8話:苛立ちの正体
あのあと、俺の機嫌は分かりやすいくらい良くなった。
財前が「は? 情緒不安定過ぎやろ。気持ち悪っ」とか言うてきたけど、それすらもあんま気にならんかった。
帰り支度をすませて部室の扉を開ければ、不意に「あ、やっと来た」という鈴を転がすような高い声が聞こえる。
声の方を見れば、制服に着替えた真優が壁に寄り掛かって立っとって。
「真優? なんや帰ったんとちゃうんかい」
「待っとったの」
「誰を?」
「謙也くん」
そう言われて、俺は目を丸くする。
真優は壁から「よいしょ」と言って離れると、俺の隣に並び立つ。
「いや、あんな意味分からんキレ方されて、ケロって許せると思う?」
むうっと頬を膨らませる真優の横顔に、今更になって申し訳なさが込み上げてくる。
それでも、素直に謝るのはなんだか癪で。
俺は頭を掻くと「すまんかったって……」とぶっきらぼうに謝った。
しばしの沈黙のあと、真優は「……アイス」とぽつりと呟く。
小さな声が夕焼けの光に溶けた。
「は? 何? アイス?」
「謙也くんのおごり。アイス食べさせてくれたら許したる」
顔をわずかに赤らめてむくれる真優が可愛らしい。
ドキリと心臓が強く脈打った。
「……そのくらい、いくらでもおごったるよ」
途端に真優の瞳が俺に向けられる。
驚いたように見開かれた瞳に映る俺は、しまりのない顔をしとって。
アイスおごるくらいで隣におること許してもらえるんやったら、安いもんや。
真優は数回瞬いたあと悪戯な表情を浮かべた。
「ほんなら、ハーゲ○ダッツとパ○ム。それからジャイア○トコーンと……」
「待て。待て待て。さすがに食べきれへんやろ!?」
指折りでアイスの種類を上げる真優に、俺は思わずストップをかける。
さすがに、俺のお財布事情っちゅーもんもある。
真優はふふっと吹き出したかと思えば、声を上げて笑いはじめた。
俺もその笑いにつられて、少しだけ息を吐く。
「冗談やん」
そう言って真優は先を歩き始めた。
「パ○コにしよ。あれやったら、一緒に食べれるやろ」
なんとなしに告げられた言葉に、彼女の優しさが乗る。
怒っとるんやったら、自分の分だけ買わせたらええのに。
「任せとき」
俺はそう言うと、小走りで真優の隣に並び立った。
絹糸みたいな長い髪も、抜けるみたいに白い肌も、水色の大きな瞳も、左目の泣きぼくろも――。
頑張り屋でまじめで、でも茶目っ気があって、優しい彼女のことが。
――俺、真優んこと好きなんやなぁ。
自覚してしまえば、簡単で。
けれど、それまでが大変で。
ただ『好き』だと認識してしまえば、心があたたかいものに満たされていく感覚に肩の力が抜けた。
橙の光の中、二人分の影が伸びる。
財前が「は? 情緒不安定過ぎやろ。気持ち悪っ」とか言うてきたけど、それすらもあんま気にならんかった。
帰り支度をすませて部室の扉を開ければ、不意に「あ、やっと来た」という鈴を転がすような高い声が聞こえる。
声の方を見れば、制服に着替えた真優が壁に寄り掛かって立っとって。
「真優? なんや帰ったんとちゃうんかい」
「待っとったの」
「誰を?」
「謙也くん」
そう言われて、俺は目を丸くする。
真優は壁から「よいしょ」と言って離れると、俺の隣に並び立つ。
「いや、あんな意味分からんキレ方されて、ケロって許せると思う?」
むうっと頬を膨らませる真優の横顔に、今更になって申し訳なさが込み上げてくる。
それでも、素直に謝るのはなんだか癪で。
俺は頭を掻くと「すまんかったって……」とぶっきらぼうに謝った。
しばしの沈黙のあと、真優は「……アイス」とぽつりと呟く。
小さな声が夕焼けの光に溶けた。
「は? 何? アイス?」
「謙也くんのおごり。アイス食べさせてくれたら許したる」
顔をわずかに赤らめてむくれる真優が可愛らしい。
ドキリと心臓が強く脈打った。
「……そのくらい、いくらでもおごったるよ」
途端に真優の瞳が俺に向けられる。
驚いたように見開かれた瞳に映る俺は、しまりのない顔をしとって。
アイスおごるくらいで隣におること許してもらえるんやったら、安いもんや。
真優は数回瞬いたあと悪戯な表情を浮かべた。
「ほんなら、ハーゲ○ダッツとパ○ム。それからジャイア○トコーンと……」
「待て。待て待て。さすがに食べきれへんやろ!?」
指折りでアイスの種類を上げる真優に、俺は思わずストップをかける。
さすがに、俺のお財布事情っちゅーもんもある。
真優はふふっと吹き出したかと思えば、声を上げて笑いはじめた。
俺もその笑いにつられて、少しだけ息を吐く。
「冗談やん」
そう言って真優は先を歩き始めた。
「パ○コにしよ。あれやったら、一緒に食べれるやろ」
なんとなしに告げられた言葉に、彼女の優しさが乗る。
怒っとるんやったら、自分の分だけ買わせたらええのに。
「任せとき」
俺はそう言うと、小走りで真優の隣に並び立った。
絹糸みたいな長い髪も、抜けるみたいに白い肌も、水色の大きな瞳も、左目の泣きぼくろも――。
頑張り屋でまじめで、でも茶目っ気があって、優しい彼女のことが。
――俺、真優んこと好きなんやなぁ。
自覚してしまえば、簡単で。
けれど、それまでが大変で。
ただ『好き』だと認識してしまえば、心があたたかいものに満たされていく感覚に肩の力が抜けた。
橙の光の中、二人分の影が伸びる。