あとがき

【あとがき:おまけ】

目の前で真優ん家の扉が閉まった瞬間、俺はため息を吐いた。
扉に背を向け、生ぬるい夜風に紛れるように帰路を急ぐ。

――今日、レッスン行くまでは普通やったやん。

一緒に駅まで帰って、笑て。
『頑張ってな』って送り出して。

やのに、なんでこんな……。
痛くなってきた頭に、額を押さえて呻く。

真優の奴、目にいっぱい涙溜めとった癖に、一回やって涙こぼさんかった。

俺の前でくらい、いくらでも泣いてええのに。

やるせなさに、ポケットに手突っ込んで夜空を仰ぐ。
こんな最悪な気分やのに、空だけは満点の星空で……。

ほんま、嫌になってまう。

きっと、育った環境がそうさせてるんやろ?
泣くこと自体が迷惑掛ける行為、みたいな。

あんな環境におって、ガキの頃に泣かへんとかありえんくて。
やけど、多分小さいときから『泣くな』とかたくさん言われて。

ある意味、感情の一部分が麻痺してしもうてるんやと思う。

「……ほんまあほやな。あいつ」

そんな無茶してまで――自分の心殺してまで。
そんなんせんでええのにな。

俺はそんな思い丸ごと飲み込むみたいに、口を真一文字に結んだ。


なあ、真優。
俺、どんな感情やって受け止めたるよ。

悲しさも、苦しさも――怒りやって、全部。
嬉しかったら一緒に喜んだる。
楽しかったら一緒に笑うやん。

泣きたいときは思い切り泣いてくれたらええ。


やから、いつか。

俺の前ではどんな感情やって、さらけ出せるようになる日まで。
俺は――。

いつの間にか、固く握っていた拳をじっと眺める。

胸のど真ん中に居座った決意を胸に、俺はこの星空に確かに誓った。

――いつやって、傍におるからな。
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