12話:five minutes.

「今日もレッスン?」
部室の外で鞄を整理している真優に話し掛ける。
部活のあと、こうして鞄を整理しとるときは、だいたい決まってピアノのレッスンに行く日。

真優は整理する手を止めないまま「そうそう」と続けた。
「よう分かったなぁ、今日レッスンやって」
心底不思議そうな表情を向けられ、俺は小さく笑った。
「分かるわ」
真優は鞄のジッパーを閉め「そういうもん?」と首を傾げている。

毎度鞄の中身整理したりしとるん、無自覚か。

「今日、俺も駅に用事あるで。一緒に行くわ」
「そうなん? なんや珍しな」

真優の珍しいは半分正解。
俺かて習い事の一つや二つはあるっちゅー話で。
今日は駅前の教室にドラム叩きに行く。
とはいえ、ほんまは一回家帰ってからでも充分間に合う。

学校から直接行こ、思たんは真優と少しでも一緒におりたかったからやった。

「今日ドラム叩きに行くねんよ」
「あー、そういえば習っとるって言うとったね」
「高速ドラム叩くで!」
「……謙也くんらしいなぁ」

そんな話をしながら隣を歩く。
真優は「速よ叩き過ぎたら、誰も合わせられんのとちゃうの」とカラカラ笑っている。
その笑顔を見て、むず痒いやら、ほっとするやらで、俺の感情は忙しい。

――ほんま、可愛ええやっちゃな。

ふっと肩の力が抜ける。
真優が抱えとるもんは知っとるけど、この笑顔には嘘なんてなくて。
それを見られるだけで『なんや大丈夫そうやな』って安心する。

楽しい時間はあっという間で、駅前で真優を見送る。
「ほな、気ぃ付けてな!」
「謙也くんも。ドラム、頑張ってな」
軽く手を振って、背を向ける。
駅前のざわめきも、今日は妙に軽やかに聞こえた。

なんや、ええ日やなぁ。

鼻歌交じりで、俺は音楽教室へ向かった。
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