4話:I know…
部活も終盤に差し掛かり、試合形式の練習が始まった。
私はみんなの邪魔にならないように、隅っこの方で小さくしゃがんで見る。
――うちにはできへんことばっかり、しはるねんな。
自分がピアノ以外は得意ではないと理解はしとったけど。
そこまで運動神経やって悪くないと思っとったけど。
運動神経の差をこうもまざまざと見せつけられると、複雑な気持ちになってしまう。
どこからか転がってきたテニスボールがフェンスに当たって、カシャンと小さな音を立てた。
私はふと、近くにいた小石川くんに話し掛ける。
「銀さんと打っとる子ぉが千歳くん?」
「せやで。千歳もこの四月に転入してきたばっかやでな」
あ、そやったんや。
「かなりマイペースな奴やって、部活にもふらっと現れたり、現れんかったり」
「……昨日おらんかったもんな」
そういえば、と転入初日の出来事を思い出す。
会議室みたいなところで、尚と説明聞いとるとき、うしろの方で先生が大慌てで電話を繰り返して。
確か「はい!? どういうことですか? 千歳、寮にもおらんの!?」とかなんとか。
――あれ、この千歳くんのことか。
そんなことを考えながら見ていた千歳くんと銀さんの練習試合は、千歳くんの勝利で幕を閉じた。
「銀の打球は重かね」
「そらそうや」
同じ転入生なのに、千歳くんはとっくに部活に入って馴染んどる。
対する私は、続けられる自信もなければ、休みがちになる未来に二の足を踏んでいる。
なんや対照的。
千歳くんを見ていると、自分の意気地なさにネガティブなことばかり考えてしまう。
「ドリンクばもらってよか?」
不意に頭上から声が掛かる。
顔を上げると、千歳くんが立っていて。
私は慌てて立ち上がると、千歳くんにドリンクとタオルを手渡した。
「はい」
――いや、背ぇ高。
今まで遠目から見ていた上に、銀さんと並んどったからすぐに気付かんかったけど。
千歳くんはものすごく背が高い。
白石くんや謙也くんも高いと思っていたけど、それをはるかに凌駕する勢い。
そんな私の驚愕を千歳くんは気にも留めず「白石から聞いとるよ、二組の小鳥遊さんじゃね」と笑っている。
私は一つ頷くと「身長何センチあるん?」と無意識に問い掛けていた。
千歳くんはドリンクを飲みながら目を丸くしたあと、何てことなさそうに「一九四センチばある」と答えた。
一九四、それは。
千歳くんは緩やかに目を細める。
「目立ってよかと?」
「よう目立ってええね」
そう返せば、千歳くんは突然かがんで「ええこつ教えちゃる」と、こっそり耳打ちしてきた。
「ここん人らは、よそ者ん俺ば普通に受け入れてくれたけん。そんな気ぃ張らんでよかよ」
私は目を丸くして、千歳くんをまじまじと見つめた。
「なんで?」
「なんでって……そぎゃん、なんか悩んでそうやけん。同じ転入生のよしみ?」
なんてことなさそうに告げる千歳くんに、私は数回瞬いたあと、ふっと吹き出した。
胸の内に渦巻いていた、暗い思考がふわっと晴れた気がする。
突然笑い出した私に、千歳くんは一瞬面を食らった表情を浮かべたものの、ほほ笑んでドリンクを返してきた。
「お役に立てたと?」
「めちゃくちゃ立ったよ」
「ほんならよかね。ドリンクありがとさん」
「あ、うん」
「入部するにせよ、せんにせよ。そこまで心配するこつなかよ」
千歳くんはそれだけ言うと、手をひらひら振って去っていった。
□ + ◇ + □
部活が終わり、そぞろに帰路につく。
帰り支度をしているとたくさんの部員から「また明日もきいや!」と自然に声を掛けられた。
「……楽しかったな」
私は小さく笑み、ぐぐっと身体を伸ばす。
本当、この部にはいろんな人がおる。
みんな、揃いも揃ってキャラが濃い。
やのに、なんでやろうな。
どうして、こんなにあたたかいんやろう。
