6話: You are the most important to me.
「終わったーっ!!」
演奏を終えた私は、楽屋に戻るなりドレスのまま備え付けのソファにダイブした。
「これで、やっと寝れる」
しみじみ呟けば、私より先に出番を終えていたピアニストの淡路華南ちゃんが、変なものを見る目で私を見てくる。
「真優ちゃん、弾き終わったあとお顔に『寝れる!』って、書いてあったえ」
「うっそ、分かった?」
「分かりやす、思た」
華南ちゃんは、同い年で同じく京都出身。
幼い頃から同じコンクールに出ることが多かった幼馴染。
「うわっ、バケモン帰って来とる」
「バケモンて酷ない?」
私は寝転がったまま、声の主を睨みつける。
瀬戸孝太郎くん。
彼もまた、私より先に出番を終えたピアニストで兵庫出身の幼馴染の一人。
「お前のピアノ見て、バケモンって言わん方が失礼やろ」
瀬戸くんはそう言うと、華南ちゃんの隣のソファに腰掛けた。
私は身体を起こすと、むぅっと頬を膨らませる。
そうすれば、華南ちゃんと瀬戸くんは見合わせやれやれとため息を吐く。
「あんな演奏した子が、ステージ降りたらこれやねんもん」
「それな。慣れてへんと温度差で火傷する」
瀬戸くんが呆れ顔でそう告げれば、華南ちゃんが笑った。
「火傷て! 上手いこと言うなぁ、孝ちゃん」
そんな二人のやり取りを、見つつ私は楽屋に備え付けられた会場カメラを見た。
私のあとの子――。
楽屋のテレビに音は流れない。
けれど、それでも。
身体の動きが鈍くて、思うような演奏ができていないように見えた。
「小鳥遊のあとに弾いたら、大体ああなる」
瀬戸くんが何てことなさそうに告げる。
華南ちゃんも頬杖をついて「そうやな」と同情するように頷いた。
「今回の順番、真優ちゃんの前でよかった思たもん」
「俺も」
「正直、真優ちゃんのあとにはなりたないよねぇ」
私はうーんと呻くと冷蔵庫からお茶を取り出した。
「そんなに? 言うほどやろ」
お茶を飲みながら振り向けば、二人は私の問い掛けを無視して、別の話に花を咲かせている。
「入賞したら家族でご飯会なんよ」
「何食べ行くん?」
「鉄板焼き」
「ええな」
瀬戸くんの視線が再び会場カメラに向けられる。
カメラには最後の演奏者が映し出されていた。
「多分、山内は今回あかんと思う」
山内アキラくん――去年のコンクールで二位だった子。
「小鳥遊のうしろ引いた時点で、チェックメイトや」
瀬戸くんが言い切った。
私は何と言っていいか分からず、ペットボトルの蓋を閉める。
別に他のピアニストを潰したいわけやない。
ただ、自分が勝ちたい――ううん、私のピアノを認めてもらいたい。それだけ。
そのとき、楽屋の扉がノックされた。ガチャリと音が鳴って扉が開く。会場のスタッフさんが顔をのぞかせた。
「そろそろ、表彰式の用意をお願いします」
私たちは立ち上がると、そぞろに楽屋を後にした。
華南ちゃんに続いて、廊下を進めば私の直後に弾いた子とすれ違った。
廊下で人目もはばからず泣いている。
私は思わず目を伏せ、小さくなる。
「気にしたあかん」
不意に前を歩く華南ちゃんの声が響いた。
「真優ちゃんのあとになったんは不幸やけど、弾かれへんくなったんはあの子の実力不足や。真優ちゃんが気にすることやあらへん」
「……うん」
私は華南ちゃんの言葉に背中を押されるようにして、再びステージに上がった。
演奏を終えた私は、楽屋に戻るなりドレスのまま備え付けのソファにダイブした。
「これで、やっと寝れる」
しみじみ呟けば、私より先に出番を終えていたピアニストの淡路華南ちゃんが、変なものを見る目で私を見てくる。
「真優ちゃん、弾き終わったあとお顔に『寝れる!』って、書いてあったえ」
「うっそ、分かった?」
「分かりやす、思た」
華南ちゃんは、同い年で同じく京都出身。
幼い頃から同じコンクールに出ることが多かった幼馴染。
「うわっ、バケモン帰って来とる」
「バケモンて酷ない?」
私は寝転がったまま、声の主を睨みつける。
瀬戸孝太郎くん。
彼もまた、私より先に出番を終えたピアニストで兵庫出身の幼馴染の一人。
「お前のピアノ見て、バケモンって言わん方が失礼やろ」
瀬戸くんはそう言うと、華南ちゃんの隣のソファに腰掛けた。
私は身体を起こすと、むぅっと頬を膨らませる。
そうすれば、華南ちゃんと瀬戸くんは見合わせやれやれとため息を吐く。
「あんな演奏した子が、ステージ降りたらこれやねんもん」
「それな。慣れてへんと温度差で火傷する」
瀬戸くんが呆れ顔でそう告げれば、華南ちゃんが笑った。
「火傷て! 上手いこと言うなぁ、孝ちゃん」
そんな二人のやり取りを、見つつ私は楽屋に備え付けられた会場カメラを見た。
私のあとの子――。
楽屋のテレビに音は流れない。
けれど、それでも。
身体の動きが鈍くて、思うような演奏ができていないように見えた。
「小鳥遊のあとに弾いたら、大体ああなる」
瀬戸くんが何てことなさそうに告げる。
華南ちゃんも頬杖をついて「そうやな」と同情するように頷いた。
「今回の順番、真優ちゃんの前でよかった思たもん」
「俺も」
「正直、真優ちゃんのあとにはなりたないよねぇ」
私はうーんと呻くと冷蔵庫からお茶を取り出した。
「そんなに? 言うほどやろ」
お茶を飲みながら振り向けば、二人は私の問い掛けを無視して、別の話に花を咲かせている。
「入賞したら家族でご飯会なんよ」
「何食べ行くん?」
「鉄板焼き」
「ええな」
瀬戸くんの視線が再び会場カメラに向けられる。
カメラには最後の演奏者が映し出されていた。
「多分、山内は今回あかんと思う」
山内アキラくん――去年のコンクールで二位だった子。
「小鳥遊のうしろ引いた時点で、チェックメイトや」
瀬戸くんが言い切った。
私は何と言っていいか分からず、ペットボトルの蓋を閉める。
別に他のピアニストを潰したいわけやない。
ただ、自分が勝ちたい――ううん、私のピアノを認めてもらいたい。それだけ。
そのとき、楽屋の扉がノックされた。ガチャリと音が鳴って扉が開く。会場のスタッフさんが顔をのぞかせた。
「そろそろ、表彰式の用意をお願いします」
私たちは立ち上がると、そぞろに楽屋を後にした。
華南ちゃんに続いて、廊下を進めば私の直後に弾いた子とすれ違った。
廊下で人目もはばからず泣いている。
私は思わず目を伏せ、小さくなる。
「気にしたあかん」
不意に前を歩く華南ちゃんの声が響いた。
「真優ちゃんのあとになったんは不幸やけど、弾かれへんくなったんはあの子の実力不足や。真優ちゃんが気にすることやあらへん」
「……うん」
私は華南ちゃんの言葉に背中を押されるようにして、再びステージに上がった。