【長】幼なじみは狐の子。
夢主設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝、登校した恋が廊下を通ってやって来て、ドアを開けて教室に入った。
席に着くと鞄の中の物は机へ。鞄はロッカーへ。
と、そこで、恋に気付いた理央が手をあげて、おはよう、と声をかけた。
「恋、昨日、夜何食べた?」
恋の机の所まで来ながら、理央が聞いた。
「私は夜は唐揚げ食べたよ、南蛮漬けにして。甘酸っぱくておいしかった。好物なんだ。昨日は幸せだったな。」
「昨日の夜はハンバーグだったよ。」
「ハンバーグかあ。ハンバーグも良いよね。ソースたっぷり付けて。」
恋達が話していると、ロッカーから回って恋の席に宗介が歩いてきた。
「恋!」
「宗介。」
「食べ物の事ばっか話してないで、たまには何か考えろよ。少しは勉強でもして。」
宗介はちょっとだけ首を傾げた。
「学校の勉強以外でも。自分のためになることあるだろ。自炊したり家のことしたり。自分磨きに何でも。」
「そんなの。」
斜め前の席から恋の方を振り向いた美風が言った。
「お手伝いさんにやってもらって、新田さんは遊べばいいよ。わざわざ考えないで、気楽に構えてればいい。」
「樋山」
「上野はがめつい。新田さんと一緒に楽しい事を考えようとしたって、僕がいる限りそうはいかない。」
理央が聞いた。
「楽しい事って、何か思いつく?」
恋が言った。
「漫画とか音楽とか。」
「こう、明るくなれて面白い事が楽しいんじゃない?。楽しい事みんなで考えて、みんなで楽しもうよ。」
「あんまり突き詰めると分かんなくなる。考える事も一種の楽しみだけど。何をするのが良いのかな。」
「新田さん、僕と一緒にそういう活動しようよ。一緒に迂遠な事とか考えて楽しもうよ。精神的にさ。2人でやろ。」
「うざ。樋山、それは彼氏の権利。恋、お前の彼氏は誰?。樋山はひっこんでろよ。」
「迂遠な事って、恋愛で映えるよね。永遠とか、一瞬とか、掴めない物事とか。そう思わない?」
「確かに。」
恋が頷くと、ふう、とため息をついた宗介が言った。
「恋、今考えないで、僕と2人でいる時に考えろよ。僕の家に帰ってから、2人きりで。」
そうはさせじと美風が恋の机に体重を乗せた。
「僕がいる時にしなよ、新田さん。そういう遊び恋愛であるんだ。ねえお願い。僕とやってよ。」
「迂遠な事は考えるとふわふわした気持ちになる。楽しい事っていうよりはロマンチックで不思議な感覚だけど。恋はいつも取り合いだよね。」
理央が笑ったところでチャイムが鳴った。
────1────
しんとした教室、社会の授業。
「今度の授業では、グループごとに地域の歴史を辿るレポートを作ります。」
担当の先生が、黒板を背にして教鞭を手に、レポートについての説明を進めていく。
「調べるテーマは自由で、最後の授業でグループごとに発表を行います。……グループはくじで決めます。」
説明を聞きながら、恋は、授業の最後の発表の事を考えていた。
恋は、人の前に出てする発表が苦手で、今度の授業もちょっと面倒で嫌だな、と思っていた。
とはいえ恋は、気持ちを切り替えると、回ってきた紙の箱からグループ決めのくじを取った。
恋の引いたくじにはBと書かれていた。
黒板の白いABCDEFのBという文字の下に名前を書きに行くと、同じく名前を書きに来ていた宗介とすれ違った。
「僕A。」
すれ違いざま宗介が言った。
「Bだった」
「そう。残念。」
恋は、白いチョークでBの下に新田と書いた。
「あ、新田さん、僕もB。」
後ろからやってきた美風の顔がぱっと明るくなった。
「上野は……Aか。良かった。よろしくね。」
「よろしく」
恋は、美風に笑いかけると、くじを教卓の箱に戻して席についた。
────2────
社会のグループは調べものをする口実で学校のどの箇所にも移動できた。
グループごとに好きな場所に行ってレポートを始められるので、恋達のグループは屋上に行くことになった。
