1話:隣のおる理由
一学期の終業式。
今日が終われば、関西大会それからその先の全国大会に向けた本格的な練習メニューを組める。
腕の包帯巻き直しながらそないなことを考える。
朝、誰よりも早うに部室来て鍵開けて、準備進めとったら「白石くん、おはよう」と声を掛けられた。
振り向いたら、真優が眠そうに目こすりながら立っとって、少し驚く。
「おはようさん。今日はえらい早いな」
「いろいろあって。寝れんかったからそのまま来たんよ」
「寝れんかったって……大丈夫かいな。また、倒れるとかやめてや」
心配するさかいに、と続ければ、真優はあくびで出た目じりの涙を拭って笑った。
「今日は大丈夫や」
こいつの大丈夫ほど、信用ならん言葉ないねんけどな。
もし、今日またぶっ倒れたらさすがにお説教やなぁ。
真優と一緒になって朝練の準備を進める中、続々と部員が集まってくる。
みんなに「おはようさん」と言いながら、ウォームアップを進めていれば、朝練開始時刻ギリギリになって謙也が登校した。
「謙也、おはようさん! もう始めんで!」
「おはようさん! すぐ行くわ!」
早口で告げ部室に飛び込んでいった謙也の顔、えらい浮腫んでなかったか?
たまたま近くにおった真優も、見えたようでうわっと口元を手で覆っとる。
思わず身体を寄せ小声で囁いた。
「なんや、えらい浮腫んどったよな?」
「お顔ぱんっぱんやった……」
若干引き気味の真優の声に、ほんの少しだけ息を吐く。
見間違いやなかったみたいや。
それにしても。
この大事な時期になんや夜中までゲームとかして、味の濃いもん夜中に食べたんとちゃうか?
ったく、選手やねんからもうちょい健康に気ぃ使えや。
――そんな朝練を終え、今俺はクラスの自席で頬杖をついとる。
今日の予定は、九時過ぎから体育館で終業式という名の全校集会や。
それが終わったらホームルームで、そのあとは部活。
うん、ええ感じやな。
寝れへんかった言うとった通り、真優は少し眠そうにはしとるものの、友達となんや喋っとって、いつも通り。
まあ、顔色悪いとかもないけど、少しだけ気にして様子見とこか。
対する謙也は――ようやく顔の浮腫みが落ち着いて、いつもの顔になってきた。
せやけど、こいつも眠そうにしとって。
大切な時期なんやから身体大事にしてほしい。
「なんや、寝るん遅かったんか?」
俺はため息と共に前の席の謙也に話し掛ける。
謙也は「んー?」と振り向くと「まあ、いろいろあってな」と口を濁した。
どいつもこいつも……っ。
いろいろってなんやねん!
なんて突っ込みが喉の直前まで出てきたけど、不意に担任が教室覗き込んできて、意識が移ってしもた。
「小鳥遊、ちょっとええかー?」
担任が手招きで真優を呼ぶ。
真優はそれまで話していた友人に「ちょお行ってくるな」と声を掛け、教室を後にした。
真優が担任に呼ばれることはままある。
出席日数○日足りんで、とか、追加課題の提出今日までやで、とか。
演奏活動しとる弊害なんやろけど、真優も大変よなぁ、なんて。
やけど、そんなことより――。
「何してんねん? 呼ばれたん真優やで?」
なんで呼ばれてへん謙也も席立つんよ。
思わずため息交じりに突っ込めば、謙也は「いや」と、頭を掻いて再び席に着いた。
なんや今日の謙也は歯切れが悪い。
やっぱ寝不足に塩分取り過ぎたせいで、おかしなってんのとちゃう?
真優はわりとすぐに戻ってきた。
やっぱ、課題提出とかそんな話やったんとちゃうかな。
そんな予想をしり目に、謙也は真優に駆け寄り何か話している。
真優は数回頷いて、口元に手を当てて笑ったあと、両頬をぷくっと膨らませて指さした。
――あれ、謙也の真似やな。
謙也の浮腫み顔をからかっているらしい。
謙也は憤慨したように跳ねるけれど、真優相手には本気で怒れへんみたいで、悔しそうに呻く声が聞こえた。
ちょい前まで真優が謙也避けとるように見えたけど。
最近は前みたいに喋っとる。
なんなら前より距離近なったんちゃう?
