12話:five minutes.

一時間、みっちりドラムレッスンを受けたあと、俺は駅前のワクドにいた。

――さすがに、一時間ぶっ通しはきつい。

途中から、腹の虫がずっと鳴っとった。
レッスン終わって、速攻でワクドに駆け込んでハンバーガーを一瞬で平らげる。
正直、全然足りへん。

やけど、家帰ったら晩飯あるっておかん言うとったから、あとはポテトとジュースで我慢することにした。

俺はポテトをつまみつつ、ぼんやり外を眺める。
夜の街のネオンが眩しい。
やけど、その光はどこか冷たくて、照らされれば照らされるほど、影が濃く沈んでいく気がした。

毎度、一時間でへとへとなるのにな。
真優はもっと厳しいあれを、何時間もやってるんか。
ほんま、すごいやっちゃな。

そう思ったとき、不意に背筋がひやりとする。
反射的に身震いして、首を傾げた。

なんや、今の?

理由は分からん。ただ、胸の奥が落ち着かん。

ずずっとジュースを飲みながらスマホを見れば、時刻は【21:01】をさしとった。
ええ加減帰らな、と最後のポテトに手を伸ばし口に含んだ瞬間、スマホが震えた。

「うおっ」

こんな時間に滅多にかかってこない着信に、スマホを取り落としそうになる。

改めて、画面を覗き込めば『小鳥遊真優』と表示されとって。

ときめきと同時に、得体の知れんざわめきが広がった。
秒で出れば、電話口から「あ、もしもし」と焦り切った真優の声が聞こえてくる。

「あんな、今日迎えに来てくれるって言うたやろ?」

捲し立てるように早口で告げられる言葉に、俺の喉がひゅっと詰まった。

「……は? 迎え……?」

そんな約束したか? と記憶をさかのぼってみるものの、そんなものは見当たらなくて。
やけど、電話越しの声は震えていて、走っとるんか息も切れとって。

背後では雑踏も聞こえとるけど……。
俺はスマホを耳と肩で挟んだまま、トレーを片付ける。

「そう! もう駅前のコンビニ着くよって」
「ちょ、ちょお待ちや。ほんま、なんの話……っ!」

嚙み合わない会話に、かすかな息遣いが混じって、余計に胸がざわついた。

――駅前のコンビニってこっから反対側やったよな。

正直、意味は分からん。
やけど、嫌な予感が胸の奥をひっかく。

俺は唇を噛んだあと「五分で行く。待っとき」と、一目散に駆けだした。
「うん」
泣き出す寸前の声に思えた。

次の瞬間、雑踏の奥から「待ってよー!」という低い声が聞こえた気がして心臓が一気に跳ね上がる。

「っ! 通話繋ぎっぱなしでええか?」
「うん……っ!」

何もかもかなぐり捨てて一刻も早くと願うのに、胸のざわめきがズンっと重くのしかかって、足がもつれる。
俺はネオンに飲み込まれそうな夜の街を、ただひたすら駆け抜けた。

□ + ◇ + □

五分後、俺はコンビニに飛び込んだ。
少し前に「もう着く」言うたら、「もう着いとる」なんて弱々しい声が返って来て。

肩で息をしながら、周囲を見渡せば、端っこの方で青なって縮こまる真優を見つけた。
俺は通話を切ると、直接「真優!」と駆け寄る。

俺を視界に納めた瞬間、真優は心底安心したように駆け寄って来て、俺のシャツをつかんだ。
「け、んやくん……よかった……」

シャツをつかむ真優の手が震えている。
やはりただ事やなかったんやと認識して、心臓に直接冷や水を流し込まれた気分になった。

「ほんま、どないしてん。急に呼び出してくるからに……」

真優の手をシャツから離して、包み込むように握ればこの夏やというのに冷え切っとって。
真優は「夜遅うに、ほんまごめんな」と謝罪するけど、俺が聞きたいんは謝罪やのて何があったか、や。

ただ――まだ、気持ちが落ち着かんのもあると思う。

俺は真優の頭を撫でると、レジで飲み物を買ってイートインに座らせた。

「……ありがとう」
「かまへんよ」
飲み物を手に幾分か落ち着いたのか、真優はぽつりぽつりと話し始める。
「あんな――」

――真優の話はこうやった。
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