みじかいの

 パーシヴァルの前にグランが現れたのは、宴も酣、艇も随分静かになった頃だった。
 今年は随分と仮装に悩んでいたが、今年もしっかりと楽しんだようだ。他でもないグランのことではあるが、顔を見れば一目瞭然だった。
 そんな今日一日の集大成とも言える表情で自分を見つめるグランに、パーシヴァルは何かを察する──本意ではないが、毎年のことだ。
「何だ、俺に言いたいことがあるんじゃないのか?」

 トリック・オア・トリート。
 もしくは獣の耳を付けろ。

 どうせ折れることはないのだから、この際どちらでも構わない。
 家臣の戯れに付き合うのも王の務めだとか、もっと簡単に言ってしまえば惚れた弱みだとか。

 しかし、そんなパーシヴァルの思惑は見事に外れ、グランはしがみつくようにぎゅっと抱き付いてきたのだ。
 そして一言、呟いた。
「……疲れた」

 たった一言だったが、パーシヴァルがそれを理解するには充分だった。
 腕の中に収まってしまった少年の頭を優しく撫でてやると、徐々にその体から力が抜けていくのがわかった。

 いくら本人が楽しんでいようとも、納得していようとも、普段から体を鍛えていようとも、それとこれとは別の話なのだ。
 だから、パーシヴァルはこれでいいと思っている。
 頼れ、甘えろと言っているわりには、自分のことは蔑ろにするような少年が、こうして自分に向けて弱い言葉を吐いている。
 甘えを出してもいいと思われている存在であるという事実ただただ喜ばしく、パーシヴァルはグランを抱き締めている腕に思わず力が入ってしまう。

「……朝まで一緒にいてもいいかな」
「ああ、無論だ」
 たくさん触れ合って、たくさん言葉を交わして、たくさん愛して、たくさん甘やかしてやろう。

 ここから先は、この温もりを愛するひとりの男として。
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