【長】幼なじみは狐の子。
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恋と宗介は、宗介の自宅のリビングでゆったりお茶を飲んでいた。
「理央と手作りのお菓子屋さんに行ってきたんだ。」
恋が言った。
「焼き菓子やマフィンがあって、目移りしちゃう。近所に出来たばっかりの可愛いお店、宗介も今度行ってみると良いよ。」
「甘いものは食べ過ぎると頭が痛くなる」
宗介が言った。
「虫歯になるよ。お前と違って子供じゃないの。」
「大人でも食べるよ、甘いもの。」
「お前はいつもキャットフードだろ。狐の餌の。」
「狐になってる時は食べるけど、人の姿の時は食べないよ。」
恋が言って、ずず、と湯飲みのお茶を一口飲んだ。
部屋の隅の狐用の空のケージの前には、新しいキャットフードが銀の皿に出してある。
恋のキャットフードは新商品が出る度に宗介の母親が恋にと買ってくれた。
恋が言った。
「そういや、樋山くんのピアノの発表会、もうすぐだよ。」
「気障。ピアノなんか。いちいち癪に障る奴だな。」
「一回音楽室で弾いて貰った事がある。すっごい上手なんだよ。いつから習ってるんだろう。」
「知らない。興味ない。」
恋は、美風のピアノの発表会を楽しみにしていた。
発表会には、理央と明日香と多紀を誘って、みんなで行くことになっていた。
「宗介も行くでしょう?」
恋が聞いた。
「僕が?。わざわざ?。何のために?」
「みんなで行くんだから一緒に行こうよ」
「嫌だよ。樋山のピアノなんて聞きたくないし興味もない。一人で行ってきな。」
宗介はお茶を一口飲むと、ふと、作り笑顔で聞いた。
「僕が樋山嫌いなの、何でか分かる?」
この問は全てを意味している。
宗介はこの事について、毎日頭を悩ませていたのだった。
「……何でなの?」
恋がきょとんとした顔で聞き返すと、宗介は無言でグーした片手を、恋の頭にコチンと落とした。
「痛っ」
「何でだろうね?。」
「何すんの」
「鬱陶しいんだよお前も。ったく。」
ぶつぶつ言っている恋を無視して、宗介はテレビに向かってリモコンを回し出した。
────1────
美風の発表会の当日、恋は自宅で余所行きのワンピースを選んでいた。
恋が一番気に入っているのは、オレンジ色のワンピースだった。
飾り気がないシンプルなデザインで、胸元に四角いボタンが3つ付いている。
だが、人の発表会には派手すぎたので、恋は今日は水色のワンピースを着ていこうと思っていた。
水色のワンピースは、切り替えから下がシフォンになっていて、後ろはリボンで、胸には細いタックが寄せられている。
────こっちの方が良いかな。
恋が鏡を覗き込んだ時チャイムが鳴った。
────2────
玄関に出ていくと、余所行きを着た理央と明日香と多紀が居た。
「準備できた?。恋。」
「うん。」
「そのワンピース、可愛いね。樋山くんに見せるためなら、上野くん妬いちゃうよ。」
「上野は行かないの?」
多紀の言葉に、恋は、曖昧に頷いた。
説得すると、宗介は行くとも行かないとも言わなかったが、時間になっても現れなかった。
「今日バスだよ。駅前のホール貸し切りだって。」
明日香が言った。
「ピアノなんて滅多に聞く事ないしな。だから俺今日ややロマンチックな気分になってる。余所行きモードだし。」
「駅前の花屋で花束買っていこうよ。代表して恋が渡せばいいでしょ。小さい花束が売ってるよ。」
「どんな曲弾くのかなあ、樋山くん」
「楽しみだよね。」
バスを降りると、恋達は駅ビルの1階にあるお洒落な花屋に寄ってから、駅のすぐ近くのリサイタルホールに入った。
────3────
扉を開けてロビーに入ると、中は静かだった。
