6話: You are the most important to me.

ガチャっと音を立て、中に飛び込んできたのは――。

「真優ー!!」
「金ちゃん!」

駆け寄ってくる金ちゃんを軽く抱き留めると、私は金ちゃんに目線が合うよう少しだけかがんだ。

「今日ありがとうな! 楽しめたやろか?」
「みんな上手やって、ワイめっちゃ楽しかったわぁ!」

にっこにこの金ちゃんに、私は心底ほっとした。
クラシックコンクールやなんて、慣れてない人からしたら堅苦しいてしゃーないはずやのに。

それに今回に限っては――うち、本気の本気やったさかいに、会場凍らせた気するもん。
なんて思い返しつつ、自省する。

「金ちゃん、いきなり飛びついたらあきません!」
「白石くんも、ありがとうな」

ずるずると、金ちゃんを回収する白石くんに礼を述べれば、ぞろぞろと四天宝寺のみんなが中に入ってきた。

千歳くんに小石川くん、一氏くんと小春ちゃん。それから、銀さんに光。
楽屋に最後に入ってきた謙也くんと目が合って、私はほほ笑んだ。

すぐそばで、華南ちゃんが口元を手で押さえながら、ぽつりと呟く。
「うわっ、ほんまに目立つ集団……」

私は苦笑すると「こちら淡路華南ちゃんと瀬戸孝太郎くん。うちの幼馴染やねん」と紹介した。
瀬戸くんはみんなに「どうも」と会釈すると、荷物を片付け始めた。

「俺、このあと塾なんよ」
「今から?」
「受験生やからな」

そう言って、瀬戸くんは一足先に楽屋を後にした。
出ていく寸前、瀬戸くんは振り返って「淡路も早よ出るんやで」と声を掛ける。

華南ちゃんは瀬戸くんに軽く手を上げて答えると、みんなをじいっと一巡して見た。
それから、私に耳打ちする。


「ほんで? 真優ちゃんが好きな人誰なん?」


耳元で囁かれた言葉を理解した瞬間、私は真っ赤になり「はっ!? ちょっ……え?」と声を上げる。
多分、みんなには華南ちゃんの声は聞こえてへん。
私の動揺した声だけが聞こえとる。

華南ちゃんはケラケラ笑って「分かりやす」と言うと、耳元に口を寄せてもう一度囁いた。

「表彰式んとき、誰か見て恋する乙女の顔なっとったで?」

顔だけやなくて全身真っ赤。多分、背中まで染まっとる。
恥ずかしすぎて、どうにかなってまいそう。

――というか、なんでバレたん……。

華南ちゃんは赤くなって黙り込む私を見ると、満足げにほほ笑んだ。
「今度聞かしてな。みんなの顔覚えていくさかいに」
「……いけず」
私が口を尖らせると、華南ちゃんは笑って「ほんなら、退散するわ」と荷物をまとめ始めた。

「そんな気ぃ使わんでもええよ」
――余計な事言わんかったら。

私の心の声が聞こえたかは分からないけれど、華南ちゃんは「んーん」と答える。
「ご飯会やさかい、そんなゆっくりしてられへんのよ」

荷物一式を持つと華南ちゃんは楽屋の扉に手を掛けた。
そして、ガチャっとノブを回したところで「せや!」と、思い出したようにこちらを振り返る。


「こんな風に来てくれて心強いなぁ、真優ちゃん!」


きっと心からの言葉。
幼い頃から、私の家庭環境を知っている華南ちゃんだからこそ言える、最大のエール。

――せやね。
今のうちにはこんなにも心強い仲間がおってくれる。

「……ありがとう」
華南ちゃんはにこりと笑んで、楽屋を後にした。

静かになった楽屋で突然パンッ! と、破裂音が響く。
驚いて目を見開けば、みんなが手にクラッカーを持っとって。

「真優! おめでとうさん!」

白石くんの一声が響いた。

「俺らの全国の雪辱戦、完封勝利やったで!!」

その言葉を皮切りに、私はみんなに文字通りもみくちゃにされた。
胸に込み上げるものがあたたかくて、少しだけ泣いた。

「みんなのおかげや! ほんまにありがとう!!」

スマホで写真を撮りつつ、私は一人一人にお礼を述べる。
みんなほんまに喜んでくれとって、ほんま睡眠時間削って頑張った甲斐がある。

「謙也くん、今日はほんまにありがとう」
そう声を掛ければ、謙也くんはニッと笑って「こっちこそやで!」と続けた。

「真優のおかげで、なんや胸に溜まっとったもん、流れていきよったわ!」

私は「おおきにな」と続ける謙也くんの服をちょいちょいと引っ張った。
不思議そうにかがんだ謙也くんの耳元まで背伸びする。

「充電のおかげやわ」

ほんまありがとう。そう笑うと目が合った。
謙也くんの頬が照れくさそうに少しだけ赤くなる。

私がみんなにお礼を言い終えたところで、白石くんが「ほな、そろそろお暇しよか」と声を掛けた。

確かに、長居する場所やないしな。
私はみんなを送り出すと、一人になった楽屋でふぅっと息を吐く。

安心して、力が抜ける。
ソファに沈み込むように腰掛けて、だだっ広くなった部屋を見渡せば、不意にテーブルの上に何かが置かれていることに気が付いた。

よっと立ち上がって、近付けばそれはスマホで。

イグアナのステッカーが挟まった――謙也くんのスマホ。
さてはさっき、みんなで写真撮ったときに忘れたな……。

そんなことを考えながら、私は自分のスマホで白石くんに電話を掛ける。
数コール後「真優? どないしてん?」という、白石くんの素っ頓狂な声が返ってきて。

「まだ、みんなと一緒におる?」
「おるけど?」
「ほんならよかったわ。謙也くん、楽屋にスマホ忘れてるよって」
「ええ!? ほんまかいな」

白石くんの驚いた声が返ってきたあと、電話越しに「謙也ー! 楽屋にスマホ忘れとるって!」と伝えてくれている声が聞こえた。

しばらく、無言が続いたと思ったら「マジやん」という謙也くんの焦った声が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。
多分、ポケットとか、全部ひっくり返してたんやろうな。
「持ってこか?」
そう言えば、白石くんは「いや……」と、言いにくそうに続けた。

「取りに行ったわ。ものすご速さで」
「あほやなぁ」
「ほんまにな」

白石くんとの電話を切って一息ついた瞬間、楽屋の扉が勢いよく開いた。
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