7話:Re:start

夕刻の迫った大阪の街を並んで歩く。
会場を後にするとき、真優が言ったのは「彫金屋さんに行きたい」という要望やった。

コンクールも無事終わったし、これ以上壊れてしまわんうちにネックレスを修理に出したいんと思う。
俺はそれを快諾すると、「ほな、早よ直してもらおな」と笑った。

「この辺やと思うんやけど……」

真優の手元には住所の書かれた地図。
さっきからそう言っては、うーんと唸っている。

――真優、地図見れへんのやな。

いや、悩んでるんは正直可愛ええ。
可愛ええけどっ!
このままやと埒が明かん。

俺はひょいっと真優の手から地図を奪い取った。
……真逆やんけ。

俺は改めて、地図と周囲を眺めると「こっちやわ」と、今しがた進んでいた方と逆に歩みを進める。
真優は小走りになって俺の隣に並んだ。

ああ、歩くん速いか。

俺は真優に気付かれへん程度に歩く速さを緩めて、手を取った。

触れた瞬間、俺の心臓が一拍強く打つ。
自分から触れたくせに、心臓爆発しそうになっとって、情けない。

真優の指がどうしていいか分からず、ピクリと揺れた。

「……謙也くん、あの」

真優の小さく熱を持った声が耳に届く。
俺は地図に視線落としたまま「堪忍やけど、我慢してや」と続けた。

「自分、いつ迷子になるか分からんわ」

半分本当、半分嘘や。
ふらっとどっか行かれたら、二度と会えん気がするって思ったんはほんま。

あとは――流れでとはいえ『好きや』言うてもうたんやったら、隠してももう遅い。
そんな感じがしたから。

真優が呻く。
地図が読まれへんっていう、自覚はあるっぽい。
それから真優はそっと俺の手を握り返してきた。
その感覚に俺はほっと表情を緩める。

安堵感はあるものの、照れくささから俺は真優の方を見られない。
話さんことには気まずうて、俺は思わず問い掛ける。

「初めて行くとことかどないしてんの?」
こんだけ地図読まれへんかったら、死活問題やろ。
「いろいろ諦めて、タクシー使うんよ」
真優のしょぼくれた声が返ってきて、俺は思わずふっと笑った。
「まあ、タクシーやったら間違いないな」

真優は笑われたことに対して、わずかに眉根を寄せる。
やけど、すぐにいつもの表情に戻って「謙也くんは、地図分かるんや」と感心したように俺の横顔を覗き込んだ。

「これくらいやったら」
「うち、全然読めんから素直に尊敬するわ」
「やろな。さっき進んでたん、目的地と真反対やったで」

そう告げれば、真優は「いやぁ」と、照れくさそうに頭を掻く。

「それほどでも……」
「褒めてへんわっ!」

思わず突っ込んで真優を見れば、楽しそうに笑っとって、なんだか拍子抜けしてしまった。

少しは元気になった。

そう思えたことに、胸の奥でほっと息を吐く。
真優の一喜一憂に振り回されとる自分に呆れつつ、再び地図に視線を落とす。

不意に、地図の文字に目が止まって、俺は首を傾げた。

これ、おとんの字や。
真優が俺と一緒になって、地図を覗き込んだ。

「こないだ、謙也くんのお父さんにネックレス直してもろたやろ?」
「おん」
「そんときにな、彫金屋さん持ってくならここがええよって教えてもろて」
「そやったん」
「うん」

俺は数多ある大阪の路地をすいすい通って、目的地に向かう。
彫金屋に近付くにつれ、周囲の景色に見覚えがあって、思わず首をひねった。

目の前に小さいながらも老舗の風格の店が鎮座していた。
正直な話、俺はここに何度も来とる。

「ここ?」
真優が俺を覗き込んだ。
「おん。ここ……」

俺は目の前の店と住所、それから地図のマークを数回見比べて、頷いた。
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