この場所が私の居場所になったらええな――そう思った。
私はみんなの邪魔にならないように、隅っこの方で小さくしゃがんで見る。
――うちにはできへんことばっかり、しはるねんな。
自分がピアノ以外は得意ではないと理解はしとったけど。
そこまで運動神経やって悪くないと思っとったけど。
運動神経の差をこうもまざまざと見せつけられると、複雑な気持ちになってしまう。
どこからか転がってきたテニスボールがフェンスに当たって、カシャンと小さな音を立てた。
私はふと、近くにいた小石川くんに話し掛ける。
「銀さんと打っとる子ぉが千歳くん?」
「せやで。千歳もこの四月に転入してきたばっかやでな」
あ、そやったんや。
「かなりマイペースな奴やって、部活にもふらっと現れたり、現れんかったり」
「……昨日おらんかったもんな」
そういえば、と転入初日の出来事を思い出す。
会議室みたいなところで、尚と説明聞いとるとき、うしろの方で先生が大慌てで電話を繰り返して。
確か「はい!? どういうことですか? 千歳、寮にもおらんの!?」とかなんとか。
――あれ、この千歳くんのことか。
そんなことを考えながら見ていた千歳くんと銀さんの練習試合は、千歳くんの勝利で幕を閉じた。
「銀の打球は重かね」
「そらそうや」
同じ転入生なのに、千歳くんはとっくに部活に入って馴染んどる。
対する私は、続けられる自信もなければ、休みがちになる未来に二の足を踏んでいる。
なんや対照的。
千歳くんを見ていると、自分の意気地なさにネガティブなことばかり考えてしまう。
「ドリンクばもらってよか?」
不意に頭上から声が掛かる。
顔を上げると、千歳くんが立っていて。
私は慌てて立ち上がると、千歳くんにドリンクとタオルを手渡した。
「はい」
――いや、背ぇ高。
今まで遠目から見ていた上に、銀さんと並んどったからすぐに気付かんかったけど。
千歳くんはものすごく背が高い。
白石くんや謙也くんも高いと思っていたけど、それをはるかに凌駕する勢い。
そんな私の驚愕を千歳くんは気にも留めず「白石から聞いとるよ、二組の小鳥遊さんじゃね」と笑っている。
私は一つ頷くと「身長何センチあるん?」と無意識に問い掛けていた。
千歳くんはドリンクを飲みながら目を丸くしたあと、何てことなさそうに「一九四センチばある」と答えた。
一九四、それは。
千歳くんは緩やかに目を細める。
「目立ってよかと?」
「よう目立ってええね」
そう返せば、千歳くんは突然かがんで「ええこつ教えちゃる」と、こっそり耳打ちしてきた。
「ここん人らは、よそ者ん俺ば普通に受け入れてくれたけん。そんな気ぃ張らんでよかよ」
私は目を丸くして、千歳くんをまじまじと見つめた。
「なんで?」
「なんでって……そぎゃん、なんか悩んでそうやけん。同じ転入生のよしみ?」
なんてことなさそうに告げる千歳くんに、私は数回瞬いたあと、ふっと吹き出した。
胸の内に渦巻いていた、暗い思考がふわっと晴れた気がする。
突然笑い出した私に、千歳くんは一瞬面を食らった表情を浮かべたものの、ほほ笑んでドリンクを返してきた。
「お役に立てたと?」
「めちゃくちゃ立ったよ」
「ほんならよかね。ドリンクありがとさん」
「あ、うん」
「入部するにせよ、せんにせよ。そこまで心配するこつなかよ」
千歳くんはそれだけ言うと、手をひらひら振って去っていった。
□ + ◇ + □
部活が終わり、そぞろに帰路につく。
帰り支度をしているとたくさんの部員から「また明日もきいや!」と自然に声を掛けられた。
「……楽しかったな」
私は小さく笑み、ぐぐっと身体を伸ばす。
本当、この部にはいろんな人がおる。
みんな、揃いも揃ってキャラが濃い。
やのに、なんでやろうな。
どうして、こんなにあたたかいんやろう。
この場所が私の居場所になったらええな――そう思った。