【長】幼なじみは狐の子。
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昔々あるところにお姫様と王子様が居ました。
二人は愛し合って居ましたが、違う国の王子様が来てお姫様に求婚しました。
貪欲なお姫様は考えました。
────二人のどちらの方が私をより愛してくれるだろう。
お姫様はわざと返事を遅らせました。
二つの国はお姫様を巡って争って、やがて滅んでしまいました。
──────
「亡国のお話だね。」
本屋の一角。
広げられ絵本を見て、恋は紺色のローブの腕を返しながら言った。
3人は本の町へ来ていた。
売っているものといえば小説。
どこを見回しても本ばかり。
町は古く、物語しか売っていないせいで全体的にはちょっと不思議な雰囲気だった。
「面倒。歩けって、どういう意味なんだ?。ただ歩けば善の力が撒かれてる事になるのか?」
「そうだな。分からないけど、町を回れって言ってたから、一周はした方がいいんじゃないか?。その方が普通だと思うし。」
「恋行くぞ。油を売ってる場合じゃない。夕方までには帰らなきゃいけないんだから。」
紺色のローブを羽織った3人は、まず町の入り口の門から始めて、順々に本屋の並びを回った。
しばらくして。
「疲れてきた」
恋が言った。
恋は、歩くのは好きだったが、どこにも寄らず無目的に歩くのは好きではなかった。
宗介と美風は、時折本屋を覗きながら、結構楽しそうに散歩していた。
「だらしない。もう疲れたって。情けないと思いなよ。」
「僕はまだ疲れてないけど、それならちょっと休もうか。見て、あっちの方にお洒落なカフェがある。」
3人が行ったカフェには、カウンター席とテーブル席があり、3人はカウンター席に並んで座った。
「見ない顔ですね。旅の方ですか?」
マスターが注文したアイスティーを飲んでいる宗介に軽く聞いた。
「ええ。」
「魔法覚醒者だったら良いが、このところ星型の町々は厄介ですよ。影のモンスターと結託する輩が出てましてね。」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。なんでもまじないで契約すれば、影のモンスターを操ることができるとかで。」
宗介は自分達が魔法覚醒者だと明かさなかった。
恋を危ない目に合わせる訳にはいかない、と宗介は恋にちらりと目をやった。
恋はきょとんとした顔でアイスティーのセットの苺のタルトをフォークでつついている所だった。
「マスター、」
やがてマスターは他の客に呼ばれた。
「はいよ。じゃあ旅の方も、くれぐれも気をつけなすってくださいね」
「大問題。影のモンスターと契約だって。」
美風がサンドイッチを食べながら言った。
「まじないって、特別なのがあるんだろうね。契約して脅迫や恐喝に使う訳か。危ないな。魔法が存在する分、そういう事もあるのか……。まじないってどの位効くんだろうね。」
「ピストルあるけど……」
「ピストルの弾が当たる当たらないは運次第だから、確かに危ない。一般人には脅威だろうな。」
宗介が言った。
「最も、僕と樋山は魔法が使えるから関係ないけど。ささっと杖の一振りでモンスターなんか消せるし。問題は恋だな。」
「新田さん、そういう輩に会ったらすぐ僕の所に来なね。守ってあげるから。」
「僕はお前をちゃんと守ってやれるけど、樋山はどうか分からない。僕の所に先に来いよ。恋。」
「絶対に僕が新田さんを守ってあげるんだ。誓う。僕が居ない時は、まあしょうがないから上野を頼らなきゃだけど。どっちにしろ、僕たちから離れちゃ駄目だよ。……まあ滅多に居ないと思うけどね。そんな人」
「だろうな。でも気をつけろよ。」
サンドイッチを食べ終わった宗介は、デザートのプリンを大きく掬って口に入れた。
──────
カフェから出て数分。
歩いて魔法を撒く活動を始めた恋は、さっき宗介に言われたばっかりなのに、もう、はぐれて迷子になっていた。
恋は、さっき歩いたところには戻らずに、宗介達がこっちの方へ進む予定だった、などと勝手に考えてずんずん奥へ入っていった。
本屋の並びは遠くなり、民家や狭い路地が見える。
宗介達が見当たらないので、恋は一旦路地裏に入り、匂いから宗介達を探そうと狐の姿になった。
ドロン!と音がして、そこに居るのは一匹の子狐。
恋はそこから狐の姿で走り出したが、計算違いが一つあった。
