3話:義務とピアノと

「つまり、ピアノあるから部活参加は難しいけど、部活に入らなあかんからどないしよう、と?」
「おっしゃる通りです」

私の話を一通り聞いた、謙也くんが腕を組む。

「確かにうちの学校活発な部活多いからな」
「それで義務制やろ? どないしよ思て」
「謙也、なんか穴場知らんの?」
「穴場ぁ?」

友人も一緒になって聞いてくれる。頼もしい。
私なんか、一回『謙也くん』と呼ぶだけで、ドギマギしてしまってそれどころではなくなっていたから、本当にありがたい。

謙也くんは「そうやなぁ」と言うと、思いついたように「うちの部長に聞いてみよか」と声を上げた。

「白石! ちょおこっち来てや」

瞬間、友人の表情が若干華やいだ。

――分かりやす。
まあ、格好ええ子って見とるだけで幸せになれるもんな。

私は友人の様子にそっと笑う。
そうすれば、今度は友人から鋭い視線が飛んできた。
はいはい、黙っときますよ。

白石くんは読みかけの本を閉じると「どないしたん?」と謙也くんの横に並び立つ。

こうやって見ると、二人とも背が高いなと思う。
他の男の子たちより頭一つ分くらい飛び抜けとるんやないかな。見上げる分、首が痛い。

そんなこと思っとるうちに、謙也くんが白石くんに私の困りごとの共有をしてくれた。

白石くんは「難儀やなぁ」とこぼすと、顎のあたりに手を添えて少しの間考え込む。
「あ、ほんなら」
不意に何か思いついた様子で、白石くんが声を上げた。

「一回テニス部見に来るか?」
「……テニスできへんけど」

そう言えば、白石くんは笑って「ちゃうよ」と続ける。

「マネージャー。それやったら怪我もせんやろし、試合に出るわけでもないから、休みの融通利くやろ」

私は思わず目を見開いた。

「ほんまに言うてる?」
「割りと理にかなってると思うけど。謙也どう思う?」

白石くんはそう言うと謙也くんの方を向いた。
謙也くんは「ええんちゃう?」と答え、私の机の前にしゃがみこんだ。それから、覗き込むように目を見てくる。

――謙也くんって、目澄んどって綺麗よなぁ。
友人は白石くんが好みっぽいけど。
うちは謙也くんのが……って、何考えてんねやろ。

くだらんことを考える頭に突っ込みつつ、咳払いで思考を強制終了させる。

いやいや。男前やと思いますよ、二人とも。
やけど、そういう話しとるんやないんよ、今。

私はまぶたを伏せると、ゆっくり持ち上げて首を傾げた。
ずっと見てくるけど、なんやろか?

「まあ、真優のしたいようにしたらええんちゃう?」

瞬間、私はフリーズした。

――今、真優って呼んだ?
何? 距離つめるん早ない?
……いや、別に名前くらいええねんけど。
多分、他意もないんやろうけど。

固まる私は、机の端を指先でそっとなぞりながら、ゆっくりと謙也くんから視線を逸らした。

視界の端が熱を帯びる。
助けを求めるように白石くんと友人を見やる。

二人は互いに見合わせると、何か言いたげな表情を浮かべてため息を吐いた。

「謙也、分かりやすいからなぁ」
「ね。謙也、いきなり名前で呼んだら真優ちゃんびっくりしてまうよ」

よかった。二人が分かってくれてよかった。
私がおかしいんかと思った。

顔の熱をどうすることもできず、私は耳にかかった髪をいじりながら再び謙也くんを見た。
謙也くんはきょとんとした表情のまま「え? あかんかった?」と首を傾げている。

「……あかんこと、ないけど」
「なら、ええやん」
「~っ! 好きにして!」

私は顔を両手で覆うと早口で呻いた。
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