7話:Re:start
カランカランと扉についたベルが鳴る。
久々に入った店は昔と何も変わっとらん。
俺はポケットに手を突っ込みながら、ぐるりと一周見渡した。
壁にかかった柱時計も、飴色になった籐の椅子も、何も変わってへん。
カウンターのガラスケースの端っこの方についた小さい傷は、昔この場所で侑士と喧嘩したときにできたもんや。
あんときは、自分の親やないのに、侑士とあほほど怒られたな。
そんなことを考えていると、店の奥から店主が顔をのぞかせた。
「こんな時間誰や思たら、謙也やないか」
「おん、久しぶりやなおっちゃん」
店主と気軽に話し始める俺に、真優の目が白黒する。
「え? 知り合い?」
俺は真優の方を向くと頷いて返した。
「おとんの友達なんよ、この人」
おっちゃん――徹也おじさんは、昔俺のおとんに命救われた元患者で、現おとんの趣味友。
うちに来て飯食うたりしとったけど、最近は外で会うことの方が多かったみたいで、俺とは会うてへん。
「でかなったなぁ。今いくつや?」
「十四。中三や」
「ははあ、もうそんななるか」
おっちゃんは「なんや、近く寄ったから顔でも出したんか?」と聞いてきた。
俺は「ちゃうちゃう」と続ける。
「おっちゃんに用があるんは俺やのうて――」
俺はそう言って、真優の方を向いた。
おっちゃんの視線が真優に向けられる。
真優は呆気にとられた様子で、俺とおっちゃんを交互に見る。
それからカウンターにネックレスをおずおずと置いた。
「ネックレスを修理に出したくて」
おっちゃんは「どれ……」とネックレスを手に取って見つめている。
ややもすると、訝しげに眉をひそめて唸った。
「なんや、えらいけったいな壊れ方したなぁ」
おっちゃんのその言葉に、真優のネックレスが引き千切られたときの情景が思い出される。
ものすごい剣幕で、首に掛けたままのネックレスを引き千切った真優のおかん。
あのとき、真優どんな気持ちやったんやろ。
なんて今更ながら思い返しとると、不安げな真優の声がこぼれ出た。
「祖母から譲り受けたもので、とても大切なものなんです」
「お代はいくらかかっても構いません」
「綺麗に直していただけないでしょうか」
真優の切な訴えに、おっちゃんはネックレスから視線を上げると「ほなら、じっくり見たいさかい、お茶出そか」と言った。
それから、俺に向かって「謙也、手伝ってくれるか」と声を掛けてくる。
俺は真優に「ちょお待っとってな」と一言声を掛け、おっちゃんの後を追った。
□ + ◇ + □
おっちゃん家の台所でグラスに氷とお茶を注ぐ。
「俺、要ったか? これ」
思わず文句を言えば、おっちゃんは淡々と「えらい別嬪さん連れてきたな」と返してきた。
その瞬間、察した。
――手伝い口実やな、このじじい。
俺はぐっと息を飲むと、短く吐き出して「同じ部活の子や」と端的に答えた。
「ほーん」
「なんや、ほーんて」
「彼女?」
「彼女やない」
「なんや、惚れてんのかと思たのに」
「っ! 惚れて――っ!」
勢いのまま否定するつもりやったのに、なんや今日はその気分になれなくて。
俺は言葉を飲み込むと、長く息を吐き出した。
「惚れとるよ」
そうはっきり告げれば、おっちゃんは意外そうに目を見開いて、ただ一言「そうか」と言った。
茶化されるやろな、って警戒しとったからおっちゃんの反応に拍子抜けしてしまう。
「お前、ええ男なったな」
「……なんやねん、それ」
不意に囁かれた言葉に、俺は思わず吹き出して答える。
少し顔が熱い気がするけど、嫌やなかった。
飲み物持って店に戻れば、真優は興味深そうにガラスケースを覗き込んどった。
おっちゃんは「ほんなら、あっち移動しよか」と、店の隅の方にある小さな応接スペースを指し示す。
