いーちゃんと姫ちゃんの日常
『こたつは人をダメにする』
「冬と言えばやっぱりこたつですね~。では師匠、こたつと言えばなんだと思うです?」
温かさに頬を緩ませご機嫌な様子で一姫は目の前で同じようにこたつに入っている戯言遣いに尋ねた。
戯言遣いはほんの数秒間をあけて、「……眠気、かな?」と答えた。
そんな回答に一姫は「ふふふ」と不敵に笑った。
「とうとう師匠に勝訴できる日が来たです……。正解はこれなのです!こたつと言えばみかんなのですよ! 師匠!」
どこからだしてきたのか、山盛りにされたみかんをバンッと出してきた一姫は満面の笑みである。が——
「あああっ、し、師匠! だだだ大事件なのです! みかんがっ、勢いよく置いたせいでみかんがおにぎりの様にガラガラと!」
皿の上から転がり床へと落ちていくみかんに一姫は青ざめる。しかし戯言遣いはのんびりとそれを眺めている。
「師匠、そっちに行ったみかんを拾ってくださいですよ~」
「うーん、そうだね」
「頷いてるだけで動いてないですよ、師匠。なんです? もしかして師匠眠いです?」
「姫ちゃん、こたつには確かにみかんも必要だけど、絶対に付いてくるものは温かさからくる眠気なんだよ……」
「師匠! だめです! 寝てしまったら一生起きれなくなるですよ!」
「姫ちゃん……それは雪山とかで言うセリフだよ……」
こたつでおいしそうにみかんを食べている一姫。
一姫のすぐ目の前にはこれは自分のものだという様に今食べているみかんとは別に三つのみかんが並べられている。
戯言遣いはその様子をのんびりと眺める。咀嚼とともに揺れる頭につけている黄色いリボンはまるで生き物のようだ。
「姫ちゃん、美味しい?」
「おいしいですよ。師匠もいかがです?」
「お言葉に甘えてもらおうかな」
「どうぞです~」
一姫は目の前に並べていた一番右端のみかんを戯言遣いの前まで転がした。コロコロと不安定に転がってきたみかんは丁度テーブルの真ん中あたりでその動きを止めた。
「……」
「止まりましたよ。師匠」
「そうだね、姫ちゃん」
「……」
「……よいしょっと」
無言で見つめてくる一姫。戯言遣いは渋々といった様子でみかんに手を伸ばす。
——届かなかった。