【短】きらきら(更新未定)
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休み時間の教室には、ボールの投げっこをしている男の子が3人。
教卓の側で先生と話している子が2人、黒板消しで黒板を消している子が2人居て、自分の席で絵を描いている子も居る。
植木鉢の花の飾ってあるロッカーの前では、5、6人の女の子が集まって、小声で雑談していた。
「このクラスで誰が一番かっこいいと思う?」
おさげの女の子が声を潜めて、周りの子に聞いた。
「佐倉くん」
「私も佐倉くん」
「私は上野くんかな。」
おさげの女の子は考えるように上をむいた。
女の子達の会合にはよくあることだが、この女の子達もとりとめのない話ばかりしていて、さっきまではみんなが夢中なかっこいいヒーローの出て来る少女漫画の話をしていたのだった。
さっき、上野くん、と言った女の子は、色素の淡いほそっこい背の低い女の子に向かって尋ねた。
「恋、恋は誰が一番かっこいいと思う?」
恋、と呼ばれた女の子は、華奢で、頼りなさそうな見た目をしていて、タートルネックの上に着たジャンパースカートの肩は片方だけ情けなく下がっていた。
恋は、この話題は自分達には少し危ないぞ、と思っていた。
恋は、外へ遊びに行っている名前のあがった男の子達が、今すぐにも教室に帰ってきて自分達を笑うか、さもなくば怒り出す様な気がしていた。
困り顔で少女を見返すと、恋は力なく言った。
「そんな事聞いてどうするの?」
「どうもしないよ。ただ誰だろうって話してるだけ。」
「聞かれたらどうするの?」
「聞かれたら……?」
ここへきて、女の子達はその問の想像をしたのだろう、楽しそうにきゃあきゃあ笑い出した。
「聞かれたら照れちゃう。」
「ね。照れるね。」
「もし聞かれたら、仲良くして貰えなくなっちゃうよ。」
恋は心配そうにそうっと辺りを見回した。
まるで、もしそうなったら大事なもの全部がふいになる、とでも言うように。
「言わない方が良いよ」
「私も佐倉くんが良いな」
もう一人の違う女の子が重ねる様に言うと、恋は一瞬突然噛みつかれた時の様な怯んだような表情を見せた。
が、恋は声を絞り出した。
「言わない方が良いよ」
「もう恋ったら、臆病なんだから」
女の子達はきゃあきゃあ言い合っていたが、やがてチャイムが鳴って、みんな席に戻って行った。
──────
このクラスでは、給食の時間は机同士を向かい合わせにくっつける。
そうすると、向かい合った前の人が食べるのを眺める事になる、もちろん話をしながら。
みんなが給食を全部食べ終わって雑談を始める頃になっても、食べるのが遅い恋はまだ辛抱強く食事を続けていた。
その日の給食は、オニオンスープに、チキンとサラダ、それから蜜柑がひとつ。
やっとオレンジ色の蜜柑に手を伸ばした時、椅子が急に後ろへ斜めに傾いて、恋は驚いて振り返った。
「恋。」
そこに居たのは佐倉碧くん。
このお話のヒーロー、きれいな顔立ちにトレードマークのさらさらヘアを傾けて。
碧は恋の椅子の背もたれに両手で体重を乗せて、真面目な顔で恋を見下ろしている。
「蜜柑は後。良いもの見せてやる。来な。」
「なに?」
「良いから。」
食事を中断した恋は碧の後についていった。
碧は廊下を抜けて、階段を降りて、また廊下を抜けて、緑の見える中庭まで来ると、ガラス扉を開けて、上履きのまま外に出た。
中庭の花壇には虹が掛かっていた。
さっき、雨が上がって、陽が差して来たからだ。
「この間の大雨の時、恋は見逃しただろ。」
碧は言いながら恋を振り返った。
「わあ。」
「綺麗だね。プリズムって言うんだ。虹は7色っていうけど、本当はもっと色んな色があるらしいよ。分光の研究。自由研究に良さそう。」
恋が芝地に上履きで突っ立って虹を眺めていると、後ろから、すぎ、碧が袖を引っ張った。