恋が入っていった路地裏は、さっきカフェのマスターが言っていた様な胡乱な輩の取引場所だった。
恋が狐に変身したのを、そういう輩の一人が物陰から見ていた。
胡乱な輩はもう一人に声をかけた。
「おい。」
「どうしたの。」
「狐に化ける人間って、まじないで良い贄になるよな。」
「それはもちろん。」
一人は男でもう片方は髪の長い女だった。
左手で影のモンスターを撫でている。
「さっき見つけた。今度はあいつを狙うことにする。」
「本当に狐になったの?。本当に?」
「ああ」
悪企みをする二人は、こそこそと相談を始めた。
──────
ところでその頃恋は。
恋は嗅覚を頼りに宗介達の所に辿り着いた。
後ろから宗介の頭にジャンプすると、丁度運悪く振り返った宗介の顔面に張り付いた。
宗介は狐のまま恋の頬を思い切り抓った。
「お前は!。樋山と一緒にあちこち探し回ったんだぞ。どうして居なくなるんだよ。」
宗介から逃げまとって恋が美風の後ろへ隠れると、美風はしかめっ面で恋を捕まえ、手をグーにしてコツンと狐の恋の頭を打った。
ドロン!と恋は狐から人の姿に戻った。
「痛た……」
「や・く・そ・く!」
頭を押さえた恋に美風が言った。
「キミは一人でウロウロしない!。僕が庇うとでも思った?。馬っ鹿じゃないの、迷子になんかなって!。」
「恋、本当に危ない。」
宗介が言った。
「マスターが言ってた。変な奴らもいっぱい居るんだ。いい加減分かれよ。お前は一人になって良いの?」
「良いわけないでしょ。ったく。僕がどれだけ心配すると思って。」
「分かったらもう二度としない。ふらふらするな。一人で出歩くな。はぐれたら僕達がもと来た道を探すから、お前はその場から動かない。いい加減にしとかないとまた痛いゲンコツ食うよ。」
「げんこ一発食って怒られて反省。そうやって言われるの嫌でしょ?。わざと言ってるからね。……1人で出歩かない。これは約束。良い?。分かった?。じゃなかったらグーだよ。」
宗介と美風に睨まれて、恋は仕方なく頷いたのだった。
──────
◆◇◆
地下世界にも町があったが、そこで揃わないものもある。
シェルターから出て、恋と美風は買い物に出てきていた。
宗介は会長から手伝いを頼まれたとかで、今日は一緒に来れなかったのだ。
恋と美風は買い物袋を持って、歩道橋を歩いていた。
前衛的な形の魔法協会。並んでいるマンションと商店街。向こうの空には白い雲と、小さな飛行船が浮かんでいる。
「あの飛行船も、魔法で動いてるんだって」
お土産のパン屋の袋を抱えたまま、美風が口を開いた。
「こっちの世界はなんでも魔法だね。科学は発達しないみたい。科学者よりは魔法使いの方が多いんだって。」
「飛行機も魔法らしいよ。怖くないのかな」
「さあね。慣れてちゃってるんだろうね。モンスターすら居る世界だし。向こうの世界に居る時は想像もつかなかった。」
美風がくるりと振り返った。
「新田さん、こういう世界すら一緒に体験した二人は、いつか結ばれると思わない?」
「え……」
「不思議体験を共にして、ますます惹かれ合う。そうだったら良いなって思ってるんだけど。」
「でも宗介が……」
「ああ、あいつ。」
美風はつまらなそうに目を伏せた。
「単なる邪魔者だな、あれは。新田さんのおまけだとして嫌だ。居なかったらどんなに清々するか。ねえ新田さん……」
美風が口を開きかけたところで、辺りの空気がさっと変わった。
モンスターの居る空気は、いつも灰色がかっている。
灰色の空気の匂いを嗅ぐと、美風はふっと笑って言った。
「そうだ、僕の考案したショット、見せて上げる」
とたんに目の前に出現したモンスターに、美風は最初なぜか動かなかった。
美風を狙って目前に迫ったモンスターに、恋が目を瞑ると、次の瞬間、片手をあげた美風のてのひらから強い銀色の光が放たれた。
それは一瞬だった。
「僕、杖なくても魔法使えるらしいんだ」
はらはらと砂の様に雲散霧消したモンスターを間近で見やりながら、美風が言った。
「新田さんに手を出そうなんて甘い甘い……」
びっくりして固まっている恋を見て、美風がクスリと笑った。
「面白いでしょう?」
──────
◆◇◆
陶器の町と聞いていたのでどんな町かと思っていたら、次の町は露店の町だった。
大通り沿いに、陶器ばかり並べた露店が、100も200もある。
ローブを着た恋たちは駅から物珍しげにしながら通りを歩いていた。
