【長】幼なじみは狐の子。
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◆◇◆
「新田さん」
ある日、恋がマンションの自室に居るとノックをしてから美風が顔を出した。
「なに?」
「コーヒー飲まない?」
「え」
「たまにはゆっくり。」
恋は美風についてダイニングに入った。
──────
「さっき豆挽いた。新田さんが部屋に居た間に。地下の店で買ったコーヒー使って。」
美風が言った。
「挽きたてだよ。いい香りがするでしょ。その店、コーヒーの専門店だったんだ。」
「僕ブラック」
廊下の向こうから宗介がやってきて言った。
「なんだ、上野も居たのか。面倒くさいな、お前も飲むのかよ。僕と新田さんだけで良かったのに。」
「違反。約束破り。恋、樋山と二人でチャラ付くな。お前の彼氏は誰?」
恋は、美風が3人分のコーヒーを淹れるのを見ていた。
「平穏。平和。こういうゆっくりできる午後もなきゃ、異世界人はやってられないよ。」
美風が言った。
「もうすぐ正午になるしね。新田さんミルク要る?」
「あ、お願い」
「恋、ミルク淹れると頭冴えないよ。」
宗介が言った。
「コーヒーはブラックじゃなきゃ。甘いもの食べる時丁度いい位の。意識がはっきりしない。僕はブラックで飲む。」
「ふーん。僕はミルクたっぷり淹れるな。」
美風が宗介の言葉に関心なさそうに言った。
「たっぷり淹れて和むよ。ゆったりできる。こういう常日ごろの非常事態でもね。」
「非常事態って?」
「「異世界」」
宗介と美風の言葉が重なった。
「新田さん、言っとくけど、今も超非常事態だからね?」
美風が怒り笑いで言った。
「こんな時こそって思ってお茶誘ってる。新田さん、異世界来てるの忘れてるでしょう。」
「恋は呑気過ぎて。どうしようもない。馬鹿なんだから。」
コーヒーを一口飲んで宗介が言った。
「ああ嫌だ嫌だ。僕は上級魔法覚醒者に登録されて、警備にまで駆り出されるし。向こうの世界にいた時、こんな事思いもよらなかった。なんでこんな目に遭うんだか。」
「そうそう、僕はわざと上級から外れたんだ」
美風が澄まし顔で言った。
「テストする時落として。その方が新田さんのそばに居られるから。まあ当然かな。僕達2人で居るから、上野はその間警備がんばって。」
「……腹立つな。僕も申請し直す。」
そうする事を思いつかなかった宗介は、うんざりした顔をしてまたコーヒーを一口啜った。
──────
◆◇◆
そのころあの件の男女ペアはアジトで相談をしていた。
「魔法覚醒者が付いてるんじゃ手が出せない。ありゃどういう知り合いだ?」
男が言った。
「きっと恋人同士よ。」
女が言った。
「あの狐の人間の名前を呼ぶ時、そんな感じだった。」
「なるほどな。奴ら五芒星の町を行く途中だそうだ。何かいい案があるか?」
「贄なんだから、私達にまじないで登録して消しちゃってもいいでしょう。」
「毒殺か?」
「それもいいわね。盛大にやりましょう。でもそう出来ない場合……魔法覚醒者を引き剥がさなきゃ。待って、私にいい案がある。」
悪者二人は悪企みを始めた。
──────
◆◇◆
次の町は美食の町で、恋たちは魔法協会の役員さんから町のケーキの試食会に呼ばれていたが、現地では問題が起きていた。
試食会の会場のビルに着くと、会場には何人もの警察官が来て作業をしていた。
「今日このビルの他の試食会で毒入り事件があったんですよ」
魔法協会の役員さんはハンカチで額の汗を拭きながら言った。
「実は事件があったのは私の姪の働いている美食コミュニティでして……そんな事は絶対ないはずなんですが……もう何が何やら」
それから恋たちをホールに案内して、会場のたくさんの豪華なケーキを目の前に、役員さんは言った。
