10話:The Inherited Oath.
結局、謙也くんは駅まで送ってくれた。
私が逃げんように、手は繋いだまま。
――もう、逃げへんよって。
そう心の中で苦笑しつつも、繋がれた指先から伝わる熱に浮かされてしまう。
こんなふわふわした気持ちで今日のレッスン大丈夫やろか、なんて頭に過るけど、そこは切り替えるしかない。
そっと息を吐き出して、謙也くんの横顔を盗み見る。
まだ、ほんの少しだけ不貞腐れた顔しとって、小さく笑ってしもた。
「……ほんま参るわ」
そう一人ごちるように呟いた。
幸い謙也くんには聞こえていなかったようで「今、なんか言うた?」と首を傾げている。
私は首を横に振ると「ううん、なんも」と続けた。
「今日、ほんまありがとうな」
「かまへんよ」
謙也くんはそう言うと、ようやく笑顔になって私を真っ直ぐに見る。
「ええか」
「なんでも一人で抱え込んだらあかんで」
「分かっとるよ」
「気ぃなんて使いなや」
「それも分かった」
「なんかあったら、俺がどうにかしたるから」
「……ありがとうな」
押し問答に緊張が解けたみたいに思わず吹き出した。
謙也くんの表情が訝しげに歪められる。
「なんや、しつこいお人やなぁ」
「はあああ!?」
謙也くんの大声が帰り道に響く。
「そんなん真優が一人で全部背負い込もうとするからやろ!!」
憤慨する謙也くんを「はいはい」となだめ、しっかりと見上げた。
「もう、大丈夫。……ほんまに」
謙也くんが私の目をじぃっと覗き込む。
やがて、安堵の息を吐くと「ほんま頼むで」と言った。
「ほんなら、レッスン頑張りや」
「うん、行ってきます」
沈黙――。
私は「……謙也くん、あのぅ」と笑顔のまま続けた。
「そろそろ手ぇ離してくれると助かるんやけど」
謙也くんの肩が跳ねた。それから真っ赤になってパッと手が離される。
「す、すまんっ!」
「ええよ。うちが逃げようとしたのが悪いんやし」
私は離された手を胸の前で握ると、謙也くんの真正面に立って、真っ直ぐに見上げる。
「謙也くんのおかげで、今日は助かったよって」
テニスコートで倒れたときも。
寝てへんことを咎められたときも。
おばあちゃんの形見の話をしたときも。
謙也くんは真っ直ぐに向き合うてくれた。
一人きりでは抱えきれん荷物を、半分持ってもらった感覚に、酷く安心した。
「そんなん、当たり前っちゅー話や!」
底抜けに明るい声に背中を押された気がした。
――大丈夫、もう少し気張れる。
私はそっと笑みを落とすと「ほな、また明日な」と手を振った。
夕陽の光が、ネックレスの欠片に一瞬きらりと映った。
私が逃げんように、手は繋いだまま。
――もう、逃げへんよって。
そう心の中で苦笑しつつも、繋がれた指先から伝わる熱に浮かされてしまう。
こんなふわふわした気持ちで今日のレッスン大丈夫やろか、なんて頭に過るけど、そこは切り替えるしかない。
そっと息を吐き出して、謙也くんの横顔を盗み見る。
まだ、ほんの少しだけ不貞腐れた顔しとって、小さく笑ってしもた。
「……ほんま参るわ」
そう一人ごちるように呟いた。
幸い謙也くんには聞こえていなかったようで「今、なんか言うた?」と首を傾げている。
私は首を横に振ると「ううん、なんも」と続けた。
「今日、ほんまありがとうな」
「かまへんよ」
謙也くんはそう言うと、ようやく笑顔になって私を真っ直ぐに見る。
「ええか」
「なんでも一人で抱え込んだらあかんで」
「分かっとるよ」
「気ぃなんて使いなや」
「それも分かった」
「なんかあったら、俺がどうにかしたるから」
「……ありがとうな」
押し問答に緊張が解けたみたいに思わず吹き出した。
謙也くんの表情が訝しげに歪められる。
「なんや、しつこいお人やなぁ」
「はあああ!?」
謙也くんの大声が帰り道に響く。
「そんなん真優が一人で全部背負い込もうとするからやろ!!」
憤慨する謙也くんを「はいはい」となだめ、しっかりと見上げた。
「もう、大丈夫。……ほんまに」
謙也くんが私の目をじぃっと覗き込む。
やがて、安堵の息を吐くと「ほんま頼むで」と言った。
「ほんなら、レッスン頑張りや」
「うん、行ってきます」
沈黙――。
私は「……謙也くん、あのぅ」と笑顔のまま続けた。
「そろそろ手ぇ離してくれると助かるんやけど」
謙也くんの肩が跳ねた。それから真っ赤になってパッと手が離される。
「す、すまんっ!」
「ええよ。うちが逃げようとしたのが悪いんやし」
私は離された手を胸の前で握ると、謙也くんの真正面に立って、真っ直ぐに見上げる。
「謙也くんのおかげで、今日は助かったよって」
テニスコートで倒れたときも。
寝てへんことを咎められたときも。
おばあちゃんの形見の話をしたときも。
謙也くんは真っ直ぐに向き合うてくれた。
一人きりでは抱えきれん荷物を、半分持ってもらった感覚に、酷く安心した。
「そんなん、当たり前っちゅー話や!」
底抜けに明るい声に背中を押された気がした。
――大丈夫、もう少し気張れる。
私はそっと笑みを落とすと「ほな、また明日な」と手を振った。
夕陽の光が、ネックレスの欠片に一瞬きらりと映った。