5話:支配者

座席について、始まるまでの数分の間に白石が金ちゃんに演奏会のルールを叩き込んでいる。

「ええか、金ちゃん。ここは騒ぐところやありません」
「さすがにワイでも分かるで、白石」
「えらいな。どんなに演奏がすごかっても、格好ええことが起こってもシーッや」
「終わったあとやったら拍手してええんやろ? ワイいっぱい拍手したいわー」

まるでおかんな白石に俺は千歳と見合わせて苦笑する。

「まるで、金ちゃんのお母さんばい」
「や、ほんまやで。……やけど、先に言うとかな不安なん分かってまうんもつらいとこやな」
「金ちゃん、興奮ばしたらステージまで飛んでいきかねんたいね」

千歳はそう言うと不意に真剣な表情になって俺を見た。
なんや? と思えば「謙也」と名前を呼ばれる。

「こないだ代わってもらった試合――」
謝罪が飛んで来そうやったから、慌てて俺は「やめやめ」と続けた。

「俺は千歳に譲ったこと後悔してへん。やから謝るんはなしや!」
「ばってん……っ」
「そうそう。謙也さん出とったら秒でボロ負けでしたわ」

不意に、財前が会話に入り込んでくる。
俺は思わず口を尖らせる。

「お前に言われたないわ」
「そういう顔、男がやるもんやないですよ。キモいんで」
「~っ! はぁ!? お前ほんま生意気なやっちゃな!!」

こいつ、ほんま口悪い。
別に俺かて可愛い子ぶってやっとるんとちゃうわ!

「おーい、そろそろ静かにせえや」
ユウジがこちらを覗き込む。
「そろそろ、始まるわよーん」
ユウジの隣で小春がうきうきしている。

ステージ近くの時計に視線を送れば、開演まであと二分。
高ぶる気持ちを抑えつつ、そのときを着席して待つ。
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