「食べないでくださいね」
申し訳なさそうな顔。
「用意だけはされてるんですが……魔法覚醒者の方々に何かあったら、私の首がちょっと……」
プチケーキに手を伸ばしかけていた恋を、宗介が睨んだ。
──────
「あーあ、ケーキ食べたかったなあ」
3人で美食の町を駅に向かう途中、恋がぼやいた。
「無理言わないの。役員さんの迷惑になるだろ。」
「宗介も好きでしょう。苺のショートケーキ。食べなくてよかったの?」
「僕はシェルターで買うから。無理に外では食べない。今日食べなくても別に困らないし。お前とは違うの。」
「そういやうちでは毎日ケーキが出てたけど、最近食べてないな」
美風が言った。
「毎日ケーキ食べれるの?。良いね。樋山くんち。」
「食べたいわけじゃないけど、習慣で出るんだ。もう麻痺してる。新田さんにも食べさせたいな。」
「恋、戻っても樋山んちには行くなよ。ケーキだったら買ってやるから。」
3人がそう話していた所で、また空気がさっと変わった。
と同時に、恋は美風が恋の後ろに回ったのと、宗介が恋の前に立ったのを感じた。
「気をつけろよ。」
モンスターはしばらく動かなかった。
と、突然、宗介に向かって、狼型の灰色のモンスターが、滑るように動いた。
恋が宗介を見ていると宗介はなぜか目を閉じていたので、恋は急激に焦った。
モンスターが鋭い爪のある手を振り上げたところで、宗介が目を開けなかったので、恋はとっさに前に出た。
「宗介!」
驚いたのは宗介だった。
宗介は毎度毎度上級魔法覚醒者として警備に駆り出されている身分で、今日は目をつぶっても弱いモンスターが倒せるか試していたのだった。
鉤爪は恋の肩を切り裂いた。
「恋!」
宗介はモンスターを睨んだ。
それだけやるとモンスターは魔法使いの宗介の剣幕に怯えて、あっという間に逃げ去った。
「こら!なんでお前が出てくるんだよ!」
血を流している恋に宗介が怒った。
「だ、だって宗介が」
「試してんの。雑魚目閉じて倒せるか。絶対倒せんの。失敗ありえないんだよ。」
「新田さん、魔法使えないのに、前出るの馬鹿だよ」
美風がきつい口調で咎めた。
「ったく。もう。馬鹿なんだから。良い?」
宗介が言葉を切った。
「僕も樋山も、もう一流の魔法覚醒者なの。僕たちの心配よりお前。お前だけ。」
宗介が言った。
「僕たちが守ろうとしてるのはお前なの。僕たちはいつもお前だけ怪我しなきゃいい位に思ってる。それをいい加減分かれよ。」
「その通り。大切に思ってるのを理解しなよ。」
「約束。絶対、僕の前に出ないこと。今後。あり得たら、僕がお前をただじゃ置かない。」
「……」
恋は、怖い顔の宗介に黙っていた。
「ああむかつく。さっきのモンスター、追いかけて仕留めていい?」
美風が聞いた。
「多分ビンタ1発かな。ううん2発、両頬かも。もしキミが僕らの前に出ることがあり得たら、その時は僕たちのせいでキミが痛い思いするからね?。新田さん。」
それでは本末転倒なのではないか……恋は美風に思ったが、怖かったので何も言えなかった。
──────
◆◇◆
「恋!」
「ちょっと待って」
次の町はファッションの町だったので、酔狂に恋はお洒落をしていた。
ハートのプリントのTシャツに、普段は履かない柔らかい素材のスカート。足にはシンプルなサンダルを履こうと思っていた。
髪を捻って結い上げた所で、部屋に宗介が来たのだ。
宗介は普段着に異世界人の証拠である紺色のローブを纏っていた。
「早くしな。」
「もうちょっとだけ待って。」
恋は、髪を髪飾りでとめると、ローブを持ってリビングへ向かった。
ローブを着て準備してもう待っていた美風は、恋を一目見るなり笑顔で言った。
