9話:あの人の思い
あの日から、お母さんは何も言ってこない。
コンクールで一位を取ったあの日――テニス部のみんなに会って勇気をもらった私は、お母さんに楯突いた。
それも、多分お母さんが一番傷つく方法で。
『実績つけてから言うて!』
なんて、今考えたらよう言えたなと自分でも思う。
だから、あの日家に帰るのが怖かった。
『帰りたくない』と駄々をこねる私を、謙也くんがどうにか説得して、遅くなる前に帰ったけれど。
私を待っていたのは静寂だった。
ただ、薄暗い廊下に、時計の秒針だけが響く。
いつもなら、ドアを開けた瞬間に飛んでくる指摘や罵倒。
耳をつんざく金切声が鳴りを潜めて静まり返っていた。
――精神的には、いいことなんだろうけど。
正直、戸惑いが隠せなくて。
その夜、胸の奥に言い知れない不安が沈んだ。
翌日も、その翌日も、お母さんは何も言ってこなかった。
いつもなら浴びせられるはずの叱責も皮肉もない。
ただ、静かな日々が続いている。
それが反対に胸を締め付けてくる。
何もないのに、安らぎは感じられなくて、日を追うごとに不安は増すばかり。
尚に言ったら「まあ、お母さんも反省したんとちゃう?」と笑っていたけれど、私はそう思えなくて。
そのうち、特大の爆弾が落ちてくるんやないかと、疑心暗鬼になってしもうとる。
――あの人が反省とかある?
幼い頃、手持ち花火をしていたら、激高したお母さんに火傷を負わされたこと。
おばあちゃんの最期に立ち会わせてもらえなかったこと。
学校に乗り込んできて謙也くんに怪我をさせたこと。
あげ出したらきりがない愚行の数々。
そのせいで、私はお母さんを信じられない。
毎日、魂が抜けたように動いている姿を見るけれど、それでも許せなくて、私はふいっと視線を逸らしてしまう。
きっと、今までつらいことから目を背け続けてきたツケが回って来てるんやと思う。
私は――お母さんと向き合うことができない。
コンクールで一位を取ったあの日――テニス部のみんなに会って勇気をもらった私は、お母さんに楯突いた。
それも、多分お母さんが一番傷つく方法で。
『実績つけてから言うて!』
なんて、今考えたらよう言えたなと自分でも思う。
だから、あの日家に帰るのが怖かった。
『帰りたくない』と駄々をこねる私を、謙也くんがどうにか説得して、遅くなる前に帰ったけれど。
私を待っていたのは静寂だった。
ただ、薄暗い廊下に、時計の秒針だけが響く。
いつもなら、ドアを開けた瞬間に飛んでくる指摘や罵倒。
耳をつんざく金切声が鳴りを潜めて静まり返っていた。
――精神的には、いいことなんだろうけど。
正直、戸惑いが隠せなくて。
その夜、胸の奥に言い知れない不安が沈んだ。
翌日も、その翌日も、お母さんは何も言ってこなかった。
いつもなら浴びせられるはずの叱責も皮肉もない。
ただ、静かな日々が続いている。
それが反対に胸を締め付けてくる。
何もないのに、安らぎは感じられなくて、日を追うごとに不安は増すばかり。
尚に言ったら「まあ、お母さんも反省したんとちゃう?」と笑っていたけれど、私はそう思えなくて。
そのうち、特大の爆弾が落ちてくるんやないかと、疑心暗鬼になってしもうとる。
――あの人が反省とかある?
幼い頃、手持ち花火をしていたら、激高したお母さんに火傷を負わされたこと。
おばあちゃんの最期に立ち会わせてもらえなかったこと。
学校に乗り込んできて謙也くんに怪我をさせたこと。
あげ出したらきりがない愚行の数々。
そのせいで、私はお母さんを信じられない。
毎日、魂が抜けたように動いている姿を見るけれど、それでも許せなくて、私はふいっと視線を逸らしてしまう。
きっと、今までつらいことから目を背け続けてきたツケが回って来てるんやと思う。
私は――お母さんと向き合うことができない。