仲直りしたんか知らんけどよかったな。
そう頬杖つきながら二人を覗き見る。
なんでか分からんけど、あいつら喋っとんの見ると、こっちまで嬉しなるねんよ。
――ほんま、仲ええこっちゃ。
そうこうしているうちに、担任が「全校集会行くでー」と教室に俺らを呼びに来て、全員そぞろに移動を始める。
今日が終われば、関西大会それからその先の全国大会に向けた本格的な練習メニューを組める。
腕の包帯巻き直しながらそないなことを考える。
朝、誰よりも早うに部室来て鍵開けて、準備進めとったら「白石くん、おはよう」と声を掛けられた。
振り向いたら、真優が眠そうに目こすりながら立っとって、少し驚く。
「おはようさん。今日はえらい早いな」
「いろいろあって。寝れんかったからそのまま来たんよ」
「寝れんかったって……大丈夫かいな。また、倒れるとかやめてや」
心配するさかいに、と続ければ、真優はあくびで出た目じりの涙を拭って笑った。
「今日は大丈夫や」
こいつの大丈夫ほど、信用ならん言葉ないねんけどな。
もし、今日またぶっ倒れたらさすがにお説教やなぁ。
真優と一緒になって朝練の準備を進める中、続々と部員が集まってくる。
みんなに「おはようさん」と言いながら、ウォームアップを進めていれば、朝練開始時刻ギリギリになって謙也が登校した。
「謙也、おはようさん! もう始めんで!」
「おはようさん! すぐ行くわ!」
早口で告げ部室に飛び込んでいった謙也の顔、えらい浮腫んでなかったか?
たまたま近くにおった真優も、見えたようでうわっと口元を手で覆っとる。
思わず身体を寄せ小声で囁いた。
「なんや、えらい浮腫んどったよな?」
「お顔ぱんっぱんやった……」
若干引き気味の真優の声に、ほんの少しだけ息を吐く。
見間違いやなかったみたいや。
それにしても。
この大事な時期になんや夜中までゲームとかして、味の濃いもん夜中に食べたんとちゃうか?
ったく、選手やねんからもうちょい健康に気ぃ使えや。
――そんな朝練を終え、今俺はクラスの自席で頬杖をついとる。
今日の予定は、九時過ぎから体育館で終業式という名の全校集会や。
それが終わったらホームルームで、そのあとは部活。
うん、ええ感じやな。
寝れへんかった言うとった通り、真優は少し眠そうにはしとるものの、友達となんや喋っとって、いつも通り。
まあ、顔色悪いとかもないけど、少しだけ気にして様子見とこか。
対する謙也は――ようやく顔の浮腫みが落ち着いて、いつもの顔になってきた。
せやけど、こいつも眠そうにしとって。
大切な時期なんやから身体大事にしてほしい。
「なんや、寝るん遅かったんか?」
俺はため息と共に前の席の謙也に話し掛ける。
謙也は「んー?」と振り向くと「まあ、いろいろあってな」と口を濁した。
どいつもこいつも……っ。
いろいろってなんやねん!
なんて突っ込みが喉の直前まで出てきたけど、不意に担任が教室覗き込んできて、意識が移ってしもた。
「小鳥遊、ちょっとええかー?」
担任が手招きで真優を呼ぶ。
真優はそれまで話していた友人に「ちょお行ってくるな」と声を掛け、教室を後にした。
真優が担任に呼ばれることはままある。
出席日数○日足りんで、とか、追加課題の提出今日までやで、とか。
演奏活動しとる弊害なんやろけど、真優も大変よなぁ、なんて。
やけど、そんなことより――。
「何してんねん? 呼ばれたん真優やで?」
なんで呼ばれてへん謙也も席立つんよ。
思わずため息交じりに突っ込めば、謙也は「いや」と、頭を掻いて再び席に着いた。
なんや今日の謙也は歯切れが悪い。
やっぱ寝不足に塩分取り過ぎたせいで、おかしなってんのとちゃう?
真優はわりとすぐに戻ってきた。
やっぱ、課題提出とかそんな話やったんとちゃうかな。
そんな予想をしり目に、謙也は真優に駆け寄り何か話している。
真優は数回頷いて、口元に手を当てて笑ったあと、両頬をぷくっと膨らませて指さした。
――あれ、謙也の真似やな。
謙也の浮腫み顔をからかっているらしい。
謙也は憤慨したように跳ねるけれど、真優相手には本気で怒れへんみたいで、悔しそうに呻く声が聞こえた。
ちょい前まで真優が謙也避けとるように見えたけど。
最近は前みたいに喋っとる。
なんなら前より距離近なったんちゃう?
仲直りしたんか知らんけどよかったな。
そう頬杖つきながら二人を覗き見る。
なんでか分からんけど、あいつら喋っとんの見ると、こっちまで嬉しなるねんよ。
――ほんま、仲ええこっちゃ。
そうこうしているうちに、担任が「全校集会行くでー」と教室に俺らを呼びに来て、全員そぞろに移動を始める。