「新田さん今日は髪型違うんだね。可愛い。」
「ありがとう」
「歩きに行くんだから洒落込んで行く所じゃないの。もう。まったく。」
宗介がそっけなく言った。
恋は、上から紺色のローブを着込みながら、今日はどんな町だろう、と想像をした。
──────
駅から降りると華やかな町が恋達を出迎えた。
通りを歩いている人は皆おしゃれな格好をしていて、あちらこちらに光る文字や広告が見える。
恋は、自分達もお洒落に見えるだろうか、と気にしながら、宗介と美風と通りを歩いた。
ぱっと目を引く目立つ見たことのないデザインの服装や派手な色の服装をした人が、ここでは珍しくなかった。
──────
横断歩道を渡りきった先の通りのカフェ店の前で、恋は声をかけられた。
「ちょっと失礼」
声の主は男だった。
ナチュラルなおしゃれな服装に、白いマスク。
何処かで男を見たような事がある気がしたが、宗介には思い出せなかった。
「なんですか?」
「ファッションショーに興味はおありですか?」
「えっ」
「私達、ファッションショーのモデルを探しているんです。こちらのお嬢さんは、何から何までぴったり。」
男は恋の今日のファッションを褒めちぎった。
「ファッションショーかあ。良いですね。」
恋が照れて頬をかいた。
「きっと今日髪型違うから。いつもはストレートヘアなんですよ。」
「急ぐからそういうのはちょっと……」
宗介が言うと、男は畳み掛ける様に言った。
「この近くの大きなテントで主催してます。一度モデルをされてみると良いですよ。お客さんの前でお洒落を見せつけるのは癖になりますよ。」
結局、恋はファッションショーのモデルを務める事にした。
「新田さん、凄い。スカウトじゃん。いい記念になったね」
男に案内されて大きなテントの舞台袖に向かう途中美風が言った。
「あんまり調子に乗るなよ。服装でスカウトされただけなんだから。まったく。時間を使うんだから。」
宗介が言った。
テントは黄色とピンクの2色でで大きく、ステージにはライトがたくさんついていて、バックには映像が映るようになっていた。
「モデルさんは着替えをするのでこちらへ。……お連れの方はこちらへ。」
男は宗介と美風を観客席に案内した。
観客はまばらだった。
もっとお客さんが来ていてもおかしくないのに、会場は空いていて、黒服の何人かが座っているだけだった。
「なんかおかしくないか?」
宗介が小声で言った。
「何が?」
「普通ファッショショーをするなら、宣伝もかなりしてあるはずだ。何でこのテントは観客がこんなに少ないんだろう。」
「確かに。」
美風も警戒した顔で頷いた。
宗介は不審に思いながら、後ろの方の席に座って、杖を片手に、ファッショショーが始まるのを待った。
──────
一方恋は。
恋は渡された銀色のきらきら光るふわふわしたドレスに着替えて、舞台袖で待っていた。
緊張はしなかったが、舞台で何をすることになるのか、恋にはさっぱり分からなかった。
「出番です。」
黒服のアシスタントさんが言ったので恋は舞台に歩いていった。
バックパネルにはスタイリッシュな映像と音楽。
恋は一番前まで歩いていって、ポーズを取った。
スポットライトが当たって、恋を照らした、丁度その時。
舞台に黒服を着た女が早足で出てくると、恋の腕を掴んだ。
女は手から灰色の光を出すと、恋の顔に近づけた。
それまで舞台となる町を映していたバックパネルの映像が消え、音楽が止んだ。
とっさの事で何が起きたか分からなかった。
「恋!」
「ははは、かかったな!」
宗介が叫ぶと舞台にあがってきたさっきのスカウトマンがマスクを外して言った。
周りに座っていた黒服の観客たちは一斉に正体を現して灰色の玉を宗介たちに投げつけ始めた。
