みじかいの
「俺、団長のそういうとこ好きだなぁ」
「サンキュ! 団長好きだぜ〜!」
「いいと思う。俺、団長のこと好きだし……って、団長、何その顔。どうかしたのか?」
どうもこうもない。
君がそれを言うのかと、グランは目の前の、曰くニヤけ面の男と、まともに目を合わせられずにいた。
「カインはさ、よく僕のこと、その、好きって言ってる……ような気がするけど」
「ああ、そうだな」
即答、しかもその表情が少しも変わることはない。いつも通りのうさんくさ……わやかな笑顔だった。そう、さわやかな笑顔だ。
「思ったこと言ってるだけだぜ?」
自分に微笑んではそう告げるカインの言葉にあまりにも迷いがないものだから、グランは戸惑う一方だった。
好かれているらしいことは単純に嬉しく思う。しかしこうも度々言われていると、むず痒いようなこそばゆいような、何とも言えない気持ちになる。
──なるほど、これが多くの人が彼に対して思う「うさんくさい」という印象なのだろうか。
と、グランはひとつの答えを導くも、齢十五の少年にはまだまだ漠然としていて、抽象的な感想だった。
そもそも、どこか掴みどころのない人だと、カインのことをグランはそう思っている。だけど本気で嘘をつくような人でもないとグランは踏んでいた。
だから、きっと半分からかわれているのだろう。ならばこれくらい言っても許されるだろうと、グランはどこかで誰かが話していたフレーズを不意に思い出したそのまま口に出していた。
「そんな簡単に……あんまり安売りしないほうがいいんじゃないかなー……なんて」
はは、と、グランは最後に笑って誤魔化すように濁す。
やはり慣れないことは言うものではないと、妙な気恥ずかしさに耐えきれずに俯いてしまった──その時初めてグランは状況の変化に気付く。
壁を背にした自分は行き場を失っている。目線を左右に動かせばそこにあるのはカインの両腕で、これは……動けない。どういうことかと尋ねるべく顔を上げれば、そこには随分近くにカインの顔があった。
「……カイン?」
「簡単になんて言ってねーよ。必要だと思うから、安いとも思ってない」
「それって、どういう」
「言ったろ? 思ったこと言ってるだけだって。だから伝わるまで言うだけだ」
その表情はニヤけ面ともうさんくさいとも全く違う、ともすれば剣を握っている時に近いかもしれない。
「俺、団長のこと好きだよ」
ああ、これはわかる──真剣なんだ、カイン。
「……まぁそういうことだから。俺結構必死なんだぜ?」
そう納得した一瞬、グランの額に濡れた柔らかい感触が降りてきた。
「いつかわかってほしいけどさ、今日はこれで我慢しとく」
カインはそう言ってくしゃりとグランの頭を撫で、その場から静かに立ち去った。
背を向ける直前視界に入ったのは、顔を真っ赤にして固まっているグランの表情で。
「……うん、こういうのも好きだな」
やはりカインは一言、素直な感想を呟いたのだった。