絨毯の敷かれたラウンジにはぽつぽつと座り心地の良さそうなソファと小さなテーブルがが置いてあり、奥にはカウンターの小さなカフェがある。
恋達を見つけて、階段横の待合室の方から、正装した美風が歩いてきた。
「新田さん!。みんなも。来てくれてありがとう。」
「樋山くん」
「フォーマル似合うね、樋山くん」
「そう?。今日は有名な曲を弾くから、間違えたらどうするかちょっと考えてる。暗譜は完璧にしたはずだけど。」
美風はパタパタと軽く服を叩いてから、全員をソファの方に連れて行った。
「今日弾く曲はみんなクラシックの名曲ばかりだよ。聞いてて楽しいと思う。知ってる曲も多いと思うよ。」
ソファに腰掛けながら美風が言った。
「恋音楽詳しい?」
理央が聞いた。
「全然。分かんない。」
「分からなくても大丈夫。初心者が居る教室じゃないから、何聞いても聞き応えあるよ。新しくピアノを好きになるきっかけになるかも知れない。」
「私達、ちょっとお茶買ってくる」
理央が言うと、多紀と明日香が頷いた。
「恋と樋山くんはここに居てよ。2人の分も買ってくるから。」
「分かった」
理央達を見送ると、美風が言った。
「新田さん、その服可愛いね。」
「あ、ありがとう。」
「リボン、ちょっと解けてるよ。貸して。」
美風は恋の背中のリボンに手を伸ばし、器用にリボン結びをし直した。
「僕の晴れの日にきれいな格好されるの嬉しいな。シフォンも水色も新田さんに似合ってる。あやかし狐って本当に綺麗だよね。」
美風が微笑んだ。
「そういうのも励みになるよ。約束。今日は新田さんだけのために弾くね。」
「そんな」
「自分で言うのもあれだけどかなり上手いんだ。楽しみにしててね」
恋が口を開きかけた時、エレベーターの方から、人々に混じって余所行きを着た宗介の姿が現れた。
宗介は機嫌の良くなさそうな仏頂面で歩いてきたが、恋達の前に来ると、作り笑顔で言った。
「恋の様子を見に来ただけ。」
「来なくて良かったのに。」
憮然とした表情で美風が言った。
「上野は余計だよ。迷惑。本当に事ある事に僕の邪魔をする奴だな。」
「そっちが。恋、聞いたらさっさと帰るぞ。ったく何が楽しくて。こいつの演奏なんか、僕は聞きたくない。」
宗介は恋の隣に座ると、背もたれに寄りかかって美風を睨んだ。
────4────
ホールへ入ると、中は暗かった。
真っ暗なステージにグランドピアノだけがライトアップされている。
客席で恋達は小声で話をしていた。
「どんな曲を弾くんだろう?」
「音楽室で弾いてた奴じゃないか?」
「上手い人ばっかり。プロみたいな集団だね。」
「しーっ、もうすぐ樋山くんの番だよ。静かにしなきゃ。」
宗介は会話に加わらず、黙って舞台を睨んでいた。
まもなく、盛大な拍手に包まれて、美風の演奏が始まった。
課題曲を弾いている美風の金髪がピアノの黒にマッチして、それはとても美しい絵だ、と恋は思った。
美風の弾いている曲は美しいがとても難しい曲で、会場の人々は感心して演奏に聞き惚れていた。
「すっごいきれいな曲。」
理央が囁いた。
「難しい曲だね。大人が弾く曲じゃない?」
と明日香。
「上野くんピアノ弾くっけ?」
理央が聞いた。
「音楽はやらない。興味ない。」
宗介が答えた。
「ふーん。何か特技ないと上野くん負けるよ。」
理央はぶつぶつ小声で続けた。
「勉強は両方できるしな……足も早いし……。」
「宗介家事できるよ。」
恋が口を挟んだ。
「喋らない。知らない、演奏中なんだから。恋、お前も無益な事言ってんなよな。」
演奏が終わると、盛大な拍手の中、恋は舞台に上がって美風に花束を渡した。
花束を受け取ると、美風はにっこり笑顔でありがとうと言った。
────5────
美風の演奏を聴き終わった恋達がラウンジで待っていると、控え室から普段着に着替えた美風が出てきた。