灰色の玉は当たると瘴気で息苦しくなるものだった。
宗介と美風は銀色の光で応戦していたが、その間に恋が攫われた。
最後の観客役に銀色の光を放ち、宗介と美風が舞台へ走ると、舞台はもう蛻の殻だった。
「畜生!」
「どうすれば……」
宗介と美風が唇を噛んだ所で、上からぶわんと大きく風が吹いた。
見上げると律が、魔法の絨毯に乗ってテントに現れた所だった。
「事情は知ってる。乗って!」
宗介と美風は律と魔法の絨毯に乗ると、恋を追いかけた。
──────
恋は、狐に変身した姿で、空飛ぶ車で連れ去られていた。
車は廃墟に向かっていた。
近くの森にうってつけの廃屋があるのだ。
廃屋まで来ると、宗介達と悪者達は戦闘になった。
灰色の玉と銀色の光がぶつかり合う。
善の力の銀色の光といえども、何人もの悪者たちを相手にしているせいで大仕事だった。
宗介が、狐を連れた女に思い切り銀色の光をぶつけたので、狐の恋は一瞬体が自由になった。
その隙に恋は猛ダッシュで律の腕に飛び込んだ。
「ちっ!」
倒れた女を助け起こしながら、スカウトマンのフリをしていた男は突然灰色の狼型のモンスターを召喚して宗介に放った。
恋をフォローしていた宗介は狼の鉤爪をまともに食らい、肩から赤い血が流れた。
「宗介!」
恋は、狐の姿で、フーっと唸りながら、男を威嚇して毛を逆立てた。
男はすぐに仲間たちと空飛ぶ車に乗ると逃げていった。
宗介は立ち上がると、狐の恋のところへ来て恋を抱き上げた。
「恋!無事で良かった!」
律は黙って立っていた。
美風が言った。
「律、新田さんを救ってくれて本当にありがとう。でも、どうも僕たちの動きをキミが見張ってたって気がするんだけど?」
「話は長くなります」
律が言った。
「一旦シェルターに帰りましょう。宗介の手当もある。」
4人は空飛ぶ絨毯に乗ると、シェルターへの道を急いだ。
──────
◆◇◆
シェルターのマンションのリビングで、恋たちは律から事情を聞いていた。
「知っての通り僕は魔法監視員です。」
律がこう切り出した。
「今まで君たちが魔法を適切に使うかどうか、見張る役目をしてました。ずっと見張ってたんです。今のところは適切に使っていると判断していいでしょう。」
「恋を狙う悪い奴らの事は……」
「ああ、それは」
律がにっこり微笑んだ。
「個人的に調べました。タイプA型の魔法を使う悪漢ですね。恋をまじないの贄にしたいようです。」
「まじないの贄って……」
「簡単です。珍しい贄を使って契約すると、タイプB型の魔法が使える様になるんです。タイプB型とは、例えば……ここにあるコーヒーを、黄金に変えたりですね。」
「うええ、そんな事もできるの?」
「僕は知ってた。演習場で聞いたことあったし。そういう魔法もきっとあるだろうって思ってたから。見張ってた事、先に言ってくれないなんて、性格悪いと思うけど」
美風が言った。
「申し訳ないけど仕事なんで。個人的にはどちらかと言えば言いたかったんですけど。」
「それもそうだし、助けに来るなら、もうちょっと早く来いよな。もう少しで恋が攫われる所だったんだぞ。」
「仕事で直前までは手出ししないことになってるんですよ。申し訳ないです。」
ちょっと困った顔で仕事仕事と繰り返して、律が言った。
「ところで、星型の町々を回るのも残すところは王都だけになりましたね。」
律はコーヒーを一口飲んだ。
「感想は?」
「この世界じゃ恋が危ないから早く帰りたい。恋をこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかない。」
「僕も。新田さんが狙われる世界なら、魔法が使えたって、居ない方がましだ。生贄なんて危なすぎるし。」
「そうですか。」
