6話: You are the most important to me.

あれから、しばらく私は泣き続けた。
泣いて、泣いて――涙が枯れてしまっても、しばらくは謙也くんから離れられなくて。

――あったかい。

謙也くんは、私の心がこれ以上壊れないように包み込んでくれる。
お母さん切り捨てて、生きること諦めようとした醜い感情ごと、そっと丁寧に包帯巻いてくれた。

真優はそのまんまでええねんで、って。

完全に治りきるには時間がかかるやろうし。
もしかしたら、完全に治らんかもしれへん。
でも――。

全部さらけ出しても、謙也くんが受け止めてくれる。
そう思った瞬間、心の中の重しがふっと軽くなった気がした。

私はそっと謙也くんの胸を押す。

「……もう、大丈夫。ありがとう」
「おん、そうか」

謙也くんは私を腕の中から解放すると、それでも心配そうな視線で覗き込んでくる。
私は泣き腫らした目のまま、謙也くんを真っ直ぐ見た。

「ごめんな」

最初に出た言葉は謝罪やった。それから――。

「あないにドロドロなもん見せてもて」
「……気にしぃな。今まで気張ってた証拠やろ」
「それでも……」

私はぎゅっとドレスの裾を握った。
ゆっくり息を吸い込んで、一つ、一つ言葉を紡ぐ。
誤解のないように、自分自身にも言い聞かせるように。

「ああは言うたけど、うち死ぬつもりはないから」
「……」
「ただ、ほんまに意味あるんか分からんくなってしもて」
「おん」
「不安になってしもたかもしれへんけど。うち、ちゃんと生きたいって思うとるから」
「分かった」

私は謙也くんのやるせないながらも、承知してくれた返事にそっと笑みを返す。
ただ、笑みといっても口角がほんの少し上がっただけ。
それが、今できる精一杯やった。

「ありがとうな、謙也くん。心ごと守ってくれて」

心からの言葉を告げれば、謙也くんはうしろ手をついて私を安心させるように笑った。

「当たり前や! 俺は真優が一番大事やからな!」

肩の力が抜ける。
この人、ほんま優し過ぎやわ。

「……そない言うてくれるん謙也くんくらいやわ」

小さく吐き出すように呟いた声は、きっと謙也くんには聞こえてへん。
私はよいしょっと立ち上がると、いまだ座り込んでいる謙也くんに「このあと時間ある?」と聞いた。
謙也くんは私と同じように立ち上がると「あるけど」と、首を傾げる。

「ほんなら、少し付き合うてくれん?」
憂さ晴らし。そう付け足せば、謙也くんの表情がようやく和らいだ。

「ええで! 大阪のことやったら俺に任せとき!」
「頼もしなぁ」

――謙也くんは優しい。

きっと、あんなもん見せられて参ってるはずやのに。
うちのわがまま付き合うて。
ほんま、飛び切りのあほやわ。

謙也くんは明るい表情のまま、その場から動かない。
……謙也くんが、動いてくれな私は動かれへん。

「……あのぅ、謙也くん」

おずおずと声を掛ければ、謙也くんは「なんや!? 何したいか決まったか?」と声を弾ませている。
私は「そうやな、したいことはあんねん」と申し訳なさそうに告げる。

「なんや? 何でも言うてみい!」
「着替えたいんやけど」

そう告げれば、謙也くんが固まった。
さすがに、ドレスで大阪の街を歩いたらちょっとした騒ぎになってしまう。

「ちょっとだけ、楽屋の外で待っとってくれん?」

謙也くんは途端に赤くなって「す、すまんっ!」と、一瞬で楽屋の外に出ていった。
バタンと扉が閉まる音が響いて。

私はやれやれとテーブルの上に視線を向ける。
そこには相変わらずイグアナステッカーのスマホが置かれとる。

ほんま、そそっかしい。
やけど――。

謙也くんのスマホを手に取った。

うちが、しんどいとき一瞬で来てくれるんよなぁ。

私はそっと、謙也くんのスマホを抱き締めた。
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