久々に入った店は昔と何も変わっとらん。
俺はポケットに手を突っ込みながら、ぐるりと一周見渡した。
壁にかかった柱時計も、飴色になった籐の椅子も、何も変わってへん。
カウンターのガラスケースの端っこの方についた小さい傷は、昔この場所で侑士と喧嘩したときにできたもんや。
あんときは、自分の親やないのに、侑士とあほほど怒られたな。
そんなことを考えていると、店の奥から店主が顔をのぞかせた。
「こんな時間誰や思たら、謙也やないか」
「おん、久しぶりやなおっちゃん」
店主と気軽に話し始める俺に、真優の目が白黒する。
「え? 知り合い?」
俺は真優の方を向くと頷いて返した。
「おとんの友達なんよ、この人」
おっちゃん――徹也おじさんは、昔俺のおとんに命救われた元患者で、現おとんの趣味友。
うちに来て飯食うたりしとったけど、最近は外で会うことの方が多かったみたいで、俺とは会うてへん。
「でかなったなぁ。今いくつや?」
「十四。中三や」
「ははあ、もうそんななるか」
おっちゃんは「なんや、近く寄ったから顔でも出したんか?」と聞いてきた。
俺は「ちゃうちゃう」と続ける。
「おっちゃんに用があるんは俺やのうて――」
俺はそう言って、真優の方を向いた。
おっちゃんの視線が真優に向けられる。
真優は呆気にとられた様子で、俺とおっちゃんを交互に見る。
それからカウンターにネックレスをおずおずと置いた。
「ネックレスを修理に出したくて」
おっちゃんは「どれ……」とネックレスを手に取って見つめている。
ややもすると、訝しげに眉をひそめて唸った。
「なんや、えらいけったいな壊れ方したなぁ」
おっちゃんのその言葉に、真優のネックレスが引き千切られたときの情景が思い出される。
ものすごい剣幕で、首に掛けたままのネックレスを引き千切った真優のおかん。
あのとき、真優どんな気持ちやったんやろ。
なんて今更ながら思い返しとると、不安げな真優の声がこぼれ出た。
「祖母から譲り受けたもので、とても大切なものなんです」
「お代はいくらかかっても構いません」
「綺麗に直していただけないでしょうか」
真優の切な訴えに、おっちゃんはネックレスから視線を上げると「ほなら、じっくり見たいさかい、お茶出そか」と言った。
それから、俺に向かって「謙也、手伝ってくれるか」と声を掛けてくる。
俺は真優に「ちょお待っとってな」と一言声を掛け、おっちゃんの後を追った。
□ + ◇ + □
おっちゃん家の台所でグラスに氷とお茶を注ぐ。
「俺、要ったか? これ」
思わず文句を言えば、おっちゃんは淡々と「えらい別嬪さん連れてきたな」と返してきた。
その瞬間、察した。
――手伝い口実やな、このじじい。
俺はぐっと息を飲むと、短く吐き出して「同じ部活の子や」と端的に答えた。
「ほーん」
「なんや、ほーんて」
「彼女?」
「彼女やない」
「なんや、惚れてんのかと思たのに」
「っ! 惚れて――っ!」
勢いのまま否定するつもりやったのに、なんや今日はその気分になれなくて。
俺は言葉を飲み込むと、長く息を吐き出した。
「惚れとるよ」
そうはっきり告げれば、おっちゃんは意外そうに目を見開いて、ただ一言「そうか」と言った。
茶化されるやろな、って警戒しとったからおっちゃんの反応に拍子抜けしてしまう。
「お前、ええ男なったな」
「……なんやねん、それ」
不意に囁かれた言葉に、俺は思わず吹き出して答える。
少し顔が熱い気がするけど、嫌やなかった。
飲み物持って店に戻れば、真優は興味深そうにガラスケースを覗き込んどった。
おっちゃんは「ほんなら、あっち移動しよか」と、店の隅の方にある小さな応接スペースを指し示す。