2話:青春スピードスター

部活が終わってすぐ、俺はスマホを取り出す。
慣れた手つきで相手を選択し、通話ボタンを押した。
数コール後「……なんやねん」と囁き声にも似た低い声が面倒くさそうに返される。

「ちょっ! 侑士聞いてや!」
「うっさい! そんな大声出さんでも聞こえとる」

侑士は至極怠そうに「で? なんや」と返してきた。
俺は待ってました、と言わんばかりに早口で捲し立てる。

「この間のネックレスの子おったやん?」
「ああ、お前が惚れてた子」
「惚れてへんわっ‼」

勢いに任せて否定すれば「ほんで? その子がどないしたん?」と続きをうながしてくる。

なんだかんだ、侑士は話を聞いてくれる。
持つべきものは聞き上手な従兄弟やな!

「おん。あんな、その子がうちの学校に転入してきてな!」

そう言えば、侑士が黙った。
それから、しばらくして長いため息が聞こえる。

「お前、嘘つくならもうちょいマシなのにせぇや」

完全な呆れ口調の侑士に俺は「嘘ちゃうし!」と捲し立てる。

「いや、そんな偶然あるかいな」
「言いたいことは分かるけど、嘘って決めつけんなや」

侑士の言いたいことも分かる。
俺かて、侑士から同じこと言われたら「嘘つくなや」とか、多分言う。

「ほんまやねんって! 嘘やない!」
「分かった、分かった!」

侑士は「声でかいねん」とため息を吐くと、改めて口を開いた。

「で? 仮に謙也の言うてることがほんまやったとして」
「いや、ほんまなんよ……」

こんなバグみたいな嘘つく必要ないやろ、なんて呆れが声にのる。

「その子がどないしたん? 同じクラスにでもなって、話し掛けられたとかか?」
「いや、お前ん頭ん中どないなってんねん。悔しいけど、その通り過ぎてなんも言えんわ」

今度は俺がため息を吐く番やった。
なんで侑士はオチをさっと言ってしまうんやろうか。
こう、話にはフリとオチがあってやな。
ああ、もう!

そんなことを考えていると不意に侑士が「……マジか」と呟いた。それから続けて、小さな笑い声が聞こえてくる。

「で、惚れてる、と?」
「は!? なんでそうなんね!? ちゃうわ!」
「いや、声めっちゃ弾んでんで? ニヤけとんねやろなって感じやわ」
「いや、ちょお待て」
「ほんま浪速のスピードスターは心まで急発進やなぁ」

ひっくと喉が鳴った。

こいつ、楽しんどる!
俺んことおもちゃにする気満々や……っ!

「う、うううううっさいわ!」

気が付けば顔が熱い。
俺、何赤なってんねん。……はっず。
電話口の侑士は愉快そうな声で続けた。

「やっぱ、叔父さんに言お」
「は!? ちょっおま……っ! それはあかんやろっ!」
「あの人こういう話、好きやからな」
「侑士ぃーーーー!!」

ブチッという音ともに通話が一方的に切られた。
俺はしばし、唖然と自分のスマホ画面とにらめっこして――それから、ハッと気が付いたように侑士に再び電話を掛ける。

『おかけになった電話番号は――』

あいつ、ブロックしよったーーーー!?

俺は放心状態のまま家の扉を開けた。

「……ただいま」

瞬間、リビングからおとんが顔をのぞかせる。
面白いものを見るように、ニヤニヤと。

「……何ニヤけとんねん」
「なんもあらへんよ。ただ、侑ちゃんから連絡来ただけや」

おとんはそう言うと、こちらに歩み寄り俺の肩を叩いた。

「ええな、青春」

ふっと俺の中で何かが切れる音がした。

「こンの……どアホーーーーーーーー!!」

俺の絶叫が町内にこだまする。

許さん、許さんぞ侑士。
俺の純情をもてあそびよってからに……。

前言撤回や。
こんなすぐチクるような奴は従兄弟と言えど持つべきやない。
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