「それだけ。見れて良かったね。恋は早く蜜柑食べちゃわないと。」
恋と碧は掲示物の貼ってある階段をあがって教室へ戻った。
──────
授業が終わってホームルームに入ったが、外はまださっきと変わらず天気が良かった。
窓際の恋の席には日差しが当たって、恋は日光ってどうしてこんなに暖かいんだろう不思議と考えた。
斜め後ろの席から、碧が恋を見ていたが、背中の恋はてんで気が付いていなかった。
やがてホームルームも終わって、下校時間になったので、恋が鞄を背負って教室のドアから出ようとすると、かく、と首が曲がって、片手で洋服の襟首が掴まれていた。
「ずっとそっちを見てたのに、帰る時なんで一言言わないの?」
碧は、首元に手を伸ばした恋に、咎める様な口調で聞いた。
「一言って?」
「さよならとか、またねとか。色々あるだろ。」
それから碧はふと声の調子を変えて、恋に尋ねた。
「恋、日曜日、何か用事ある?」
「日曜日?」
「映画。見に行こうって誘ってるんだけど。」
恋はきょとんとした顔をした。
「誰を?」
「恋を。文脈。それ以外に誰が居るの?。」
恋は今度はびっくりした顔で碧を見上げた。
「私で良いの?」
「何言ってんの?。」
碧はちょっと呆れた様な口調で言った。
「映画。別に変じゃないだろ。2人で行っても。言っとくけど、デートじゃないからね。」
「あ、うん……。」
「新しい映画チケット貰って、男と行くのむさ苦しいから誘ってんの。まったく。変な勘違いしないでよね。」
それから碧は鞄を背負い直して、ふう、とため息を付くと言った。
「日曜午前中に恋んち行くから、準備しといて。」
「え……」
「用事あったら僕じゃない方を断る事。良いね?」
「う、うん」
「了解。よし」
碧はそこで一旦言葉を切ると、わざと恋の頭の上で軽く手を振った。
「それじゃね。バイ。」
「あ、うん……」
腑に落ちない顔をしている恋に、碧は教室を出る前最後ににこっと笑いかけた。
──────
果たして日曜日。
早起きをした恋は今日着ていく洋服で迷っていた。
春先で涼しい格好の方が良い気もしたが、七分袖はちょっと寒すぎる気もして。
結局、恋はグレーのタートルに黒いミニスカート、下は黒いタイツと落ち着いた。
ピンポンとチャイムが鳴って、ドアを開けるとTシャツに七分のズボンの碧が居た。
碧は恋を上から下までまじまじと眺めると、真顔のまま声を出した。
「う、わ。春なのに、うちの猫と同じ色。」
「駄目かな」
「別に何でも良いけど。普通は男と行く時はもっと可愛いのを着るよ。もっとも、可愛いって難しいけど。別に気にしない。」
碧はそう言ってから、靴のつま先をトントンと鳴らして、「もう行くよ」と言った。
お母さんに送り出されて、恋と碧はバス停まで歩いて行った。
春先の事で、歩道の脇の街路樹の足元に小さな花が咲いている。
パステルカラーを着た自転車の女の人が横を通り過ぎていく。
「乗り方分かる?」
商店街の大通りに出て、標識の立っている屋根のあるバス停まで着くと、碧が聞いた。
「乗った事ある?。一人で。」
恋が首を振ると、碧がバス停の丸い標識を指した。
「西町駅行き。映画館のあるショッピングモールで停まるから、簡単だよ。」
恋はベンチに座ったが、碧は恋の斜め前に立った。
日が差す方に碧が立ったので、碧の方を見る恋はまぶしくて目を細めた。
碧の黒い髪は日差しが当たると焦げ茶に見えた。
「なんでそんな暗い色の洋服を選んだの?」
「モノトーン、格好良いから」
「ふーん。うちの猫もそんな色。恋は青を着なよ。」
やがてバスが来て、2人を乗せて走り出した。
──────
バスは商店街の大通りを通って行った。
眼鏡屋、判子屋、ブティック、学習塾。
なんの事はない普通の道でも恋は、友達とのバスのお出かけの道は全部が後で思い出になる気がした。