律はため息混じりに言った。
「残念。せっかく僕の姉さん狐を見つけたと思ってたのに。恋がなるくらいなら、贄には僕がなってあげますよ。王都からは僕も行きます。こっちに残る事、本当に考え直して欲しいな。」
──────
◆◇◆
王都ではいつも城下町でお祭りをやっている。
見上げると町中じゅうに賑やかでカラフルな旗や飾り。
恋たちが向かった時は、城下町ではボートレースをやっていた。
「ったく。面倒。なんでこんな事までしなきゃならないんだか。理解不能。かったるい。」
町の中心を行く水際でボートに乗った宗介がぼやいた。
「僕達、優勝候補って言われてるよ。ついでに商品貰っていこうか」
同じくボートに乗った美風が言った。
「魔法覚醒者は魔法でボートを漕げるからだろうね。速いに決まってる。」
「早く漕いで早く終わらせようぜ。付き合ってらんない。こんなの、何が楽しいんだか。」
「新田さん、見ててね。律、新田さんを頼んだよ。」
果たして宗介と美風のボートは全速力で水の都を駆け抜けた。
商品はアイス1年分だった。
優勝した宗介と美風はその場で権利書を書いた。
──────
道を進むと不思議な格好をした一行に出会った。みんなバルーンを持っていて、今で言うコスプレをしている。
「城下町はコスプレで歩くのが普通なんですよ。」
律が説明した。
「バルーンを持ってパレードするんです。恋、着替えたいですか?」
恋たちはその日泊まる宿屋に行くと着替えをした。
恋は天使、宗介は悪魔、美風はヴァンパイア、律は着替えをせず魔法使いの格好をして外に出た。
通りを歩くと、様々な格好をしている人たちと行きあった。
「この格好でも目立たないって、一体どれだけの人がコスプレしてるんだ」
騎士と神父のコスプレをしている人とすれ違いながら、宗介が呟いた。
「見て見て、頭の天使の輪っか。浮いてるよ」
「魔法をかけてありますから。今日の間は落ちませんよ。」
「樋山くんヴァンパイア似合うね」
「海外の血が入ってるからだろうね。魔法で八重歯になるみたい。ちょっと変な感じするけど。」
「小っ恥ずかしいったらない。これ、一体何からキャラが決まってるんだよ?」
「秘密です。僕だけ魔法使いでそのまま。ふふっ。」
「……。納得行かない。気恥ずかしいったらない。僕も魔法使いのままで良い。ちょっと着替えてきて良い?」
恋達はパレードについて、町中を歩いた。
──────
パレードの通りは、人がたくさん居た。
大勢の人波に押され、恋は、ふいに宗介を見失ってしまった。
振り向くと美風も律も居なかった。
さてどうしようと思いながら、恋は手近にあった大通りの端にあるベンチに腰掛けた。
「何してるんですか?」
ポケットから魔法の位置探査レーダーを出していじっていると、ふいに後ろから声がした。
「律」
「探しましたよ。まったく。すぐいなくなっちゃうんだから。」
律はそれから恋を見つめて呟いた。
「僕なら、いなくなった恋をすぐ探してあげられるのにな。必ず見つけ出してあげられる。この世界で。」
「えっ……」
「……恋。」
「恋!」
律が何か言いかけた所で宗介と美風がこちらへ歩いてきた。
「探した。だから、居なくなるなって言ってるだろ!」
「新田さんどこいたの?。パレード中に忽然と居なくなるんだもん。城下町とはいえ、危ないよ」
「まったく僕が居ないと駄目なんだから。さっさとレーダーしまいな。もう行くんだから。早く。」
恋が律の方を見上げると律は儚げに微笑んだ。
「なんでもないです。」
──────
◆◇◆
王族に謁見するのは大変だった。
まずめいっぱいドレスアップして、その後4人は御城に行くために迎えに来た馬車に乗った。
揺れる馬車の明かりが地面を照らす。
門番が大きな門を開けると、馬車は中へ入った。
