1話:はじまりの幻想曲

あのあと、俺は侑士に散々からかわれた。
「叔父さんにも言うとくわ」とか、正気の沙汰やない。
あんの伊達メガネ、いっぺん痛い目合わせたるからな。

布団に背中を預け、長く息を吐く。
どうせ侑士やって、好みの子の前なら同じように動揺するはずや。そうに決まっとる。

そう自分に言い聞かせるたび、口が勝手にへの字になる。

やけど、気付けば思考は別の場所へ流れていて。

――あの子。
なんであんなに苦しそうに弾いとったんやろ。

枕元のプログラムを手繰り寄せ、プロフィールを探す。

「小鳥遊、真優」

字面を目でなぞるうちに、帰り道の彼女の笑顔が鮮明によみがえった。

ネックレスを首に掛け、心から安堵していた彼女の表情が――どうしても、頭から離れへん。

同時に、プログラムに乗っていない狂気じみた終曲が、脳内に鳴り響く。

侑士に『そうか?』と首を傾げられたあの違和感。

苦しそうやって思ったんは、俺の勘違いかもしれん。
やのに、気のせいやって、何度自分に言い聞かせても消えへん嫌なざわめきが胸を覆って――。

「……寝よ」

部屋の灯りを落とす。

胸のざわめきが、夢の中まで俺を誘った。
夢の中で色を失くした淡い水色の瞳が静かに、俺を見つめている気がした。
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