2話:青春スピードスター

その日の休み時間、小鳥遊の机の周りは人だかりができとった。
転入生ってだけで興味津々やのに、こんだけ美人やとな。
そら男子も女子も気になるっちゅー話。

そんな様子を遠巻きに眺める。

「前はどこに住んでたん?」
「京都やで」
「お父さんの仕事の都合?」
「ううん。うちのピアノの都合」
「えっ、それで家族みんなで引っ越してきたん?」
「お父さんは仕事があるからって京都に残っとるよ。こっちに来たんは、うちと弟とお母さんだけ」

軽く身振り手振りを加えながら、小鳥遊は楽しげに会話を交わしとる。
本人、壁とか作る気ないんやろな。

そんな彼女の口元に添えられた手が、視界に入った。

こんだけ美人やのに、手の爪だけは深爪気味で。
……まあ、ピアノしとるんやし当然っちゃ当然か。

なんて、ふっと笑みをこぼす。

そんな中、小鳥遊の前の席で吉田がスマホをいじっている。そして、周囲の友人に興奮気味に「なあ、これって……?」と画面を見せていた。

男子たちの小声が聞こえてくる。

「えっ、マジやん」
「本物? やんな?」
「もう、本人に確認しよ」

吉田はそう言うと、振り返ってスマホの画面を小鳥遊本人に見せた。

「なあ、これってマジ?」

そう聞くと同時に、他のクラスメイトが恐らく同じ画面を表示して俺と白石にも見せてきた。

画面には【美人すぎるピアニスト! 小鳥遊真優 ―新進気鋭の新人音楽家に迫る!―】という記事が表示されている。

しばしの沈黙のあと、小鳥遊の「いやぁ、恥ずかしなぁ」という声が聞こえてきた。

「マジか! 有名人じゃん」
「えっ、嘘⁉ 有名人クラスにおるとかやばっ」
「そんなことってあるんやなぁ」

クラスに先ほどとは違うざわめきが広がる中、ぽつりと小鳥遊の声が聞こえてくる。

「有名人言うてもクラシックの中だけやで」
「その辺の人はうちのこと知らんしな。まだ、新人やし」

カラカラ笑う小鳥遊に、クラスの女子が尋ねた。

「ほんなら、合唱コンとか伴奏お願いしてもええの?」
「かまへんよ。あ、やけど、他に弾きたい人おったらその子にお願いしてな。うち、練習の日おらんかもしれへんし」
「このクラス、ピアノ弾ける子おらんから助かるわ!」

この日一日、小鳥遊の周りは人が絶えなかった。

ピアノを弾いていないときの彼女を傍観して思う。
笑うたびに場の空気がほぐれていく。
やっぱ、ただの女の子にしか見えへんのよな。

あのときの演奏で感じた違和感は――俺の気のせいやったんやろか。
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