みじかいの
それは二人にとって、特にカトルにとっては、心も体も待ち焦がれた悲願の瞬間だった。
もしかしたら、何も残らないかもしれない。
それでも確かな、深い繋がりがほしいと、カトルはグランに申し出た。
そしてグランもそれを受け入れる覚悟を決めた──はずだったのだが。
「無理無理無理! ストップ! こんなの入らないって!」
「……は?」
たった一文字、カトルから向けられたこの時の声は、グランに覚えのあるカトルの声の中で最も低く、今まで経験をしたことがないような身の危険を感じたと言う。
「……裸で股開いて尻穴見せ付けておきながらよくそんなことが言えますね」
「なっ!?」
大体、カトルもこんな言い方がしたかったわけではない。
雰囲気も準備も完璧だった。
寧ろ、カトルの想像以上にグランは乱れてくれた。
才能だとか体の相性だとか、下世話極まりないと聞き流していた俗説を、まさか身を以て知ることになるとは思っていなかった。信じてもいない神に感謝しかけるところだった。
それほどここまで順調だったというのに、この状況で素に戻るだなんて考えられない。
「さっきまで初めてなのに指を三本も咥えてローションをぐちゃぐちゃかき混ぜられながら前立腺で泣くくらい気持ちいいわかんない気持ちいいっていい声で喘いでいたのに何急に怖気付いてるんですか」
「あーあー! やめて言わないで恥ずかしいから……」
「何を今更カマトトぶってやがンだテメエはよぉ!」
出てしまったものは仕方がないが、口が悪くなってしまう癖も出てくる予定ではなかった。
グランと出会ってから調子の狂うことは多々あったが、こんな場面でそれはないだろうと、カトルは大きく溜め息を吐く。
その表情は意気消沈といったところなのだが、当のグランは逸らした目線の端に問題のそれを捉えたままだ。
「だ、だってこんなの、お尻にって……」
こんなのとは言うまでもなく、グランの痴態に興奮して膨れ上がったカトルの欲望の成の果てである。
簡潔に言えばガチガチに勃起したち●こである。
グランも腹を括ったつもりではあったが、怖気付いたかと聞かれると実際にそうだ。
本当に入るのか、絶対痛いに決まっている、裂けたらどうしてくれるんだ──など言い始めればキリがない。
しかし、指で慣らされ、未知の快楽を知ってしまったばかりのそこにそんなものが入ったら一体自分はどうなってしまうのか。
そしてシンプルにこの現状である。
「……て言うか、萎えないんだ……」
「そうですね、僕も驚いています」
それほどなのだと察しろと、カトルはその先端を閉ざされた入り口にぐり、と擦り付けた。
ローションの名残と先走りがくちくちと音を立て、少しだけ腰を進めるとその分に合わせるように縁が広がっていく。
「っ……ン……」
「ほら、いい加減に観念してください。体の力を抜いて」
カトルはグランを安心させるように唇を重ねる──拒む様子はないどころか、入り口がきゅっと反応している。
どうやら言葉よりも体の方が正直なのはお互い様のようだ。
そして、遂にその時は訪れる。
「怖いのは最初の二、三秒です。あとは気持ちがいいだけですから」