みじかいの
「ほう……グランよ、我に竜縛の教えを乞うか」
どこか試すようなアグロヴァルの口ぶりに、グランは思わず息を飲んだ。切れ長の美しい瞳をさらに細めた視線は鋭く、まるで氷の刃を突き付けられているようだ。
しかし、グランもここで怯むわけにはいかなかった。チャンスと時間は限られている。
「もし……万が一、ジークフリートさんの中のファフニールの血が暴走してしまうようなことがあったときに、僕も力になりたいんです。パーシヴァルとランスロット二人がかりで……ヴェインや僕達も手伝って、本当にギリギリで何とかなりましたけど、ランスロットはいつもグランサイファーにいるわけじゃないですし……」
グランは先日ジークフリートの身に起きた大きな異変を思い出しながら、言葉を重ねていった。
大切な仲間のことだから、いつだって力になりたいと思っている。
けれど、気持ちだけではどうにもならないことがあることも、この旅の中で何度も経験してきた。
具体的に何かできることはないかと考えたときに思い付いたのが、自分も竜縛の術を会得すること──そして、頼むならばこの人だと、グランは意を決して申し出たのだ。
「フン……団長らしい殊勝な心掛けだな」
実にこの少年らしい発想だと、アグロヴァルはグランの顔をじっと見つめる。
実際問題、自分の目の届かないところで、あの元々化け物じみた力を持っているジークフリートが再び暴走したとなると、国のひとつやふたつが塵と化してもおかしくはない。
無論、ジークフリート自身がそんなことは誰よりも望んでいないだろう。
しかし、最悪の事態を想定したときに、一人でも多くの識者がその場に居合わせるのは、メリット以外の何物でもない。
そしてグランには才能がある。教えてやれば、十二分にその力を奮うであろうことは想像に容易い。
つまり、グランの申し出は実に理に適っている、のだが。
「……グランよ、お前には先に褥での作法をもっと叩き込まねばならんらしいな」
「……はい?」
突如、反転した視界にグランはぱちぱちと大きく瞬きをする。
ふかふかのベッドに組み敷かれていたのは確かに記憶に新しい。
そしてさっきまで寄り添って会話をしていたはずのアグロヴァルが、いつの間にか自分に覆い被さっている。
「つい先刻までお前を抱いていた男の前で他の男の名前を呼ぶなど、風情に欠けると思わぬか?」
耳元で囁く甘い低音が、この男の腕の中で全てを晒していたその記憶を呼び覚ます──そうだ、だから僕裸で……
「……って、これはそういう意味じゃ……!」
「それとも……まさか我を試しているのか? 今宵は傾国気取りか?」
「だから違……っ、ぁ、やっ……」
抵抗するグランの耳をそのまま柔く食み、舌を這わせば、敏感な体はすぐに色を持ち始める。
そのままなし崩しにすることもできたが、どうにか逃れようと手足をじたばたさせる動きと漏れる声のアンバランスさがあまりにも滑稽で、アグロヴァルは音を上げてやることにした。
「アグロヴァルさん!」
「ククッ……分かっておる! だから暴れるでない」
「もう~……本当に、そういうつもりで言ったんじゃないです。何日かしたら、出発……しますし、なかなかアグロヴァルさんと二人でお話させてもらえる時間もないので……」
「……ああ、そうだな」
グランの言い分も想いも全てわかっていて尚、嫉妬にも似たことを言動として表してしまうとは、全くもってらしくない。しかし本心であることも間違いはないものだから、やりきれない。
グランのことを傾国と称したことも、半分は本心だった。
そんな少年を、アグロヴァルは欲しいと思ったのだから。
「……お前を縛っておく方が遥かに難儀よ」
どこか試すようなアグロヴァルの口ぶりに、グランは思わず息を飲んだ。切れ長の美しい瞳をさらに細めた視線は鋭く、まるで氷の刃を突き付けられているようだ。
しかし、グランもここで怯むわけにはいかなかった。チャンスと時間は限られている。
「もし……万が一、ジークフリートさんの中のファフニールの血が暴走してしまうようなことがあったときに、僕も力になりたいんです。パーシヴァルとランスロット二人がかりで……ヴェインや僕達も手伝って、本当にギリギリで何とかなりましたけど、ランスロットはいつもグランサイファーにいるわけじゃないですし……」
グランは先日ジークフリートの身に起きた大きな異変を思い出しながら、言葉を重ねていった。
大切な仲間のことだから、いつだって力になりたいと思っている。
けれど、気持ちだけではどうにもならないことがあることも、この旅の中で何度も経験してきた。
具体的に何かできることはないかと考えたときに思い付いたのが、自分も竜縛の術を会得すること──そして、頼むならばこの人だと、グランは意を決して申し出たのだ。
「フン……団長らしい殊勝な心掛けだな」
実にこの少年らしい発想だと、アグロヴァルはグランの顔をじっと見つめる。
実際問題、自分の目の届かないところで、あの元々化け物じみた力を持っているジークフリートが再び暴走したとなると、国のひとつやふたつが塵と化してもおかしくはない。
無論、ジークフリート自身がそんなことは誰よりも望んでいないだろう。
しかし、最悪の事態を想定したときに、一人でも多くの識者がその場に居合わせるのは、メリット以外の何物でもない。
そしてグランには才能がある。教えてやれば、十二分にその力を奮うであろうことは想像に容易い。
つまり、グランの申し出は実に理に適っている、のだが。
「……グランよ、お前には先に褥での作法をもっと叩き込まねばならんらしいな」
「……はい?」
突如、反転した視界にグランはぱちぱちと大きく瞬きをする。
ふかふかのベッドに組み敷かれていたのは確かに記憶に新しい。
そしてさっきまで寄り添って会話をしていたはずのアグロヴァルが、いつの間にか自分に覆い被さっている。
「つい先刻までお前を抱いていた男の前で他の男の名前を呼ぶなど、風情に欠けると思わぬか?」
耳元で囁く甘い低音が、この男の腕の中で全てを晒していたその記憶を呼び覚ます──そうだ、だから僕裸で……
「……って、これはそういう意味じゃ……!」
「それとも……まさか我を試しているのか? 今宵は傾国気取りか?」
「だから違……っ、ぁ、やっ……」
抵抗するグランの耳をそのまま柔く食み、舌を這わせば、敏感な体はすぐに色を持ち始める。
そのままなし崩しにすることもできたが、どうにか逃れようと手足をじたばたさせる動きと漏れる声のアンバランスさがあまりにも滑稽で、アグロヴァルは音を上げてやることにした。
「アグロヴァルさん!」
「ククッ……分かっておる! だから暴れるでない」
「もう~……本当に、そういうつもりで言ったんじゃないです。何日かしたら、出発……しますし、なかなかアグロヴァルさんと二人でお話させてもらえる時間もないので……」
「……ああ、そうだな」
グランの言い分も想いも全てわかっていて尚、嫉妬にも似たことを言動として表してしまうとは、全くもってらしくない。しかし本心であることも間違いはないものだから、やりきれない。
グランのことを傾国と称したことも、半分は本心だった。
そんな少年を、アグロヴァルは欲しいと思ったのだから。
「……お前を縛っておく方が遥かに難儀よ」