6話:家族

部活を少し早めに切り上げ、私はグラウンドへ向かっていた。

――尚、サッカー部やったっけ。

視線を走らせると、隅っこで汗を拭っている小柄な背中を見つける。

「尚!」と声を掛けると、弟はキョロキョロと辺りを見回し、私を見つけて目を丸くした。

「姉ちゃん⁉ どうしたん? 珍しなぁ」
「ちょおいろいろあってな」
「……あー、声聞こえとったで。あれ、お母さんやろ?」
「マジか」

眩暈を起こしそうになる。
テニスコートからグラウンドまで響く怒声って、もはや拡声器レベルやん。
ため息を一つ落とし、「尚、今日塾やった?」と尋ねると、弟は首を傾げながら頷いた。

「悪いこと言わん、今日はゆっくり帰ってき」
「そんな感じか」
「多分ね。あの人、だいぶ荒れてる」
「姉ちゃんは? 帰るん?」

不安そうな瞳がこちらを探る。
そして、何かを決めたように、真っ直ぐ口を開いた。

「姉ちゃんが帰るんなら、俺、塾休んででも帰るで!」

その言葉に、思わず目を見張る。
恐怖も混じっているくせに。
でも、それよりも守りたい気持ちの方が勝っとって。

この間まで私の背中に隠れとったのに。

「尚ーー!」

私は反射的に抱きついた。
尚は真っ赤になって「や、やめーや!」と腕の中でもがくけど、本気で振りほどこうとはせえへん。

伝わってくる尚の体温に、小さかった頃の記憶が一瞬だけよみがえって、小さく笑みをこぼす。
可愛い奴め、と頭をくしゃくしゃに撫で回してやった。

「いつの間にか、めっちゃかっこよなって」
「るっさいわ!」

悪態混じりでも、姉の手は払いのけないあたり、なんだかんだ優しい弟。
私はようやく腕を解くと、笑って言った。

「うちはすぐ帰らんから大丈夫」
「寄らなあかんとこあるさかい。ちょお遅なるわ」
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