「樋山くんすっごい上手だったよ。」
ソファから立ち上がった恋が言った。
「ありがとう。」
美風が言った。
「これから僕たちだけでレストランに行かない?。記念に食事をしたらって母さんが。」
「行く行く。お腹空いてきた。」
背中で手を組んだ理央が言って、全員はロビー通って外へ出た。
────6────
中へ入ったレストランは小洒落て昔風だった。
席に付くと、食事用に白いナプキンが配られた。
めいめい好きな物を選んで注文すると、ウェイトレスはかしこまりましたと言ってキッチンへ下がっていった。
「ここ来るの初めて」
「僕も」
「私も」
「僕も初めて。じゃあもしかして誰も来たことない?」
「美味しいかなあ」
恋が言うと美風がプッと吹き出した。
「美味しいよ。安心して。」
「見て、通りが見える」
窓からは道行く人々が遠くに見えた。
料理が到着すると一気に賑やかになった。
「恋恋、このハンバーグおいしいよ。一口食べてみて。」
「本当?」
恋は白身魚のソテーを食べていたフォークで、切り分けられた理央のハンバーグを刺した。
「……おいしい」
「でしょう?」
もぐもぐ食べていると今度は美風が言った。
「このステーキもおいしかった。分厚くてボリュームあるし。新田さん、一口どう?。」
美風は自分のフォークにステーキを刺すと隣の恋の口元に持っていった。
「はい、あーん。」
「ありがとう。」
恋がステーキ食べていると、かちゃんと音がして、宗介がフォークを置いた。
「気にくわないんだよ。」
宗介が言った。
「樋山は恋といちゃつこうとすんな。気色悪い。ここ外だぞ。人居んのに。」
ステーキを食べながら美風が言った。
「僕は人が居ようと居まいと構わない。誰かみたいに無駄に見栄張らないしね。はい、新田さん、もう一口。」
フォークに肉を刺した美風に、宗介は思い切り嫌な顔をした。
「恋!。お前も、そうやって食ってんなよ。馬鹿だと思われるぞ。……おい、恋に触るな!」
美風がステーキ食べた恋の口元をナプキンで拭うと、宗介が叫んだ。
美風もフォークを置いた。
「僕たちが親密なのをいつも妨害しようとして、鬱陶しいったらない。新田さんも駒井達も、もう分かってる事だろ。僕は新田さんが好きだし、だからいつも新田さんにくっついてる上野が邪魔でならないんだ。」
美風はそこで言葉を切った。
「迷惑。なんで居るんだか。」
宗介が何か言い返す前に、口を開いて恋に言った。
「新田さん、上野なんかじゃなくて僕を選んでくれるでしょう?。」
と、宗介のナイフが飛んで行って、美風に当たった。
広げていたナプキンに飲み物が溢れた。
「何するんだよ!。」
「ざまあみな。僕だって、お前がいつも邪魔でなんないんだよ!。いつもいつも恋にしつこく付き纏って……」
美風は立ち上がって言った。
「暴力。新田さん、危ないから。」
「恋にはやらない。恋には関係ない。」
「2人とも辞めなよ。」
立ち上がった宗介に理央が叫んだ。
「恋、恋が優柔不断だから悪いんでしょ。さっさとどっちか選びなよ。」
「そうだよ。恋。どっちつかずは良くないよ。」
明日香の声に、恋は俯いて呟いた。
「選ぶって言ったって……私は………」
恋がふと顔をあげると、美風の洋服に溢れたジュースが掛かっているのが見えた。
「樋山くん大丈夫?」
宗介はハア、と忌々しげに短くため息をついた。
「僕もう帰る。」
「宗介!」
「勝手にすれば?。樋山とごゆっくり。それじゃあね。」
宗介の背中が階段を降りていくのを横目で見ながら、美風が言った。
「新田さん、上野の事なんか気にすることないよ。リラックスして。」
美風は平気な顔でスタンドからメニューを取った。
「居なくなってくれてせいせいする。新田さん、デザートに何を頼みたい?。」
恋は困惑した顔で、渡されたメニューを受け取って開いた。