みじかいの

「うーん……」
 唸るルリアの視線は、とある一点を見つめていた。それは魅惑的で、どこまでも吸いこれるような──
「どうしたの? ルリアちゃん。そんなに見られると流石に恥ずかしいのだけれど……」
「はわっ! すすすすすみません、ロゼッタさん……」
 ロゼッタからの指摘にルリアは狼狽えたが、すぐにしゅんと肩を落としたかと思えば、自分の手のひらをぺたりと自らの胸元に当てていた。
「フフッ。自分の胸に聞け、なんてよく言うけれど、あながち間違ってないのかもしれないわね」
 そう、聞いたところで答えは出ない。
 しかしルリアの悩みの種は、その手が触れている箇所に他ならなかった。
「そんなに気になるの? ルリアちゃんはまだお年頃なんだから焦ることはないと思うけれど……」
「でも、この艇のみなさんはとってもスタイルのいい人が多くて……羨ましいなって……」
 その表情にロゼッタは目を細めた。なんと可愛らしく健気な悩みなのだろうか!
 青春だわ……と、ルリアの想いの行き着く先を想像したのも束の間で、ロゼッタの直感がキラリとその目を輝かせる。そしてまるで魔物と戦っている時のような速さで、ルリアの背後に回り込んだ。
「ロゼッタさん?……はわっ!?」
「ねぇルリアちゃん、知ってる? 揉まれると大きくなるらしいわよ……こーこ♪」
 ルリアの華奢な体ごと抱え込むように、ロゼッタの美しい指先がルリアの胸を包み込む。
「やっ、もうっ、やめてくだ……ひゃっ!」
「あら? カワイイ声出しちゃって! ほらほら~」
 と、互いに本気半分冗談半分でじゃれている二人の姿に拳を震わせる、ひとりの小さな影があった。
「あ……あなた達……何やってるのよ……」
 ツインテールを震わせているイオの声もまた震えていた。その健康的な小麦色の肌は真っ赤になっている。
「イオちゃん! ちっちがうんですよ? これは私が」
「あら? イオちゃんも混ざる?」
「っ……ロゼッタの……えっちーーーーーー!!!!!」
 その悲鳴はグランサイファー中に響き渡ったのだった。

 
 そしてこの小さな出来事が、生命のリンクによる二次被害を引き起こすことになるとは、誰も知り得ぬことであった──その当事者を除いては。
 










「ん……なに、これっ」
 グランは艇の自室で自身の体の変化に戸惑っていた。
 こんなところは誰にも見られてはならないと、部屋の灯りを消し、カーテンを閉める。その隙間から差し込む光に、まだ太陽が高い位置にある時間なのだということを嫌でも思い知らされる。

 はぁ、はぁ、と、荒い息を吐きながら、グランはふらりとベッドに倒れ込んだ。そしてこの体の疼く場所──パーカーの胸元を掴み、肌に擦り付ける。
「ひゃっ!」
 掻きむしるように何度か同じ動作を繰り返しているうちに、グランは自分で耳を塞ぎたくなるような声をあげていた。
 恐る恐るパーカーの裾をめくり上げる。そして視線をそこに落とすと、胸の頂が赤く色付き、ぷくりと立っていた。
 グランはごくりと息を飲み、服が下がらぬようにと顎で固定する。そして確かめるようにゆっくりと、爪の先でその尖端をぴんと弾いた。
「ンっ……!」
 その瞬間、ビリリとそこから電流が走ったような感覚がグランを襲った。そしてこの疼きを治めるのはこれだと確信する。
「はぁっ……ん、ぁっ……たりない……」
 両方の指先で摘まみ、きゅっと力を入れる。じんじんとした甘い痛みが次第に癖になり、くにくにと捏ね回しているとそれは明らかに全く別の感覚に変わっていった。
「あっ、もっと……ここ……あっ! はぅ……ン!」
 早く解放されたいと、本能の赴くままに指先を動かせば動かすほどに、グランの頭はそれを快感として処理するようになっていた。
「ぁ……ここ、こりこりってしたら……きもち、ぃ……ふぁ……! どうしよ、手とまんな……ぁあっ」
 親指の腹でぐに、と押し潰しては、ゆっくりと円を描くように優しく触れてみたり──その刺激のひとつひとつが、少年の性に自らの手で淫らな火を灯していく。
 いつしかきゅんとした疼きは下半身にまで及び、グランはもじもじと膝を丸めていた。その先では、図らずも乳首への刺激で勃起してしまった自身が股間を押し上げている。
 下も触りたい──その衝動が片方の手をファスナーに掛けたその時だった。

 ぎぃ、と軋むドアの音と、ぶつかってしまった視線。
 この痴態を見られるだなんて、よりにもよって──言葉を失い茫然とするグランに対して、その男の口元がにやりと歪む。

 再び閉じられたドアの中の出来事を知るのもまた、当事者たちだけだった。

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