12話:five minutes.

「――ほんで、怖なって謙也くんに電話してもうて」

真優の話を聞いて、肝が冷やされたんはこっちや。
電話越しに聞こえた男の声も、多分ほんまもんで。
あのとき、泣きそうになっとった真優の気持ちも痛いほど分かって、俺は歯ぎしりした。

ほんまに無事でよかったっちゅー思いと、そいつに対する怒りでどうにかなりそうや。

「まだ、その人近くにおるかもしれんって思ったら、迂闊に動かれへんし」

真優はぎゅっとジュースを握ったまま、絞り出すように告げる。
俺は短く息を吐き出すと「真優」と彼女の名前を呼んだ。

「最終的には真優が決めたらええと思うてる。やけど、一歩間違え取ったら、犯罪に巻き込まれてたかもしれん」
「……そやんな」
「やから、俺は警察にちゃんと連絡した方がええと思う」

低く抑えた声に、静かな怒気と震えがわずかに混じる。
怒るなっちゅー方が無理な話。

真っ直ぐに真優を見つめれば、彼女の瞳が揺れる。
多分、一瞬でいろんなこと考えた。

ピアノのこと。
学校の奴らの好奇の目。
そして――確実に連絡がいくであろう母親のこと。

目を伏せ、ゆっくりと息を吸い込んで吐き出した。
きっと、気持ちを落ち着けるのに、そのくらいの時間が必要で。
真優はゆっくりまぶたを持ち上げると「そうしよ」と言った。

自分と周りの人間の安全を最優先に考えた結果の判断。

俺は頷くと、真優を連れてコンビニ店員に事情を話し、警察を呼んでもらうことにした。

□ + ◇ + □

警察呼んでもろたあとのことは、あんまり覚えてへん。
とりあえず、ここやあれやから、と警察署に移動して。
真優は事情聴取も受けて。

俺も一応聞かれたけど、真優が「うちが怖なって呼んでしもただけなんです」と端的に説明しとった。

そうこうしとるうちに「それらしい人物を拘束した」と、連絡が入った。
このとき、警察から説明された特徴と、真優が被害を受けた奴の特徴が一致しとって、安堵したのは覚えとる。

時間も時間(気ぃ付いたら夜の十一時前になっとった)やってことで、親には警察から連絡を入れてくれた。

俺の方は、おかんの大声がスピーカーにもしてへんのに聞こえてきた。

「うちの息子がなにかしてしまいましたやろか!?」

俺がなんかしたみたいな言い方しよってからに……。
ほんま頼むわ、勘弁してくれ。
ただ、おかんは一応、俺ん事引き取りに来るらしい。

問題は真優の方。
警察が電話して事情説明してもほぼ無風。

「そうですか。そしたら早く帰してください」

そう言って一方的に切られたらしい。
警察の人らも困惑しとって、真優は申し訳なさそうに「母がすみません」と頭下げとった。
真優が謝ることなんて、なんもあらへんのにな。

それから、明日以降学校にも連絡がいくと警察の人が言うとった。

まあ、そらそうよな。
学校の生徒一人犯罪に巻き込まれかけたんやから、連絡いかんわけないよな。

一難去ってまた一難。
真優の心労を思うと無意識にため息が漏れる。
やのに真優は俺を見ると、申し訳なさそうに目を伏せた。

「巻き込んでしもて、ほんまごめん」

巻き込まれたことに対するため息やないから、勘違いしてほしくなくて。
俺は真優を安心させるように笑うと、ぽんと彼女の頭を撫でた。

「最後まで巻き込まれる方がええって言うたやろ」
そこまで言い切って、心底安心した声で続ける。
「ちゃんと連絡くれて安心したわ」

真優の瞳が一瞬揺らいだ。
涙こぼさんように、目頭に力入れて。

俺の前でくらい、いくらでも泣いてええのに。
ほんま、頑固やな。

「……ありがとうな」
震える声が返ってくる。
「ええよ、気にせんで」

きっと俺が深刻に捉えたら、足元から崩れてまうやろ?
やから、できるだけいつもの調子で、なんてことのないように、そう返す。

手続きや説明を受けていると、おかんが勢い付いて飛び込んできて、一目散に真優を抱き締めた。

「ほんま無事でよかったわ」

真優は一瞬ぎょっとした表情を浮かべとったけど、次第に顔はくしゃくしゃになっておかんを抱き締め返しとった。

「ありがとう、ございます」
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