10話:STORM!!
入賞者コンサート当日、私たちソリストは楽屋で昼食を取っていた。
今朝、会場入りした私たちの顔には疲労が浮かんでいて『ああ、ハードな一ヶ月を過ごしたんやな』って、ひと目で見て取れた。
私には以前より若干薄くなったものの、クマが残っとるし、華南ちゃんはなんとなくやつれた気がする。
瀬戸くんは、目から光が失われとって。
「や、ぶっちゃけ一ヶ月でピアコンってどうよ」
最後のゲネプロのあと、楽屋に戻ってきた華南ちゃんがぽつりと言った。
「あほかな? 思た」
「頭おかしいよな」
私と瀬戸くん、それぞれがため息交じりに答える。
「ある意味、コンクールより気ぃ使ったわ」
そんなことをぼやきながら、華南ちゃんはサンドイッチを口に運んだ。
全くもってその通り過ぎて、私は「ねー……」とだけ返し、おにぎりをかじる。
「もう充分えらいよ、俺ら」
「それはそう。自分のこと褒めなやってられん」
「本番終わったら、今度こそ寝れるかな」
思い思いのことを口にし、一斉にため息を吐いた。
いや、本当。
それくらい厳しい一ヶ月やったってこと。
ずんっと重い空気の中、華南ちゃんが気を取り直したように「そういえば……」と私を見てくる。
よく分からず首を傾げると、途端に悪戯っ子のような表情を向けられた。
「今日もあの子ら来るん?」
「あの子ら?」
「コンクールのときに来とったよう目立つお友達!」
そう言われて、私はああ! と合点する。
「午前で部活切り上げて来てくれるって言うとったよ」
私がそう答えれば、華南ちゃんは「ほーん」とニヤニヤ楽しそうに笑った。
絶対なんか企んどる。
「……なに?」
一応、聞いてみれば華南ちゃんは「孝ちゃん、孝ちゃん!」と瀬戸くんに呼び掛ける。
「今日、真優ちゃんの好きな子ぉ来るんやって!!」
「はっ!? ちょっ、何言うてんの?」
「そーか。よかったな」
反射的に顔が赤くなる。
こんな反応、華南ちゃんの思うつぼなんやろうけど。
私はうぐっと呻いて口をつぐんだ。
「いやー、楽しみやなぁ。どの子なんやろなぁ……」
華南ちゃんが頬杖をついて、思い出すように目を細めている。
そう言えば、コンクールの日「みんなの顔覚えていく」とか言うてた。
ぞっとおぞけが走る。
つい固まってしまった私に瀬戸くんの諦めろ、という視線が向けられた。
「小鳥遊、覚悟しといたほうがええで」
淡々と諫める瀬戸くんの声が遠くの方で聞こえた。
「淡路、マジで容赦ないからな」
「ええ……」
そういえば、瀬戸くんに彼女ができたとき、華南ちゃんが散々からかって遊んどったっけ?
あのときの、瀬戸くんの狼狽えようときたら、見ているこちらが気の毒になるほどやった。
華南ちゃんは先ほどまでの、やつれ具合はどこかへ行ってしまった様子で楽しそうに笑っている。
私は、現金だなぁと思いつつ、小さな笑みをこぼした。
――どうやったって、この子止まらんやろ。
このときの私はまだ知らんかった。
淡路華南という人物の狂行を――。
今朝、会場入りした私たちの顔には疲労が浮かんでいて『ああ、ハードな一ヶ月を過ごしたんやな』って、ひと目で見て取れた。
私には以前より若干薄くなったものの、クマが残っとるし、華南ちゃんはなんとなくやつれた気がする。
瀬戸くんは、目から光が失われとって。
「や、ぶっちゃけ一ヶ月でピアコンってどうよ」
最後のゲネプロのあと、楽屋に戻ってきた華南ちゃんがぽつりと言った。
「あほかな? 思た」
「頭おかしいよな」
私と瀬戸くん、それぞれがため息交じりに答える。
「ある意味、コンクールより気ぃ使ったわ」
そんなことをぼやきながら、華南ちゃんはサンドイッチを口に運んだ。
全くもってその通り過ぎて、私は「ねー……」とだけ返し、おにぎりをかじる。
「もう充分えらいよ、俺ら」
「それはそう。自分のこと褒めなやってられん」
「本番終わったら、今度こそ寝れるかな」
思い思いのことを口にし、一斉にため息を吐いた。
いや、本当。
それくらい厳しい一ヶ月やったってこと。
ずんっと重い空気の中、華南ちゃんが気を取り直したように「そういえば……」と私を見てくる。
よく分からず首を傾げると、途端に悪戯っ子のような表情を向けられた。
「今日もあの子ら来るん?」
「あの子ら?」
「コンクールのときに来とったよう目立つお友達!」
そう言われて、私はああ! と合点する。
「午前で部活切り上げて来てくれるって言うとったよ」
私がそう答えれば、華南ちゃんは「ほーん」とニヤニヤ楽しそうに笑った。
絶対なんか企んどる。
「……なに?」
一応、聞いてみれば華南ちゃんは「孝ちゃん、孝ちゃん!」と瀬戸くんに呼び掛ける。
「今日、真優ちゃんの好きな子ぉ来るんやって!!」
「はっ!? ちょっ、何言うてんの?」
「そーか。よかったな」
反射的に顔が赤くなる。
こんな反応、華南ちゃんの思うつぼなんやろうけど。
私はうぐっと呻いて口をつぐんだ。
「いやー、楽しみやなぁ。どの子なんやろなぁ……」
華南ちゃんが頬杖をついて、思い出すように目を細めている。
そう言えば、コンクールの日「みんなの顔覚えていく」とか言うてた。
ぞっとおぞけが走る。
つい固まってしまった私に瀬戸くんの諦めろ、という視線が向けられた。
「小鳥遊、覚悟しといたほうがええで」
淡々と諫める瀬戸くんの声が遠くの方で聞こえた。
「淡路、マジで容赦ないからな」
「ええ……」
そういえば、瀬戸くんに彼女ができたとき、華南ちゃんが散々からかって遊んどったっけ?
あのときの、瀬戸くんの狼狽えようときたら、見ているこちらが気の毒になるほどやった。
華南ちゃんは先ほどまでの、やつれ具合はどこかへ行ってしまった様子で楽しそうに笑っている。
私は、現金だなぁと思いつつ、小さな笑みをこぼした。
――どうやったって、この子止まらんやろ。
このときの私はまだ知らんかった。
淡路華南という人物の狂行を――。