11話:白昼カデンツァ
「謙也、どこ行くん?」
そんな同級生の声に俺は「どこでもええやろ」なんて適当に返しながら、思考は別のところに飛んどった。
――ばあちゃんの形見、か。
真優が倒れた日。
帰り道に話してくれた真優とネックレスの繋がり。
それがあまりにも重くて、聞いとるだけでもつらくて。
気付いたら、あいつのこと抱き締めとった。
少しでも痛みとか苦しみとか、マシになるようにって。
今考えたら、かなり気恥ずかしい行為やったと思う。
でも、ああせなあかんかった気がして。
俺の胸に寄せた真優の表情を今でも思い出す。
泣きそうで、でも安心したみたいに目ぇ伏せて。
薄いけど、生きた人間のあたたかさがあって……。
真優と初めて出会ったとき、必死になって探しとった一粒ダイヤのネックレス。
俺の手のひらに乗ったそれ見た瞬間、あいつ泣きそうな顔して笑とった。
安心、したんやろな。
ちゃんと見つかったって。
そんなこと考えて、ふっと小さく笑みがこぼれた。
小鳥遊家で真優んこと守っとったばあちゃんとの、唯一の繋がり。
そんな大事なもん、失くしたってなったら、演奏に痛みとか苦しみとか乗ってまうよなぁ。
春休みに聴いたあの演奏が、耳の奥でよみがえった。
泣き声、音にしたみたいなピアノの旋律。
不意に校庭の方から笑い声が聞こえてきて、意識が現実に戻される。
それでも、俺の気持ちは晴れへん。
――真優のおかんは、大勢の前でそれ壊して……。
無意識に拳に力が入っていた。
「もう絶対、壊させへん」
そんな声がこぼれた。
ネックレスも――真優自身も。
音楽室に近付くにつれ、ピアノの音は大きくなる。
それと同時に、遠くからはあんま分からんかった、音の乱れが気になった。
正確に弾こうとしてるのに、指先が鍵盤を打つ速さとか、叩く強さがまばらで。
ピアノのことに疎い俺ですら気付くんやから、真優本人が気付いてないなんてことは、ありえへんやろけど。
なんや、焦ってる?
音楽室の目の前で足が止まった。
扉に伸ばしかけた手を、そっと下ろす。
ほんまは中に入りたい。
やけど、邪魔してまう気がして、俺はそっと小窓から中を覗き込んだ。
鬼気迫る表情で、一心不乱に弾いとって。
やのに、楽しそうで。
その姿に心を奪われる。
ピアノと戯れるみたいに指が鍵盤の上踊って、難しい課題を絶対に攻略したる! みたいな、表情浮かべて。
ああ、ピアノ好きなんやな。
ふと、そんなことが頭を過った。
日常生活に支障をきたすくらい、寝てへんのにピアノを弾き続けとる理由が分かった気がして、俺はふっと笑った。
そら、そんなに好きやったら手放されへんよな。
俺は目を閉じて、音楽室の扉にもたれかかった。
カタンと、扉が小さな音を立てる。
真優がこの学校に来るまで、音楽室のピアノはただの風景やった。
やのに、真優が来て弾いた途端、ピアノは呼吸を始める。
今までの鬱憤晴らすみたいに旋律を歌って、ここにおるで、って和音奏でて。
学校の音楽室をコンサートホールに変えてしまう力を持っとる。
――俺は、真優を少しでも救えとるんやろか。
調律の狂いが気にならないほどの、魂のこもった演奏。
救えとるんかどうか。
その答えを探すみたいに、俺はただ耳を澄ませ続けた。
そんな同級生の声に俺は「どこでもええやろ」なんて適当に返しながら、思考は別のところに飛んどった。
――ばあちゃんの形見、か。
真優が倒れた日。
帰り道に話してくれた真優とネックレスの繋がり。
それがあまりにも重くて、聞いとるだけでもつらくて。
気付いたら、あいつのこと抱き締めとった。
少しでも痛みとか苦しみとか、マシになるようにって。
今考えたら、かなり気恥ずかしい行為やったと思う。
でも、ああせなあかんかった気がして。
俺の胸に寄せた真優の表情を今でも思い出す。
泣きそうで、でも安心したみたいに目ぇ伏せて。
薄いけど、生きた人間のあたたかさがあって……。
真優と初めて出会ったとき、必死になって探しとった一粒ダイヤのネックレス。
俺の手のひらに乗ったそれ見た瞬間、あいつ泣きそうな顔して笑とった。
安心、したんやろな。
ちゃんと見つかったって。
そんなこと考えて、ふっと小さく笑みがこぼれた。
小鳥遊家で真優んこと守っとったばあちゃんとの、唯一の繋がり。
そんな大事なもん、失くしたってなったら、演奏に痛みとか苦しみとか乗ってまうよなぁ。
春休みに聴いたあの演奏が、耳の奥でよみがえった。
泣き声、音にしたみたいなピアノの旋律。
不意に校庭の方から笑い声が聞こえてきて、意識が現実に戻される。
それでも、俺の気持ちは晴れへん。
――真優のおかんは、大勢の前でそれ壊して……。
無意識に拳に力が入っていた。
「もう絶対、壊させへん」
そんな声がこぼれた。
ネックレスも――真優自身も。
音楽室に近付くにつれ、ピアノの音は大きくなる。
それと同時に、遠くからはあんま分からんかった、音の乱れが気になった。
正確に弾こうとしてるのに、指先が鍵盤を打つ速さとか、叩く強さがまばらで。
ピアノのことに疎い俺ですら気付くんやから、真優本人が気付いてないなんてことは、ありえへんやろけど。
なんや、焦ってる?
音楽室の目の前で足が止まった。
扉に伸ばしかけた手を、そっと下ろす。
ほんまは中に入りたい。
やけど、邪魔してまう気がして、俺はそっと小窓から中を覗き込んだ。
鬼気迫る表情で、一心不乱に弾いとって。
やのに、楽しそうで。
その姿に心を奪われる。
ピアノと戯れるみたいに指が鍵盤の上踊って、難しい課題を絶対に攻略したる! みたいな、表情浮かべて。
ああ、ピアノ好きなんやな。
ふと、そんなことが頭を過った。
日常生活に支障をきたすくらい、寝てへんのにピアノを弾き続けとる理由が分かった気がして、俺はふっと笑った。
そら、そんなに好きやったら手放されへんよな。
俺は目を閉じて、音楽室の扉にもたれかかった。
カタンと、扉が小さな音を立てる。
真優がこの学校に来るまで、音楽室のピアノはただの風景やった。
やのに、真優が来て弾いた途端、ピアノは呼吸を始める。
今までの鬱憤晴らすみたいに旋律を歌って、ここにおるで、って和音奏でて。
学校の音楽室をコンサートホールに変えてしまう力を持っとる。
――俺は、真優を少しでも救えとるんやろか。
調律の狂いが気にならないほどの、魂のこもった演奏。
救えとるんかどうか。
その答えを探すみたいに、俺はただ耳を澄ませ続けた。