9話:限界

真優は「やからこそ、こっちにおる間は精一杯働かせてもらいます」と笑った。

全国大会に同行できないならせめて──その思いは痛いほど分かる。
せめて学校にいる間だけでも役に立ちたい。

やけど、真優を突き動かしてるのは、あのとき見えた罪悪感やろ?

分かっとるのに、止められん自分にも腹が立つ。

ミーティングを終え、練習に戻る。
真優が全国に行かんと決めた。
なら、俺らを送り出してくれる真優に返すんは、全国制覇っちゅー結果や。
そう考えを改めて、部活に精を出す。

「あっつ」

俺はユニホームで額の汗を拭いながら、ふと視線をコート脇にやった。

真優は相変わらず、全員分のドリンクやタオルを手際よくさばいとる。
ドリンクは選手の好みも成分も完璧に把握した配合。
ほんまそこまでやらんでええやろ、と思うくらい、細かい気配り。

やけど、いつもと同じ動作やのに、今日はやたらと意識して呼吸整えとるように見えて、思わず首を傾げた。

なんや、しんどそう?

まあ、あんな話したあとやしな。
そら本人の気持ちがいっちゃん沈んどるっちゅー話か。
あとでアイスでも食わしたろ。

俺はふうっと一息つくと、太陽を見上げた。
眩しい……。
夏の日差しってほんま遠慮ないよな。

――そのとき、カシャン、とフェンスが鳴った。

ボールでもぶつかったかと思って視線をやると、真優がフェンスに寄りかかって。
指でフェンス掴もうとしとるんやろけど、力が入らんのか、そのままずるずるしゃがみ込んでしもとる。

顔色は青白いを通り越して、真っ白。

「……っ!」

考えるより先に足が動いた。
どうして、こうなる前に気付かへんかったんや。
ミーティングんときから、しんどそうやったやろ。

舌打ちと同時に、鋭い声が響く。

「危ないっ‼」

視界の端から、真優めがけてボールが飛び込んできた。
誰のショットかなんて関係ない。
俺は反射的に飛び込んで、ラケットを伸ばす。

――間に合えっ!

ガンッと衝撃が腕を伝う。弾かれたボールはコートの外で転がった。

一呼吸置く暇もなく振り向けば、真優が完全に力を失って座り込んでいる。
ラケットを投げ捨て、両肩をつかんだ。
瞬間、真優の身体が傾いて――。

「大丈夫かっ⁉」

焦る声に返事はない。
俺の胸にもたれたまま、きつく目を閉じ、浅い息を繰り返す。
触れた肩は冷たくて、驚くほど軽い。

息が荒くなって、胸の奥が焼けるみたいや。
この小さい身体、離したら二度と戻ってこん気がして。

歯ぎしりを一つ。
俺は真優を抱きかかえた。

腕から伝わる身体の小ささと軽さに、心臓を掴まれたように胸が痛む。

「……白石、ちょお保健室行ってくるわ」

できるだけ、淡々と伝えた。
けど、声が震える。
可視化できへん恐怖が全身を這い回っとる。

腕の中で真優は抵抗一つせず、ただ身体を預けてくる。
普段なら絶対にありえへん静けさ。

こうなる前に、手を打つチャンスはあった。何回も。
なのに、なんで。
後悔と苛立ちが、胸の奥でじくじくと熱を持つ。

目の下にくっきりと浮かぶクマ。
ジャージから除く、細く白い手足。
苦しげな表情。

その何もかもが、俺を責め立てるように感じる。
心配と苛立ちがないまぜになって、抱える腕に力がこもった。
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