ショッピングモールが近づくにつれて、両側を鮮やかな桜の木に挟まれた通りに入って、窓ガラスから桜吹雪が見えた。
「春だね」
バスの2人席の座席に付いた手摺を取って、碧が口を開いた。
「そんな風にしたら汚れる。まったく。気づかないんだから。」
桜吹雪に夢中で、窓ガラスに手を当てて顔を貼り付けんばかりにしていた恋は、その言葉で我に返って照れ笑いをした。
バスを降りてからショッピングモールに向かう道で、桜のアーチは続いていた。
はらはら落ちる桜は本当に綺麗で、雪みたいで、風に舞っている景色は魔法がかかったみたいだった。
歩きながら、水色に澄んだ空を見上げて、恋は今日が春の日である事を嬉しく思った。
──────
ショッピングモールの大きな自動ドアの入り口を入って行くと、中は涼しかった。
エスカレーターで通った中庭では今日は幼児用のイベントをやっていて、キャラクターの形をした空気で膨らませる大きな遊び場があった。
シアターは最上階にあった。
恋と碧は順番にエスカレーターを登っていった。
青く塗られた壁の頭上に大きな映画の広告が見えてきて、恋は映画館に着いた事を感じた。
「コーラ2つとポップコーン2つ」
碧は、売り子に勝手に2人分払ってしまった。
暗い映画館の赤いふかふかの座席に並んで座って、恋と碧は映画が始まるのを待った。
「この椅子の座り心地好き。映画が始まる前の静かさも。真っ暗なのも。」
「緊張するね」
「そう?。早く見たいね。」
小声で言い合っているとぱっと明かりが点いて映画がいきなり始まった。
映画はスーパーマンの出て来る映画で、ハラハラさせる山場のシーンが幾度もあって、恋がその度に小声で話しかけるので、碧は鬱陶しそうに「しっ」と言って人差し指を口に当てた。
──────
映画が終わって、2人はエスカレーターを降ってショッピングモールのフードコートに行った。
フードコートには沢山テーブルが並んでいて、ファーストフードショップやドーナツショップや中華のラーメン屋など様々な店があって、恋は碧とはぐれて迷いそうになった。
「こっちだよ。」
袖を掴まれて、恋はソフトクリームショップに着いた。
ソフトクリームショップはエスカレーターの脇にあり、階下のエスカレーターに沿って細いカウンターのテーブルと背の高い椅子が並んでいた。
青と白の縞々の庇の店で、恋と碧はチョコとバニラのミックスのソフトクリームを選んだ。
恋が椅子に上がる時、うまく上がれなかったので、碧がソフトクリームを持ってくれた。
「こんなもんかな。映画は」
テーブル頬杖をついてソフトクリームを舐めながら、碧が言った。
「恋、どれが楽しかった?」
「スーパーマンがビルから飛んでいくとこ」
「後は?」
「スーパーマンが駅から飛んで行くとこ」
「ふーん。飛ぶのが好きなんだね。」
碧は、テーブルにあったペーパーを、恋に数枚渡した。
「今日は楽しかったね。」
碧が言った。
「この後雑貨とか見たい?。母さんが、女の子は見たがるって言うんだ。」
「ううん。」
「ソフトクリームもまあまあ美味しかったし。今日は行幸。」
それから、
「恋、僕と来た事友達に言いなよね。」
と言ってその後すぐ、
「デートじゃないからね。ただのお友達。そう言われてどう?」
と聞いた。
──────
帰りのバスに揺られている間、2人は学校で流行っているアニメの話をしていた。
2人席に並んで座ってカードゲームで戦うするアニメが好きだがその世界に行きたくはない、と碧が言うと、恋は心から同意した。(バトルアニメなので。)
バスを降りると、もう夕方だった。
碧が空を指さした。
「金星。」
「ほんと。」
「空に金星、って綺麗な言葉じゃない?」
「だね。」
恋は春のお出かけが碧と一緒で、心から良かったと思ったのだった。
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