みじかいの

 ぴくぴくと目蓋が動き、おひさまの光が差し込んでくる。
 自分の意思とは関係なく、ひとつひとつ戻っていく感覚。
「んん……朝か……」
 グランは半開きの目を開くでも閉じるでもなく、ゆっくりと体を起こしていく。
 まだ意識がはっきりするには時間が掛かりそうだが、二度寝をするわけにもいかない。頭では理解しているが、なかなかうまくいかない。
 平たく言えばぼーっとしているのだが、時間の経過と共に気付いていく。いろいろ。

 全裸、若干喉に感じる違和感、オーバーワークともまた異なる体のだるさ、ベッドの半分、きれいに人ひとり分空いているスペース、漂ってくる珈琲の香り──

「……さんだるふぉん」
「ああ、起きたか。おはよう」
「…………」
「グラン……おい、グラン? まさか目を開けて寝ているのか……?」
 どうしたことかと、サンダルフォンはベッドの縁に腰掛ける。優しく自分の頬に触れる手のひらは、悔しいことに華奢ではない。好きだけど。
 いや、そういうわけではない。どうにもこの日のグランは目覚めるまでに時間が掛かっているだけだ。
 それからもう一つ、明確に気付いたことがあった。
「眼鏡……」
「眼鏡……? ああ。先日買い物をしている時に、商人から半ば強引に押し付けられたものだ。天司である俺にはあまり影響はないのだが、試しに掛けてみたところだ」
 その後も眼鏡についてサンダルフォンは何か喋っていたようだが、それがかえってグランの眠気を再び誘っていった。
 かっこいい、似合うね、おしゃれだね、まんざらでもないくせに──言いたいことは思い浮かんでも、いつからか頭を撫でられていた心地よさを重ねられては、どうにもならない。
「……おい、グラン? 聞いているか? まさか、その……昨夜は無理をさせてしまっただろうか……?」
 多分それもあるかもしれないけれど、気にしないでほしい。
 おそらく首は横に振れているはずだが、グランはこの後のことをよく覚えていない。
 要するに、結局寝落ちてしまったわけだが。

「……何だ、また寝てしまったのか……まぁいい、まだ朝食までは時間が」
「んんっ……すき…………」
「なっ……寝言……だと?」
 その後グランがすうすうと寝息を立て始めた一方で、サンダルフォンは頭を抱えていた。
「こんな……くそっ! どうしてくれるんだ……ナンセンスが過ぎるだろう……」

 グランは二度寝からの目覚めと同時に、その身を持って思い知らされることになったとか。

 
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