1話:隣のおる理由

体育館に全学年全クラスがすし詰め状態で座る。
クラスごとに男女各一列。
こういうときは大抵、俺の前は謙也で、隣に真優が座ることが多かった。

基本的に私語はせえへんけど、ふっと隣で真優が小さく手ぇ振ってるんが目に入る。

「なにしとんの?」

気になって小声で尋ねたら、真優はおかしそうに「光に手ぇ振ってた」と笑った。

その言葉に二年の方見たら財前と目が合うて、おもろくなってもって絶頂ポーズを取ってみた。
したら謙也も気付いて、でっかく手ぇ振っとる。

財前の冷めた目が向けられて――俺らに迫る影に気付くんが遅れた。

「痛っ!」
「なに遊んどんねん、あほ共」

担任の拳骨が俺と謙也に落とされた。
真優は一瞬、目ぇ見開いたかと思えば顔伏せて笑とるし。
ちらって財前見たら、あいつも肩震わしとるし。

ほんま、散々や。

俺は謙也と見合わせると、口をへの字に曲げ釈然とせんまま視線を壇上に向ける。

気ぃ付いたら教頭の長い話は終わっとって、生徒指導の先生がマイク持っとった。

どうせ、夏休みの生活指導とかの話するんやろうな、と思っていれば、全くもって予想外の話が始まった。

「ちょお真面目な話するでー」
「先日、うちの女子生徒が付きまといの被害に遭った」

途端に体育館全体がわずかにざわつき始める。
謙也の肩が揺れた気がした。

同時に真優の表情も強張った。
強張っただけやない。
話しとる先生を一瞬見たかと思えばすぐ逸らして、膝の上で手を軽く組み直した。

まあ、女子からしたら構えるわな。

「警察から学校に注意喚起の連絡があった。その犯人はもう捕まっとるけど、似たような犯罪も昨今は多い――」

それにしても、犯人て。
随分大事やな。被害に遭った子大丈夫かいな。

「――警察も動いてくれとるけど、女子生徒に限らず男子生徒も日々気を付けて夏休みを過ごすように! 以上」

先生の長い注意喚起の話の間、真優の表情はずっと強張ったまんまやった。
やけど、話が終わると途端に表情が緩んで、膝を抱え直す。

――なんや、ほっとしてる?

不意に謙也が真優の方を向いて小声で話し掛ける。

「……長い話やったな」
「なー、ちょお疲れてしもた」

ゆるりとほほ笑む真優に、謙也は一瞬もの言いたげな目を向けるものの、すぐにいつのも表情に戻って再び前を向いた。

□ + ◇ + □

全校集会を終え、そぞろに教室に戻る中、俺たち三人は体育館出たところで担任に呼び止められた。

「お前ら、全校集会中に何しとんねん!」

腕組み睨みつける担任に、やってもうたなぁ……なんて、頭を掻いて謙也と真優の様子を覗き見る。
謙也は俺と同じような表情浮かべ取って、気まずそうにしとるけど、真優は一人きょとんと眼を丸くして瞬いとる。

それから――真優は一瞬俺らを視界に納めると、担任に向き直って口を開いた。

「や、急にポーズ取り始めてびっくりしました」

その言葉にぎょっとする。
じいっと担任の目見て、まるで俺らに巻き込まれただけみたいに。

担任もしばらく真優をじっと見とったけど、やがて「そらそうやんなぁ」と丸め込まれてしもた。

――こいつっ!
完全に俺らんこと切り捨てよった!?

真優は「ほんま困りますよって」と目を伏せ、にやりとこちらを向く。

してやられた。
けど、と思わず眉根を寄せる。

悪戯な顔はしとる。
嵌められたんも間違いない。
せやけど、なんやろな。

なんとなく、真優の声がいつもよりワントーン軽いような気がする。
あえて明るく振る舞っとるっちゅーか、なんちゅーか。

普段なら言わん小芝居嚙ませてくる感じ?

真優の様子に、ほんの少しの胸の引っ掛かりを残したまま、一学期最後のホームルームが始まった。
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