8話:苛立ちの正体

部活中、真優はちょこまかと、よう動いとる。
ドリンクを作ったかと思えば、タオルを用意して、時折、小春とユウジのネタ披露に巻き込まれ拍手をする。

そんな中で、白石はちょくちょく真優を気遣って「ちょお休んどき」とか「真優もちゃんと水飲みや」と声を掛けとる。

「そんな心配せんでも。うちは大丈夫やよ」
「あかん。確かにテニスはしてへんけど、外で動いとるんはおんなじや」
「なんや、白石くんお母さんみたいやなぁ」
「お母さんって……お前なぁ」

そんな会話が聞こえてくるたび、俺はついついそちらを見てしまう。

――なんで、そないに楽しそうに話しとんねん。

言い知れぬ苛立ちに、口がへの字に曲がり、ラケットを握る手に力が入った。

「謙也さん、どないしたんです? 部長と真優さん見て」

すぐ傍でウォームアップしとった財前が訝しげに首を傾げる。
意味分からんみたいな表情と、おちょくったろみたいな表情半々で見てくるけど、正直それに付き合う余裕がない。

「……いや、なんでもあらへん」

不機嫌を隠さず返せば、財前は呆れ口調で「なんや珍し」と続けた。

「いつもやったらうるさいくらい反論してくるでしょ」

図星や。
けど、今は返す気力もない。
考えることが多すぎる。
真優の体調のこと、家のこと、それから白石との距離感。

――そんなんばっか、頭ん中ぐるぐる回りよる。

やけど、このままなんも返さんのも癪やと言葉を探したとき、不意に「わっ」と真優の声が聞こえてきた。
思わずそちらを向けば、足元のボールかごに引っかかった真優の腕を、白石がぐっとつかんで支えている光景が目に入った。

ドキッと一拍、心臓が強く脈打つ。

頭の中が白なる。
心臓の奥が焼けるみたいに熱くなって、息が詰まる。

自分がその光景にショックを受けているのだけは分かって、見てられへんで視線を逸らした。

「大丈夫かいな? ほんま、しっかりしいや」
「ありがとうな、白石くん。助かったわ」

遠くなる世界の中で、二人のやり取りが鮮明に聞こえる。

――なんやねん、あれ。

俺は二人に背を向けると、歩き出した。

「あ、ちょっ……謙也さん。どこ行くんです?」
「トイレや、トイレ」

財前の慌てた声に俺はそっけなく返す。

トイレなんてそんなんただの口実で。
なんや、この場にいたない。
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