みじかいの
ぽき、ぽきぽき。
小気味のいい音を立てながら、それはグランの口の中に吸い込まれていく。
ぽき、ぽきぽき。ぽきぽきぽき。
一本、また一本と、グランの指先が遠くから唇に触れるまでを何度も繰り返している。
「一体何なんだその菓子は」
ペン軸、いやそれよりも細いそれが、チョコレートでコーティングされていることは見ればわかる。パーシヴァルはそれが自分のあまり好まない類いの食べ物だということだけは察した。
「長細いプレッツェルにチョコが掛けてあるんだ」
食べやすいから止まらないんだよね、とグランは付け加えると、赤い箱からまた一本。チョコレートでコーティングされていると言いながら、摘まんだ指先は汚れていない。
「気付いた? 下の方はチョコが掛かってないんだよ」
「食べやすいと言っていたのはそういうことか」
なるほど、実に理にかなった形だと、パーシヴァルは楽しそうに食べ続けるグランを見つめていた。
パーシヴァルは常にグランの食べっぷりが、見ていて気持ちのいいものだと思っている。それは食べる量であったり、マナーのよさであったり(これについては徐々に教えていきたいと思っているのだが)そういう部分ではない。とにかく嬉しそうに、楽しそうに食べるのだ。パーシヴァルはそのことについて一度尋ねたことがあるのだが、曰く「みんなで食事をするのが好き」なのだとか。
だとすれば、今の状況は一体何なのだ。
パーシヴァルは甘いものが得意ではない。
それをグランが知っていることも知っている。
にもかかわらず、目の前で実に楽しそうに菓子を摘まんでいるのはどういう了見なのか──パーシヴァルは不服だった。おそらくそう長くない内に食べ終わるのだろう。ならば何のために今自分はここで時間を共有しているのか。
パーシヴァルが苛ついているのはそのことについてでもあるのだが、たかが菓子ごときに、嫉妬のような感情すら覚えている自分自身にでもあった。将来の家臣(予定)はあらゆる意味でなかなか手強いものだと、パーシヴァルは頭を抱えたが──ただしひとつ、握っている弱味があることも理解している。
一対のリズムを刻みながら、短くなっていくチョコレートの部分と唇に近付く指先。パーシヴァルはそのタイミングを待っていた。
「俺にも一口分けてもらおうか」
一気に顔の距離を詰めると、やはりグランは目を丸くして一瞬固まった。チョコレートのかかっていない先端を握る指先に、手ごと自分の手の平を重ねる。折れないように指を離させた瞬間、パーシヴァルはプレッツェルに齧り付いた。
「んっ!?」
ボキっと、これまでとは違う鈍い音が鳴った。
驚いたグランは咄嗟に顔を離そうと背を反らしたが、ご丁寧に後頭部に添えられていたパーシヴァルの手によってそれは阻まれ──待っていたのはこの菓子の食感よりもよく知った熱だった。
最後に上唇を柔く食むようにして、ゆっくりと唇が離れていく。酸欠に目を潤ませるグランの視界には、実に満足そうな表情を浮かべたパーシヴァルの姿があった。
「この俺を待たせる方が悪い」
(最後の一本だったのになぁ)
グランはその事実を飲み込んで、どこか嬉しそうにパーシヴァルからの接吻を享受する。
再び絡め取られた舌先は、さっきよりもずっと甘い。