「この町、雨の日はやってないんだって」
美風が歩きながら言った。
「さっき店の人が話してた。特別な町なんだね。雨降りの日は全然違う景色になるんだろうね。」
「陶器のお祭りをしてる、と考えるといいのかも」
恋が言った。
「珍しい壺とかお皿とか、沢山売ってる。模様はこの町の伝統の模様なのかな。」
「道が狭い。歩きにくい。ああ、イライラする。」
宗介が苛立たしそうに言った。
「買わせようったってそうは行かない。どうせ帰りに恋がドジ踏んで全部割っちゃうんだから。皿も、壺も。確かに良い品ばっかりだけど。」
「歩けば良いっていう点からしたら楽じゃね?。ただ歩くだけだし。品物見ながらだから疲れないし。」
「まあ、確かにな。一本道だし。賑わっているとはいえ。」
そこで宗介は声の調子を変えた。
「ところで恋?」
「なに?」
「お前魔法の位置探査レーダー持ったよな?」
にこお、と脅す時の笑顔で、宗介が尋ねる。
「持ってるよ」
「今度はぐれたら、そのレーダーを使ってすぐ僕たちの場所を調べること。良い?。絶対に狐にはなるなよ。」
「狐になれる人間って、闇値で取引されてるって、会長から説明されたんだ。本当に危ないからって言われた。新田さん、気を付けなきゃ駄目だよ。」
美風が説明した。
「売ったら高い?」
「売らないの。まったくもう。馬鹿な事言わないの。警戒心持てよ。本当に危ないんだから。」
宗介が振り向いて続けた。
「最もこの一本道で、お前だとしても迷うとは思えない。はぐれるとも考えづらいし。今日は僥倖だな。」
「何にもないといいけど……」
「あるはずないよ。一本道で。」
「だよな。」
美風と宗介が頷いて歩き出した所で、恋は見ていなかった段差に足をつまづけて転んだ。
運が悪かった。
恋は斜めに、陶器を広げている露店に倒れ込み、ガッシャーンと音がして商品の陶器のいくつかが壊れた。
「こら」
宗介が恋を睨み、戻ってきて店の人に謝った。
「すみません。弁償しますから」
店の人は愛想良く応じたが、如才がなかった。
店の人は何か思い出した用事があったらしい。
「弁償してくれなくてもいいんで、1時間ばかり店番をしてくれませんか。」
「えっ」
「お願いします。急な用事がありまして。ぜひ。」
宗介が異世界人登録カードを見せると、店の人は店番を頼み、台帳を渡すと出ていってしまった。
──────
「もう、恋のせいで。仕事が増えた。」
3人は広げられた陶器を前に宗介はあぐらをかいて、美風は片膝を立てて座った。
恋は宗介に小言を言われながら陶器を眺めていた。
透明なガラスの陶器や、青い模様のついた陶器は、いくら眺めても飽きなかった。
お客は滅多に来なかった。
しばらくして、口元をマスクで隠した、黒服の男女が、恋達の任された陶器屋の目の前で立ち止まった。
最初見た時、宗介はあれ、と気がついた。
男も女も、陶器を見るフリをして恋の方を見ている。
まるで隙を伺っているかのように、油断のならない目付き。
女が恋に向かって陶器の一つを指して言った。
「おいくらかしら?」
「これは……」
恋が言おうとした時だった。
女は左手からいきなり灰色の光を出すと、恋の顔に近づけた。
「恋!」
男がポケットから手を出すより先に、宗介は杖を構えていた。
宗介が杖から銀色の光を放つと、男は痛そうに身悶えしながら、女の腕を引っ張った。
女は咳き込んでいる恋を引っ張り上げようとしたが、その時には美風が女に杖を突きつけていた。
「ちっ!」
男女は灰色の玉を放ちながら走り去った。
恋はぽかんとしていた。
「恋!大丈夫か?。怪我はない?」
「びっくりした。今のは何だ?。お客さんかと思ってたから。いきなり襲われるなんて。」
「なんだったんだろ」
「なんだったんだろじゃないだろ。ああ、ああいう奴らの事を言うんだ。怪しいって。本当に危ない。恋が無事で良かった。」
「狐に変身できる人間狙いだとしたら、どこでバレたんだろう。」
美風が呟いた。
「とにかく!危なかった。恋自覚持てよ。お前は狙われてる。位置探査レーダー、さっきの奴らが落としていった。多分恋を探してたんだ。」
「それじゃまずいな。あいつら新田さんに狙いを定めてるはずだよ。どうしたら……」
「あのう……」
3人が話していると、向こうから店主がやってきた。
「こちらのお代は頂けるんでしょうか……」
さっきの騒ぎで壊れた沢山の陶器を見ながら、店主が遠慮がちに聞いた。