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戯言・人間シリーズ

「人識くん人識くん。さて今日は何の日でしょう?」
 帰ってきた人識を伊織はニヤニヤという表現があいそうな笑顔と言葉で出迎えた。
「さあな。どこかの国の誰かさんの誕生日なんじゃねえの」
「男の子の夢の日なのに冷めた返事ですねぇ」
 義手のつけていないせいで不自然に長い袖が伊織のため息に合わせてパタパタと揺れる。
 そんな伊織の反応に人識は外で見たチョコや店の装飾を思い出す。
「…………ああ。バレンタインデーか。さいですか」
「答えあっているのになんでそんなに期待のない死んだ目をしてるんですか」
「いや、俺には関係ないなーって」
「ふふふふ、そう言うだろうと思っていましたよ、人識くん。伊織ちゃんは今時女子高生ですから、ちゃーんと用意しておきましたとも!」
「え、伊織ちゃん料理できんの?」
「義手のリハビリには持ってこいでした」
「今はつけてねえじゃん」
「黒い義手が茶色にそまっちゃいまして」
「俺がもらってきてやったもんを汚してんじゃねーよ!」
 てへ、と舌を出し伊織は肩をすくめた。
「あとできれいにするので人識くん手伝ってください」
「……あー、もうはいはい。分かったよ。で、チョコくれんの?」
「あげますよぉ。ただあいにく現在手がありませんので」
 そう言いながら人識に背を向ける伊織。なにやら口を使ってガサゴソとしている。そんな姿に人識はひらめく。
「ははーん、分かったぞ。お金はあるから自分で買ってきてくださいってパターンだろ」
「ぶっぶー不正解でーす。正解はチョコの口渡しになりまーす」
 くるりと振り返った伊織の口には鋏の模様がはいったハート形のチョコがくわえられていた。
「…………」
「パクッとしちゃっていいですよ?」
 もごもごとチョコを咥えたまま器用に喋る伊織に対して人識は表情を変えることなく「ふうん」と一言呟いただけだった。
──思ってたよりも普通の反応ですねぇ。
 困っている人識の顔見たさからでた言葉だったが、つまらない反応だったのでネタばらしをすることにする。
「なーんて冗談でっすよっとぉ!??」
 そして、腰を抜かした。
「あ、おいこら。顔を離すなっつーの。落ちるだろうが」
 伊織は人識の言葉に対して首を振りそうになり、人識にそれができないように後ろから手で止められる。
「だから暴れたらチョコが落ちる」
「おおお落ちる。落ちるでしょうけども!! 人識くん? ちか、近くないですか??」
「あ? お前が口渡しだって言ったんだろうが」
「冗談って言ったの聞こえてましたよね?」
「さあな?」
「絶対聞こえてましたよね! 人識くんは手があるんだから手で取ってくださいよ!!」
「やだ」
「なんでですか!」
「だって手が汚れちまうだろうが」
 そう言って「かはは」と人識は笑い、チョコを食べようとさらに伊織へと顔を近づけ──

          おわり(続きません)
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