みじかいの

 今年のバカンスの始まりもやはり、一筋縄ではいかなかった。
 しかし、本当にルリアやビィも言っていた通りで、慣れとは恐ろしいものである。
 アウギュステの美しいビーチを守りたいという危機感や使命感と、今年は変わったサメかぁ、とどこか他人事のように思ってしまうこと。この二つが全くの別物として、自分の中で成立するようになってしまった。
 果たしてこれはいい傾向なのかとグランも戸惑いつつ、それでも毎年皆で力を合わせて解決し、楽しいバカンスを過ごせているのだから、これもまたそれはそれだと思い、グランは漸く迎えられるであろう、穏やかなアウギュステの夜に思いを馳せるのだ。




「……考え事とは余裕だな」
「ちがっ……ン、んぅ……」
 より強く体を押さえ付けられ、ギシ、とスプリングの歪む音がする。普段は泊まれないようなホテルのふかふかのベッドの海で、グランは溺れていた。
 深く繋がったまま唇を塞がれる。
 もう固く口を閉ざす思考も力も残っていないことぐらいわかっているだろうに、それでもまだ不満なのだろうか。無遠慮に差し込まれた男の舌が、グランの口内を蹂躙していた。


(唇と唇がぐいぐいと……!)

 マーティンとエレンの熱烈なキス現場に遭遇したときの、ルリアの言葉が頭を過る。

(ごめんルリア……僕は唇と唇どころじゃないし、なんなら……)

 だなんて、死んでも言えるはずがない。
 そしてまたこんなことを考えてしまったことが気付かれでもしたら、さらにどうなるかわからない。
 サンダルフォンは案外独占欲が強い。
「フ、わかっているなら集中するんだな……っ!」
「や、ぁああっそこっ、ぁ、あっ!」
 ことセックスとなると、遠慮と言うより容赦がない。今もグランの特に感じるところを徹底的にぐりゅぐりゅと責め立てている。
 空調が効いているとは思えないほど、肌が触れ合っているところ全てが熱い。
「サン、ダ、ルっ、フォンっ……こういう、ときっ、は、すぐ脱ぐのに、ねっ……んあっ」
「むっ……それ、と、これとはっ……話、がっ……別だっ!」
 汗が止まらぬほど暑い真夏のビーチで軽装になることを頑なに拒んでいたというのに。
 当初は鎧で出てきたことをふと思い出し、微かにグランの口元が緩む──それがまずかった。
「……いいだろう。ならば君は脱げなくしてやる」







「あれ? サンダルフォンさん、グランはどうしたんですか?」
「ああ、日差しのせいで軽い熱中症にでもなったようだ。俺の部屋で休ませている」
「はわわ! そうだったんですね! じゃあ今日はグランの分も頑張らないと、ですね……!」
「ああ、今日もメロンの完売を目標に始めていこう」
「はいっ!」




「あーもう……腰と喉が痛い……あと何だよこれ……!」
 サンダルフォンの部屋でぐったりと横たわるグランの体には、おびただしい数のキスマークが散らばっていた。
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