4話:I know…
あのあと、小春ちゃんと謙也くんが騒いでいたら、白石くんのお説教を食らうことになった。
――うち、騒いでないねんけど。
私たちは(途中から、全く関係のない一氏くんもやってきて)「すみませんでした」と謝罪し、謙也くんと小春ちゃんはグラウンド五周を言いつけられ走りに行った。
私はええの、と白石くんに聞けば呆れ顔で「走れるん?」と聞き返されてしまった。
「自分、運動苦手そうやしな」
「……別に苦手やないよ」
「ほんなら走る?」
「遠慮しとくな」
「言うとくけど、本入部したら、そうはいかんで」
そんな会話をしていると、あっという間に謙也くんが戻ってきた。
――もう五周走り終わったん?
考えが顔に出ていたんやと思う。白石くんがふっと笑い「謙也、速いやろ」と続けた。
「めっちゃ速いから、浪速のスピードスターなんて呼ばれとるで」
「へぇ」
走り終わったばかりやのに、謙也くんは汗一つかいていない。
しかも、そのままインターバルもなしに涼しい顔で財前くんと打ち合っている。
財前くんは財前くんで、謙也くんの素早い返球を難なく返している。
「やっぱ、みんなすごいなぁ」
思わず漏れた言葉に白石くんが嬉しそうに「せやろ!」と笑った。
そうこうしているうちに、謙也くんがポイントを決める。
西日に、彼らの汗が反射して――。
小さく作ったガッツポーズに、普通の男の子を感じ、私はふっと表情を緩めた。
視線の先で、小石川くんが謙也くんと財前くんに話し掛けている。三人はしばし話し込んだかと思えば、連れ立ってこちらへやってきた。
白石くんが三人に向かって「どないしてん?」と問えば、小石川くんが「ぼちぼち休憩入りや伝えただけや」と笑う。
それから、白石くんに向かって「あと、白石はオサムちゃんが探しとったで」と言った。
「オサムちゃん?」
思わず繰り返せば、小石川くんが「うちの顧問や」と端的に言った。
顧問って先生やんな?
オサムちゃんって、そんなフランクな。
私は腕を組んで小さく唸った。
なんや四天宝寺って先生もフレンドリーやから、距離感分からんなるな。
苦笑する私をしり目に、白石くんは続けた。
「なんやろな。あの人が呼び出すなんて珍し……」
白石くんはそう一人ごちるとその場を後にし、小石川くんもそれに続く。
やっぱり部長、副部長は大変そう。
そんなこと考えつつ、休憩に入った二人にドリンクボトルを渡す。
「おおきに」と受け取った二人が何気なしに口を開いた。
「監督が部長呼んだんって、小鳥遊さんのことでしょ?」
「え、うち?」
突然、自分の名前を挙げられて肩を跳ねさせてしもた。
数回瞬いて、財前くんを見上げれば、彼は謙也くんに視線を送って「ねぇ?」と言っている。
「まあ、二日連続で入部届も出してへんのに来とるしな」
「今日は『来させた』の間違いやろ」
「まあ……?」
口をへの字に謙也くんに言い返せば、居心地悪そうに視線を逸らされた。
今日は来るつもりなかったからな!
呆れ顔になってため息を吐く私に、不意に財前くんが「まあ、でしょうね」と続けた。
「入るか分らんのに来とるねんから」
歯に物着せぬ言い方に、冷や水を浴びせられた感覚を覚える。
私が息を飲んだ音に気が付いた謙也くんが「財前! お前言い過ぎや!」と声を上げる。
けれど、同時に私は額を押さえ「分かる……っ」と口にした。
「分かるんかいっ!」
瞬間、飛んでくる謙也くんの鋭い突っ込みにあはは、と申し訳なさそうに笑うほかない。
ただでさえ、入るか悩んどる私が連日部活に顔出しとるなんて、顧問からしたら、なんでやねんってなるやろし。
……多分、前の学校からの申し送りで、私の家庭事情やってある程度知っとるやろし。
それ知ったうえで、って考えたら顧問からしたら頭痛いよなぁ、なんて。
そっと財前くんを覗き見る。
――この子、なんやかんや鋭そうやさかい。
いろいろバレんように、気ぃ付けとかな。
財前くんは謙也くんを一瞥すると「そりゃそうでしょ」と呆れ口調で続ける。
「監督どうこうってのもあるんでしょうけど」
「実際問題、本人がきついんとちゃいます?」
財前くんの鋭い視線が刺さる。
思っていた返答とは違ったけれど。
もっと――私が気付いてほしくないと思っている、根本の部分を突かれる気がして。
私は「何が?」と、その視線に気が付かないふりをして問い返す。
そうすれば、財前くんは小さなため息を吐いて、仕方なさそうに言葉を紡いだ。
「学校来て部活やって、ピアノもやって、って」
財前くんの心配そうな視線が、私を貫く。
「練習時間確保しよ思たら、ぶっちゃけ時間足りへんのとちゃいます?」
――ほんま、痛いとこつくなぁ。
私はそっと息を吐き出すと、視線を動かして謙也くんを見た。
謙也くんは訝しげに眉根を寄せ、首を傾げている。
あ、謙也くんは分かってなさそう。
私は、口角を引き上げると「まあ、先生が何考えとるんかは分からんけど」と続けた。
「うちなりにちゃんと考えとるさかいに。……あんま気にしぃな」
そう告げれば、財前くんは「ま、ええっすけど」と納得しきらない表情を浮かべたまま、ドリンクを飲んだ。
――うち、騒いでないねんけど。
私たちは(途中から、全く関係のない一氏くんもやってきて)「すみませんでした」と謝罪し、謙也くんと小春ちゃんはグラウンド五周を言いつけられ走りに行った。
私はええの、と白石くんに聞けば呆れ顔で「走れるん?」と聞き返されてしまった。
「自分、運動苦手そうやしな」
「……別に苦手やないよ」
「ほんなら走る?」
「遠慮しとくな」
「言うとくけど、本入部したら、そうはいかんで」
そんな会話をしていると、あっという間に謙也くんが戻ってきた。
――もう五周走り終わったん?
