7話:Re:start

「や、美味しそう!」

地元に戻ってきて、ラーメン屋のカウンター席に横並びで座る。
俺たちの目の前で、出来立ての醤油ラーメンから湯気が立ち上った。

真優は髪を耳に掛けると、早速といった調子で割り箸に手を伸ばして。
あまりにも嬉しそうにしとるから、俺は小さく笑ってしもた。

「何? そんなに気に入ったん、ここのラーメン」
同じように割り箸に手を伸ばしながら、そう聞けば「うん」と軽やかな返事が返って来て。
「すごい美味しかったさかいに」
真優は割り箸を割ると、手を合わせて「いただきます」と麵をすすり始める。

真優に倣うようにして、俺も「いただきます」と一言言うてから、ラーメンをすすった。

まあ、確かに旨い。

黄金色に澄んだスープも、細めの麺も。
昔ながらっていうたらアレかもしれんけど、なんや落ち着く味なんよな。

「沁みる……」
しみじみと身体を震わす真優に「分かるわ」なんて相槌を打てば、楽しそうな笑い声が返ってきた。

「こないださ」

黙々とラーメンを食べ進めとった真優が、ニコニコと口を開く。

「うん?」
「謙也くんのお母さんにここ連れてきてもろたやん?」
「おん」
「ほんま安心したーっていうか、ほっとする味やってな」

箸をラーメンに残したまま、視線だけを彼女に向けた。

付きまといの被害に遭って、やっと解放された安堵感の中食うたから、格別に旨く感じたんやろな。
なんて、レンゲにスープをすくう真優を見て、そっと口角を上げる。

真優はスープを一口飲むと、幸せそうな表情で続けた。


「やのに、家帰ってから全部戻してしもて」


麺持っとった手が、凍り付いたみたいに止まった。

……こいつ、今何言うた?

頭が真っ白になった俺とは裏腹に、真優は「やから、もっかいちゃんと食べたかったんよねぇ」とか、なんてことなさそうに言うとるけど。

「は?」

こぼれ落ちた俺の一言に、真優はどないしたん? みたいな視線を向けとる。
しばらく無言で見つめ合っとったら、ぽつりと「あ……」っちゅー、やってしもたみたいな声が聞こえてきて。

真優はすすすっと俺から視線を逸らすと、小さくなって麺をすすり始めた。
そんな彼女の横顔にじっとりと視線を向けていれば、やがて「いや、ちゃうねん」と、しどろもどろに言葉を紡ぎ出す。

「お腹も空いとったし、ラーメンも美味しかったよ」
「ほーん?」
「やけど、こう――胃が、びっくりしてもうて?」
「へぇ」

俺から返される生返事に耐えられんくなったんか、真優は一度箸とレンゲを置くと、短く息を吐き出した。

「なんや状況が異常やったやん!?」

過剰なストレスに身体が耐えきれんで吐いた、と。

まあ、気ぃ張っとったしな?
恐かったやろし、あんなんすぐ忘れられるわけないやろうし。そら胃もパニクるのも分かるけど……。
家、帰してからそんなことなっとったなんて。

ため息がこぼれ落ちる。

真優は更に縮こまると、ちゅるりと麺をすすった。

「……あんなん、初めてやってんもん」

そら、あんなんがしょっちゅうやって言われる方が頭痛なるけどやな。
ただ、真優にしてみれば、ほんまにショックやった出来事には変わりなくて。

俺はやるせなさに頭を掻き「今は?」と、ぶっきらぼうに問い掛けた。

「え?」
「今は平気なん? ちゃんと食えてる?」
「あ、うん。それは問題なく……」

尻すぼみに「一時的なもんやったさかい」と続けた真優を一瞥すると、俺は「すんません」と店員を呼んだ。

威勢の良い返事と共に、寄ってきた店員にメニュー片手に口を開く。

「味玉追加で。あとチャーシュー丼も」
「え……っと、謙也くん?」
「替え玉もお願いします」

言い切って、パタンとメニューを閉じた。
同時に、厨房でジュッと油が跳ねる音がする。

困惑の乗った真優の瞳を見つめ返して、したり顔で言い切った。

「食べれるとこまで食べや」

真優の目がぎょっと見開かれ、ほんのわずかに宙を泳ぐ。

「……替え玉は無理かも」
「ほな、それは食べたる」
「チャーシュー丼も全部はちょっと……」
「じゃあ、それは半分こ」

ラーメンすすりながら答える俺に、真優の小さな笑い声が聞こえてきて。

「無茶苦茶やな」
「好きに言えや」

笑い声と共に、真優が再び麺をすすり始めた。

――うん。
やっぱめっちゃ旨そうに食うやん。
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