7話:Re:start

応接スペースに腰掛けると、おっちゃんは「さてと……」とルーペ片手にネックレスを見始めた。

「さっきも言うたけど、随分けったいな壊れ方しとるな」
「はい」
「なんや、着けとるときに引っ張られたんか?」
「そんなところです」

おっちゃん、ネックレス見ただけで壊れ方分かるんか。
なんて、心の中で感心していると、おっちゃんは真優に向かって「痛かったなぁ」と告げた。

瞬間、真優の目が見開かれる。
まるで、そんなことを言われるなんて一切思っていなかった表情でおっちゃんを凝視して。

「ほっそいチェーンやけど、腐ってもプラチナや。あほほどの力で引っ張ったんやな、そいつ」
「ええ、まあ……」
「首、傷できへんかったか?」

おっちゃんの問い掛けに俺は心臓が一拍強く脈打った。

――真優も怪我しとったん?

そっと覗き見れば、バツが悪そうな顔をした真優と目が合った。
真優はすっと俺から視線を逸らすと「うちはかすり傷だけです」と告げる。

無意識に首元に添えられた手の近くに、今も残る赤い筋があって、俺は真優にバレんように拳を握った。

ほんま俺、自分のことばっかや。
あんとき、真優も痛かったのに。

「うちも怪我しましたけど、そんときは謙也くんの方が酷い怪我負ってしまって」

おっちゃんがルーペでネックレスを見ながら「そういえば言うとったな」と続けた。

「謙也がえらい別嬪さん連れてきた思たら、ほっぺ思きし腫らして帰ってきたって」
「いや、おとんしゃべり過ぎちゃうか」

なんで俺の事情おっちゃんにまで筒抜けなんよ。
頭痛くなってきたわ。

「ま、ええ男やろ? こいつ」

おっちゃんは、ルーペを机に置くと真優を真っ直ぐに見て言った。

何言うてんねん!? と思ったけど、意外にも真優の口からは「そうですね」という肯定の言葉が告げられた。

「謙也くん、優しいし、いじり甲斐あるし」
「いじり甲斐ってなんや、いじり甲斐って」
「ほんま、ええ男ですよ。謙也くん」

なんて笑う真優に目が奪われる。
ただ、これは真優が可愛ええからとか、そういうんやなくて。
なんや、そういう風に見てくれとったんかっていう、純粋な驚き。

おっちゃんの視線が一瞬俺に向けられ、それから安心したように「そうか」と笑った。

――あー……。
この話、おとんにいくな。

家帰ったら、何言われるか分からん。
そんなことを考えとる俺の横で、真優が不安げにぽつりと口にした。

「ネックレス、どないでしょうか?」

おっちゃんは、改めて真優に向き直ると「修理自体は可能やで」と告げる。

「ほんまですか!」
「ただ、少し時間頂戴な」

おっちゃんの話によると、引き千切れたチェーンを繋ぐことはすぐにでも可能やそう。
やけど、綺麗に直そうとすると、パーツを作るところから始めなあかんらしい。

「どのくらい、かかりそうですか?」

真優が尋ねる。
おっちゃんは近くにあったカレンダーを手繰り寄せると、九月の中頃を指さした。

「少なく見積もって一ヶ月弱やな」
「このネックレス構造が少し複雑やから」

真優は「分かりました」と言って、ほぅっと息を吐いた。
肩の力が抜けて、ほんまに安心したっていう空気がこっちにまで伝わってくる。

――よかったな。
ずっと気に揉んどったもんな。

帰り際、立ち上がった俺におっちゃんは「そういえば、侑士元気か?」と聞いてきた。

「侑士? 元気やで」

突然やな、と思いつつ俺は「なんで?」と聞き返す。

「あいつ引っ越しよったやろ? せやから、もう随分長いこと見てへんな思て」
俺は「せやな」と同意すると、続ける。

「こないだ会うたよ。東京住んどってな、相変わらずやわ」
「ほーん。まあ、また顔見せに来いって言うといて」
「分かった」

俺はそういうと、隣の真優に「ほな、行こか」と声を掛けた。
真優は「うん」と頷くと、最後もう一度だけおっちゃんに頭を下げた。

「ほんなら、よろしくお願いします」
「任せとき」

軽く手を上げるおっちゃんを店に残して、俺たちは夜の大阪に足を踏み出した。
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