8話:夏夜の距離と線香花火

結局、真優は手持ち花火を一つもすることがないまま、手持ち花火が底をついた。
みんな徐々に線香花火に移行していく。
すると、真優は「うちも線香花火はやろーっと」と言って、ふっと立ち上がった。

「謙也くんもする?」
「ほんなら、しよかな」

真優は俺がそう言うのを待ってました、とばかりに笑みを深めると鞄の中から、まだ開封していない線香花火を一つ取り出した。

「うち、線香花火は好きなんよ」

線香花火の先に火をつけてしばらく待つ。
小さな朱色の火球がぷっくりし始め――星のような火花がきらめく。

パチパチパチっとはじける火花を見つめながら、真優が何てことなさそうに「むかし」と口にした。

「尚とあと近所に住んどった友達と花火しとるときに、火傷してもうてな」
この辺、と指さしたのは左の脇腹あたり。
「今でも結構しっかり痕残っとってさ」

真優はなんてことなさそうに話しとるけど。

花火ごときでそんな痕残るほどの火傷する? なんて疑問が浮かぶ。
ただ――。

俺はそっと真優を覗き見た。
女の子やし、皮膚とか薄そうやしな……。

そんなこと考えて、勝手に赤なって自滅した。

何あほなこと考えてんねん!?
なんて、自分自身に突っ込んで呻いとったら、真優の呆れ口調の声が続けて言った。

「やから、実は手持ち花火ちょっとだけ怖いんよ」

その言葉に納得してしまう。
真優がさっき手持ち花火を一個もせえへんかった理由。

同時に、俺は眉根を寄せた。

「ほんなら、今日無理して来んでも」

まあ、来てくれて嬉しいんはほんまやけど。
だからって苦手なことさせたいわけとちゃうし。

そんなことを考える俺に真優は「ううん」と続けた。

「夏っぽいことしたかったし。線香花火は好きやし」
「無理してへん?」
「してへん、してへん! みんな楽しんどんの見とったら満足したしな」

遠くから見る手持ち花火きれかったし、と付け足す真優の顔に嘘はなくて。
俺はそっと胸をなでおろした。

瞬間、同時に線香花火が落ちた。

「あっ」という声が重なって、目が合った。
同時にどちらともなく息を飲む。

真優の水色の瞳が熱に揺れている。
それが、単純に花火の熱なのか、雰囲気にのまれた熱なのか、俺には分からない。
けど、俺の目も――多分、熱に浮かされとって。

「一緒やったなぁ」
「……せやな」

――ほんま、一緒の気持ちやったらええのにな。

今更になって思う。

初めて見たときから惹かれとった。
舞台の上でピアノ弾いとる姿から目離せんで、話してみたら気さくで楽しいて。
気ぃ付いたら、なによりも大事になっとった。

今にも手を伸ばして、触れそうになる衝動をどうにか押さえて、俺は二本目の線香花火に手を伸ばした。
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