入り口から見上げると物語の中の様な白壁の美しい御城。
「恋、手」
正装した宗介に手を引かれて広い階段を登りながら、恋はこれがファンタジーの世界なのか現実なのか分からなくなった。
──────
御城ではダンスパーティーをやっていた。
恋は最初、踊らずに、端の席に座ってダンスを見ていた。
「新田さん」
ふと呼ばれて顔をあげると美風が王子様の様にお辞儀をした。
「僕と踊ってくれませんか?」
ドレスを着た恋は、小さな声で応えて、美風とダンスをした。
「恋」
一曲踊りを終わるとバルコニーの壁に寄りかかってこちらを睨んでいた宗介が怒り笑いした。
「彼氏の僕を差し置いて、どういうつもり?。ぼーっとしてんなよ。早くこっちに来る。」
恋は宗介とも踊って、その後律とも踊った。
誰もが今この御城に居る瞬間を味わっていた。
──────
王様とお后様は揃っていた。
宝石が散りばめられた服を着て、玉座に座っている。
頭を下げて謁見すると、王様は
「苦しゅうない」
と言った。
「魔法覚醒者たちよ、今までありがとう。ゲートの場所をお教えしよう。」
恋たちは、元の世界へ戻るゲートの場所を聞いた。
それから恋と宗介と美風は、王様に美しい宝石を授与された。
──────
◆◇◆
恋と宗介と美風と律は、王都から馬車でゲートに向かっていた。
「何で車があるのに車で行かないんだろう」
馬車の中で恋が呟いた。
「ゲートまで、特別なルートを通るんだって。だからじゃない?。馬車なの。」
「美風の言う通りです。馬車じゃなきゃ通れないんですよ。通行規制がかかってるんです。」
「律はゲートの場所知ってるの?」
「ゲートの場所は毎回変わるので、知ってる訳ではありませんが、まあ大体の見当は付きますね。今回は石の塔だと思います。古い大きな塔ですよ。」
「どうでも良いけど揺れない馬車だな。御者がよっぽど熟練してるんだろうね。恋、窓を開けすぎるなよ。」
途中、恋は狐になって、宗介の膝の上で眠った。
──────
馬車は町の宿屋に着いた。
宿屋では、おいしいご馳走が出て、恋たちはお腹いっぱい食べた。
夜になって眠る時間になって、恋は部屋の窓からきれいな明かりがいくつも見えるのに気が付いた。
「宗介、あれ、なんだと思う?。」
歯を磨きに出てきた宗介に聞くと宗介は
「知らない」
と一言。
「町で祭りでもやってるんだろ。ったく本当に勘弁して欲しい。お祭り騒ぎのファンタジー異世界。」
──────
恋は、夜眠れなかった。
起き出して窓を見ると、外の明かりはまだ付いている。
恋は思い切って、パジャマにローブを着て一人で表に出てみることにした。
──────
明かりの方に近づいて歩いていくと、明かりの正体はいくつものランタンだった。
「きれい……」
明かりは暗闇にまるで昼間の様に辺りを照らしていた。
しばらく明かりの道を歩いて行く途中で、持ってきていたケータイが鳴った。
恋はしまった、と思った。
一人でうろついていることが分かれば、宗介や美風に怒られる事になる。
恋はわざとケータイを取らず、もういっそとそのまま歩き続けた。
──────
しばらくして。
ふいに、恋の前に出した片足が動かなくなって、恋は驚いた。
もう片方の足で前に踏み出そうとしても、こっちの足も全然動かない。
「あれ……?」
────足が動かない。
びっくりしていると後ろからぽん、と肩を叩かれた。
振り向く二コ、と笑顔を浮かべた宗介が居た。
──────
「僕B型の魔法も使える。今のは足を動かせなくする魔法。」
恋の頭にゴチンと一発入れてから宗介が言った。
「こんな夜中に一人で。なんのつもりだよ。冗談きつい。こんだけ危ないって言ってんのに。どうして分からないの?。」
