みじかいの

 
 指で、舌で、唇で。
 触れれば感じないところなどないのではないかと、そう思うほど、組み敷いた少年の身体は従順だ。果たして元々資質があったのか、積み重ねの賜物なのか──それも卵と鶏の話のような些細なことだと、パーシヴァルは思っている。
 現に今こうして睦み合っている最中も、自らの愛撫で絶えず甘い声を上げてくれている。それが何よりの事実だ。



「やっ! ちょっと待って! やめて!」
 それはこの場の空気には似つかわしくない、あまりにも明確な拒絶だった。
 パーシヴァルはグランの片脚を大きく開かせたまま、股の間から顔を上げる。
「……話は聞いてやろう」
 いかにも渋々といった声音と同じくパーシヴァルの表情は険しい。しかし、グランも今日ばかりは譲ることができなかった。
「今、き、きす、まーく、付けようとしたよね」
「そうだが」
 そう、これは二人の情事に於いてパーシヴァルが必ず行うことだった。そして、グランにとって問題なのは行為そのものではない。
「あの……そこもだめ、です」
「……どういうことだ」
 グランの予想通り、パーシヴァルの表情はさらに険しいものとなった。


「あの、ドラムマスターが」
「ああ、今日取得していた新しいジョブか」
「その、ちょっと危ないかなと……思うので……」
「お前がここならいいと言ったんだろう」
 パーシヴァルがその柔らかい内股につぅ、と舌を這わせると、グランはン、と小さく息を詰めた。

 武器とジョブを操ること千変万化、これがグランの戦い方である。その類い希なセンスは、パーシヴァルがグランを家臣にと考えている要因の中でも占める割合は大きい。自分に並び立つその強さは、純粋に信頼できる。
 ただ、これは身体を繋げるようになってからなのだが──その服の中に上半身が多く露出している物も幾つか存在していることがまさかこんなにも歯痒いとは、パーシヴァル自身も思いも寄らぬことだったのだ。
 虫刺されを指摘される度に、ここはだめ、あそこもだめと上から次第に下りていき、最終的に団長の許可が下りたのがこの脚の付け根、股の内側だった。
 そして今、それさえも拒否されようとしている、いや、グランは拒否している。
「今はまだ覚えたばっかりで……でもすぐちゃんと戦えるようになるから! それまでは……なんとか……!」
 もう最後は蚊が消えるように尻すぼみになっていた。

 パーシヴァルも、セックスに於いてわざざ所有印を残したくなるような、そんな独占欲に駆られているという自覚はあった。何かこの少年に自分を刻み付けておかねばなるまいと、そんな焦燥感のような物がいつでも付きまとっている。
 だから、付けては消える痕をまた赤く残すことはパーシヴァルの心を大きく満たしていた──但し、自分よりも一回り以上歳下の少年に、そのわがままを受け入れられているという自覚がなかったわけでは、ない。
「……わかった、いいだろう。俺にも出来ることがあれば言え。稽古も付き合ってやる」
「ありがとうパーシヴァル!」
 そう喜ぶグランの声は実に明るく、ほとんど普段のグランに戻っていた。


「……だがこれで終わりではないからな?」
 それでは面白くないと、パーシヴァルは張り詰めた自身をグランの臀部に擦り付ける。
 この流れでも萎えていなかったことにいよいよだなと、そう思ったのはパーシヴァルだけではなかったようで。
「……あのさ、パーシヴァルってそんなに、僕と……その……しっ、したい、の……?」
 取り繕わせてくれればいいものを、と、パーシヴァルは思わず天を仰いだ。
 呆れているような、照れているような、どこか嬉しそうな、そんな表情をするものだから、コントロールも出来なくなってしまうというのに。

 ひと呼吸置いてから、パーシヴァルは口を開いた。
「……ああ、お前のことは何度抱いても足りんな」
 そ、そう、と目を泳がせているグランの顔がみるみるうちに赤くなっていく──いつだって自覚がないくせに煽ってきてはこの有様だ。
 パーシヴァルはたまらなく愛おしいと思う気持ちに誘われるまま、グランの唇に自分のそれを重ねた。

「ああ、それから……キスマークでなければいいということだな?」
「うん……うん?」






 翌日、グランがいつもよりも赤く腫れた唇について、掠れた声で弁明している姿が、艇内で何度か見られたのだとかどうとか。

 

 


 
 

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