
なに言い合ってんねやろ思て、聞き耳立てれば「せやから、家まで送るって!」という謙也の声が聞こえてきて。
そら、被害の様子をリアルに見とる謙也からしたら、犯人が捕まったとはいえ、一人で帰らせるのは抵抗があるんやと思う。
真優は真優で「や、もう大丈夫やで!……多分」とか言っとるし。
真優が気にしてるんは、あの母親のことやろな、と俺は小さく笑ってしまった。
――謙也、思いっきり叩かれてるもんな。
ただ、このままやと埒が明かなさそうや。
そう思って俺は割って入った。
「ほんなら俺も送ろか」
途端に謙也と真優の目が見開かれ、言い合いが止まった。
――なんやねん。
似た者同士やな、こいつら。
そこへ、頭の後ろで手を組んだ財前がやってくる。
「俺も行きますわ」
続いて千歳が「よかねー」と続けた。
「俺も行くばい」
続々と集まってくる人数に、真優の目がまん丸くなる。
「あーん、財前きゅんが行くならウチも」
「小春が行くなら俺も行くで!」
「ワイも! なんやオモロそうやなぁ!」
「金太郎はんが行くなら、わしも行こか」
「なら、俺もやな」
真優は数回瞬いたあと、ふはっと吹き出した。
「なんやの、みんなして!」
あははっとおかしそうに笑いながら真優は続ける。
「みんなに送ってもらうとか、お姫さまになった気分やわ」
「実際そうやろ。わがまま姫さま」
謙也のやるせなさそうな声に、笑い声が響いた。
真優の笑顔に謙也の表情が柔らかく緩む。
――真優は気付いてへんかもしれんけど……。
分かりやす。
にぎやかな帰り道。
不意に、真優がぱっと顔を上げて「アイス食べて帰ろ!」と、無邪気に声を弾ませた。
俺たちは一瞬目を丸くして黙り込んだけど、次の瞬間、誰からともなく声を上げる。
「ええな!」
「俺チョコミント!」
「あずき一択でしょ」
「は? いちごやしな」
ぎゃいぎゃい盛り上がる中、謙也だけは反応が遅れた。
なんでやろ? と思って見れば、あいつ絶対に真優の隣、他ん奴割り込ませへんように歩幅合わせとって。
それに気付いた瞬間、俺は吹き出した。
――あの誰よりも先にアイス買いに行きそうな謙也が?
そんなことある?
浪速のスピードスターの名折れやんか。
くくくっと笑いかみ殺してれば、不意に財前の訝しげな視線が向けられた。
「何笑とるんです?」
「いや、なんも……」
俺はそっと真優の背中に視線を送った。
なあ、真優。知っとるか?
部活ってこういうときのためにあるんやで。
なんでもかんでも、一人で背負い込まんでええように。
それから、ふっと空を見上げる。
明日から、夏休み。
関西大会、全国大会――そして、真優のコンクール。
一年でもっとも大切な勝負の季節が始まる。
そんな静かな闘志を燃やす俺たちの影を夕日が長く伸ばした。