みじかいの


 ひょんなことからローアイン達とタイアーの妄想話に巻き込まれて暫くのこと、サンダルフォンは艇のデッキで稽古に励むグランの姿を眺めていた。
「ほう……二刀流か」
「あー、クリュサオル? とか言うらしいなぁ。ウチも近いことしてるからってコツとか聞かれたで」
「そうなのか……って、うわっ!? 突然背後から声を掛けないでくれ! ナンセンスだ!」
「何やのそれ!」
 その独特の語気に合わせるように、サンダルフォンの目線の下で黒いエルーン族の耳がぴょこぴょこと動いている。
「ユエル……と言ったか。何の用だ」
「別にアンタに用があるわけやない。たまたま通り掛かったのが団長を見てるアンタの後ろやっただけや」
 ならばもう用はないだろう。サンダルフォンがそう声にしようとしたのを止めたのは、それもまたユエルの言葉だった。
「しかしまぁ団長もようやるわ。どんな武器でも上手いこと戦えるし、わざわざ服まで着替えてなぁ」
 って言うのはちょっとメタな話やったかな! と付け加えて笑った意味をサンダルフォンは理解していない。
 しかし、ユエルの言っていることは確かに思うところがあった。
「俺も以前団長から服を渡されたが、一体それに何の意味があるんだ」
 さらにそれこそ先日のローアイン達だ。制服がゲキマブだのなんだのと、挙げ句の果てにはあらぬ誤解まで招かれたところだったが、どうにも空の民はそういったことに深い関心を持っているらしい。
「せやなぁ……ウチも水着とか着ると楽しいし、うーん……気合いとか気持ちの問題ちゃう?」
「気合い……気持ち……? どういうことだ」
「どういうことって言われても……いやアンタも何かあるやろ! その服団長からもらってどう思ったん?」
 サンダルフォンはそれを着て、団長と共に夜会に訪れた時のことを思い出す。おかしな本を渡され、ダンスを踊り、いつもと同じように飲んだ珈琲の味が少し違ったような気がしたり──。
「……ナンセンスだとは思うが……着ていると団長が喜んでいるようだから……」
「そうそれや! そういうことなんやて! 何やわかってるやないの!」
 サンダルフォンの返答はユエルの想像以上の物だったようで、見るからにテンションの上がったユエルは激しくサンダルフォンの腕を叩いている。
「やっやめろ! 叩くな!」
「あ~ごめんごめん! せやったら逆にアンタもないの? 団長の好きな服とか。セージとか可愛いんちゃう? あとアプサラスも雰囲気あるなぁ。ウチは刀がお揃いやから剣豪もええと思うけど……」
「ふむ……」
 言われるがままにサンダルフォンはこれまでに見てきたグランの姿を思い浮かべたが──やはりしっくり来ない。団長に置き換えたところで、これでは結局ローアイン達と話していた時と同じなのではないか。
「……やはりこの議論は不毛だ。どんなに着飾っていようが、団長は団長だ。それ以上もそれ以下もない」
 どんな時でも真っ直ぐに自分と向き合うグランのその姿を、サンダルフォンは守りたいと思った。そこに服による差異など存在しない。
 ただ、ひとつだけあるとすれば。

「……笑っている方がいいと思う」
「…………はぁ……」

 ユエルはぱちぱちと大きく瞬きを繰り返し、サンダルフォンの言葉を咀嚼する。
(なるほど……? いや……つまり?)

 
「……わかった! 団長のことで何かあったらウチに言いや。相談乗ったるさかい! ほな!」
「おい! どういうことだ! 勝手に話を振っておいて勝手に終わらせるな!」



(要するに、団長のことめっちゃ好きってことやんな……!?) 
 
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