「だって」
「だってじゃない。お前は狙われてる身なんだぞ。自覚しろよ。」
宗介は小言を言いながら杖を振った。
すると、恋の姿がしゅるしゅると縮んで小さくなっていき、やがててのひらほどになった。
「今日はお前はこう」
宗介は足元の恋をつまみ上げるとローブのポケットに入れた。
──────
「タイプB型の魔法って、難しい?」
ポケットから顔を出して、恋が聞いた。
「別に。簡単。樋山にもできるよ。念じ方が違うだけ。」
「私に魔法が使えたらな。」
「迷惑。お前と魔法の組み合わせ。何しでかすか分かったもんじゃない。危なっかしいったらない。なくて正解。ああ良かったお前が魔法覚醒者じゃなくて。」
宗介はぶつぶつ言いながら歩く。
恋が言った。
「ランタン祭り綺麗だね。最近デートしてなかったから、丁度いいかも。」
「まーた都合の良いこと言って。次一人で出歩いたら許さないから。危ないって言ってるのに。まったく。ほんっと、どうかしてる。馬鹿なんだから。」
そう言いながら、宗介は、夜にあまりに印象的な明かりの祭りに目を細め、ぶらぶらゆったり帰ったのだった。
──────
◆◇◆
時同じくしてあの悪漢たちは病院から出てくる所だった。
影のモンスターと契約すると、善の力の銀色の光に弱くなるので、この間の戦いは、悪者たちに大ダメージだったらしい。
「もう少し、もう少しだったのに。」
女は悔しそうに言った。
「狐は狐でも魔法覚醒者付きじゃな。諦めるか?」
「タイプB型の魔法を諦める?。私が?」
男が聞くと女は長い髪を払って怒りを示した。
「最後の最後まで追うわよ。あの狐。」
「あいつは俺達のものだ。だがもうすぐゲートが開き、奴らが帰ってしまう」
「彼ら本当の異世界人なのかしらね。」
闇夜に月だけが照っていた。
──────
◆◇◆
宿屋からゲート石の塔までは魔法の絨毯で行くことになった。
「この絨毯、何人乗り?」
絨毯に座って雲の上を飛びながら、恋が聞いた。
「何人でも乗れますよ。広くできるんです。」
「ふーん、魔法で?。便利だな。」
「今は5人乗り位か……。律、よっぽど魔力が豊富にあるんだね。僕でもできるか今度やってみるよ。」
「下に森が見えてる」
恋が下を向いて言った。
「恋、危ない、あんまり乗り出すと。」
「森の向こうにあるんですよ。」
緑の森の上通る時、後ろからオレンジ色の大きな何かが現れて、恋たちを追い抜かしていった。
「不死鳥ですね。」
律が羽ばたくオレンジ色の翼を見て言った。
「間近で見れることは珍しい。幸運の象徴ともされています。」
「縁起良いね。」
「ほんっとのファンタジーだよな。この世界。改めて考えると凄い。」
「不死鳥、どこに行くんだろうね。不死鳥にあやかって、ゲートまで無事着くといいんだけど。」
美風が呟いた。
──────
果たして石の塔は崖の近くに立っていた。
「ここが……。」
塔の一番下について、魔法の絨毯を降りた恋たちは、大きな石の塔をみあげた。
見上げると塔は高く聳える古い塔で、良く見なくてもゴシックなダークファンタジーの雰囲気を纏っていた。
入り口を入ると中は暗く、冷たい石壁に音が反響して、ここを歩くのか、と恋はごくりと唾を飲んだ。
──────
宗介を先頭に、杖で銀色の光を光らせながら、一行は塔の中を進んだ。
塔の中は壁伝いに螺旋状の傾斜があって、真ん中は広い空洞になっていた。
「恋、足元気を付けろよ。躓くなよ。」
「新田さん、不安だったら、僕につかまってても良いよ」
「うざ。そういうのは彼氏の権利。恋。」
「大丈夫、二人とも」
「最上階まで行けばすぐゲートは開きますよ。心配ないです。ちょっと掛かりますけどね。」
しばらく恋たちは進んでいった。