考えが顔に出ていたんやと思う。白石くんがふっと笑い「謙也、速いやろ」と続けた。
「めっちゃ速いから、浪速のスピードスターなんて呼ばれとるで」
「へぇ」
走り終わったばかりやのに、謙也くんは汗一つかいていない。
しかも、そのままインターバルもなしに涼しい顔で財前くんと打ち合っている。
財前くんは財前くんで、謙也くんの素早い返球を難なく返している。
「やっぱ、みんなすごいなぁ」
思わず漏れた言葉に白石くんが嬉しそうに「せやろ!」と笑った。
そうこうしているうちに、謙也くんがポイントを決める。
西日に、彼らの汗が反射して――。
小さく作ったガッツポーズに、普通の男の子を感じ、私はふっと表情を緩めた。
視線の先で、小石川くんが謙也くんと財前くんに話し掛けている。三人はしばし話し込んだかと思えば、連れ立ってこちらへやってきた。
白石くんが三人に向かって「どないしてん?」と問えば、小石川くんが「ぼちぼち休憩入りや伝えただけや」と笑う。
それから、白石くんに向かって「あと、白石はオサムちゃんが探しとったで」と言った。
「オサムちゃん?」
思わず繰り返せば、小石川くんが「うちの顧問や」と端的に言った。
顧問って先生やんな?
オサムちゃんって、そんなフランクな。
私は腕を組んで小さく唸った。
なんや四天宝寺って先生もフレンドリーやから、距離感分からんなるな。
苦笑する私をしり目に、白石くんは続けた。
「なんやろな。あの人が呼び出すなんて珍し……」
白石くんはそう一人ごちるとその場を後にし、小石川くんもそれに続く。
やっぱり部長、副部長は大変そう。
そんなこと考えつつ、休憩に入った二人にドリンクボトルを渡す。
「おおきに」と受け取った二人が何気なしに口を開いた。
「監督が部長呼んだんって、小鳥遊さんのことでしょ?」
「え、うち?」
突然、自分の名前を挙げられて肩を跳ねさせてしもた。
数回瞬いて、財前くんを見上げれば、彼は謙也くんに視線を送って「ねぇ?」と言っている。
「まあ、二日連続で入部届も出してへんのに来とるしな」
「今日は『来させた』の間違いやろ」
「まあ……?」
口をへの字に謙也くんに言い返せば、居心地悪そうに視線を逸らされた。
今日は来るつもりなかったからな!
呆れ顔になってため息を吐く私に、不意に財前くんが「まあ、でしょうね」と続けた。
「入るか分らんのに来とるねんから」
歯に物着せぬ言い方に、冷や水を浴びせられた感覚を覚える。
私が息を飲んだ音に気が付いた謙也くんが「財前! お前言い過ぎや!」と声を上げる。
けれど、同時に私は額を押さえ「分かる……っ」と口にした。
「分かるんかいっ!」
瞬間、飛んでくる謙也くんの鋭い突っ込みにあはは、と申し訳なさそうに笑うほかない。
ただでさえ、入るか悩んどる私が連日部活に顔出しとるなんて、顧問からしたら、なんでやねんってなるやろし。
……多分、前の学校からの申し送りで、私の家庭事情やってある程度知っとるやろし。
それ知ったうえで、って考えたら顧問からしたら頭痛いよなぁ、なんて。
そっと財前くんを覗き見る。
――この子、なんやかんや鋭そうやさかい。
いろいろバレんように、気ぃ付けとかな。
財前くんは謙也くんを一瞥すると「そりゃそうでしょ」と呆れ口調で続ける。
「監督どうこうってのもあるんでしょうけど」
「実際問題、本人がきついんとちゃいます?」
財前くんの鋭い視線が刺さる。
思っていた返答とは違ったけれど。
もっと――私が気付いてほしくないと思っている、根本の部分を突かれる気がして。
私は「何が?」と、その視線に気が付かないふりをして問い返す。
そうすれば、財前くんは小さなため息を吐いて、仕方なさそうに言葉を紡いだ。
「学校来て部活やって、ピアノもやって、って」
財前くんの心配そうな視線が、私を貫く。
「練習時間確保しよ思たら、ぶっちゃけ時間足りへんのとちゃいます?」
――ほんま、痛いとこつくなぁ。
私はそっと息を吐き出すと、視線を動かして謙也くんを見た。
謙也くんは訝しげに眉根を寄せ、首を傾げている。
あ、謙也くんは分かってなさそう。
私は、口角を引き上げると「まあ、先生が何考えとるんかは分からんけど」と続けた。
「うちなりにちゃんと考えとるさかいに。……あんま気にしぃな」
そう告げれば、財前くんは「ま、ええっすけど」と納得しきらない表情を浮かべたまま、ドリンクを飲んだ。