道は上にいくにつれて傾斜がきつくなり、もっともっと暗くなってくるようだった。
「何か聞こえない?」
岩壁の道を歩きながらふいに美風が聞いた。
「えええ、怖いこと言わないでよ。」
「いや、僕にも何か聞こえる。会話みたいだ。」
「おかしいですね。ゲートは宗介たち以外使わないはずなのに。」
「後ろから足音みたいのも聞こえる。誰だろう。」
念の為、宗介が一番後ろに回って杖で辺りを照らすと、物陰に身を隠し遅れたのはあの男女ペアの悪漢だった。
「ちっ」
悪漢は身を翻すとすぐに灰色の玉を出して投げつけてきた。
女の方が恋を狙う。
「そうはいくか!」
宗介が銀色の光で応戦すると、律が叫んだ。
「駄目だよ、宗介!」
「はあ?」
「この塔は脆いんだ。確かに宗介は強いけど、その魔法のじゃゲートの塔を壊しちゃう!」
「じゃあどうすれば……」
「走れ!」
律が叫んだので、恋たちは最上階に向かって斜面を走り出した。
──────
後ろから灰色の玉が飛んでくる。
宗介と美風は時々弱めに後ろに向かって銀色の光を放ち、応戦する。
とんでもないチェイスだ、と宗介は走りながら思った。
──────
息を切らして最上階に付くと、ぽっかり穴の開いた空間上の不安定な吊り橋の向こうに、光る扉のような物があった。
「壊れそうだけどギリギリ行けそう。B型の魔法をかければ。」
美風が言った。
灰色の玉が飛んでくる。
「走れ!」
宗介は最後尾で応戦しながら恋に言ったが、恋は立ちすくんだ。
────怖い。
吊り橋が怖くて渡れないのだ。
悪漢たちはすぐそこに迫っている。
「走れったら!」
宗介は恋を怒鳴り、悪漢に銀色の光を放った。悪漢たちはそこで崩れ落ち、倒れ込んだ。
──────
宗介は早足で恋の所まで来た。
「目つぶってな、恋」
宗介はそう言うと、恋の左手を掴んだ。
美風が恋の右手を掴んだ。
「大丈夫。」
恋は目をつぶった。
恋を挟んで宗介と美風は3人で手を繋いで吊り橋を渡った。
吊り橋は揺れなかったが、下の穴は見ると吸い込まれそうな位深かった。
律がゆったりその後ろを歩いてきて、4人はついに光る扉の前まで来た。
律が言った。
「僕はここに残ります。まだしなきゃならないことがあるから。終わったら必ずそっちへ行きますよ。恋と出会って、帰るのが楽しみになった。そっちでも、必ず出会った事を覚えてる。
恋。僕の事忘れないでくださいね。迎えに行きます。約束ですよ。宗介、恋のこと、譲って貰いますから。悪いけど美風も。あやかし狐同士、出会う事って滅多にないんだから。僕もう決めました。恋と結婚するって。」
宗介が口を開いた。
「譲らない。悪いけど、向こうじゃ話が違うんだ。狐のチビなんかに、恋をあげてたまるか」
美風が言った。
「左に同じ。新田さんは僕が貰うんだ。」
「やんねーよ。お前たちの出る幕なんかない。」
律は笑った。
「よく聞こえませんでした。多分譲ってくれるって言ったんでしょうね。ありがとうございます。嬉しいな。宗介、美風、向こうで恋を守ってください。恋!。あなたと出会えて良かった。」
すっと音もなくゲートが開いた。
真っ白い光の中に、恋と宗介と美風が足を踏み入れる。
光の中は音が聞こえなかった。
最後に律が恋に向かって何か言ったが、何を言ったのか分からなかった。
──────
図書館はいつも通り盛況だった。
「この資料も駄目。レポートに使えない。」
宗介が言った。
「じゃあどれなら良いって言うの?」
恋が聞いた。
「新田さん、最初から、もっと大判の資料探さなきゃだよ。これじゃあ見にくい。第一カラーじゃないと。」
美風が優しく言った。
「その通り。レポートってものを分かってない。まったく。恋、出典もちゃんと控えるんだからね。」
宗介が駄目だしをしてから注意した。