「嬉しい、新田さんと同じグループで。今日はラッキー。くじを引いた時にはこうなるって思わなかった。」
「ありがとう、樋山くん。理央はDで、明日香はEだったんだ」
「社会の時間伸びてくんないかな。こういうグループだったら大歓迎。上野も居ないし。新田さんと2人で居られる。最後の発表もやる気出てくるな。」
「宗介はAだった。離れちゃったんだ。代わりに樋山くんが居てくれたけど。」
────3────
ドアノブをカチャリ、と回すと、がらんとした屋上は快晴で、青空が爽やかだった。
クラスメートたちには真面目に授業をする気が少しもなかった。
「先生居ないね。好きな事できる。じゃあ、各自、テーマを決めるため、ちょっと自由行動しようか。なんてったって屋上だし。」
「良いね。」
「賛成。」
────4────
恋と美風は屋上の縁まで来て、二人で街並みを眺めた。
学校のグラウンドの向こうに民家の並び、その向こうに小さく人が歩いている商店街が見える。
「新田さんと上野が付き合いだして約半年経つ。僕が悔しかった期間を数えてるんだ。覚えてる?僕が告白した時のこと。」
ふと美風が聞いた。
「え、えーっと」
「覚えてないんでしょう。あんまりぼけっとしてたら、君のこと嫌いになるってあの時言ったよ。天然。君は相変わらずぼけっとしてる。」
それから聞いた。
「ねえ、新田さん、上野の何が好き?」
「何がっていうか……」
「幼なじみ。二人は。それでしょう?。まったく腹ただしい。」
美風は塀を背中に寄りかかった。
「小さい頃からの知り合い、幼なじみっていうブランドの分だけ、僕が不利だ。いつも間に入る余地を探してる。そういう関係性ってそんなに大事だと思う?」
「いや……」
「ちゃんと考えて。子供だよ、そういうのに拘るの。君はどれだけ大切にされるかとか、どれだけ自分にとって有利かだけで考えた方が良い。もちろん、どれだけ真剣に想われてるかも含めてね。」
美風はそこで言葉を切った。
二人が無言になると、Bグループの残りの生徒達の話し声だけ風に乗って響いて聞こえた。
恋の目をまっすぐ見つめて、美風は口を開いた。
「なんで僕じゃないの?」
「……。」
「僕は上野なんかより新田さんを大事にしてあげられるし、大事に思ってるよ。いつも新田さんのことだけ考えてる。言われたいこと言ってあげるし、されたいことしてあげるよ。」
「樋山くん……」
「約束するよ。どうして僕じゃないの?。言って、僕だって。」
困り顔をした恋から目を逸らすと、美風はあっさり声の調子を変えた。
「ねえ、新田さん、今度、ショッピングモールに内緒でデートに行こうよ」
「えっ」
「二人で。お洒落して。考えなかった?。試しに僕と付き合ってみてくれても良いでしょう?。」
「それは……」
『行ったらどうなるか分かってる?。』
恋の頭の中に、宗介の顔が現れて、大きくなった。
頭を抱えた恋が言い淀んで居ると、美風は屋上の床を見つめた。
ため息をつく。
「お試し位良いでしょう?。……君と上野が付き合い出したって聞いて、僕、ちょっと泣いた。」
「!亅
恋は驚いた顔で美風を見た。
宗介は滅多な事では泣かなかった。
恋は、美風が泣くところが、一瞬、なぜか想像出来る様な気がした。
黙っていた美風は口を開いて重々しく言った。
「デートしてくれなきゃ、また僕は泣くことになる。」
「……」
「新田さん、試しにでいいから、お願い。僕と付き合ってよ。」
冷たい風が髪をさらって、青空へ戻っていった。
────5────
「恋。」
帰りのホームルーム後。
宗介は、自分に気づかない恋を訝って、もう一度声を大きくして恋、と呼んだ。
「あ、宗介」
「なにぼけっとしてんだよ。時間割書いたら帰るぞ。早く書きな。持ち物も端折らない様に。」
「分かった。」
宗介と恋は、鞄を背負って階段を降りて昇降口へ向かった。
「昨日、恋が言ってた昔の写真を見てみたけど、お前は全っ然変わんないよな。見た目も中身も。成長できないんだ。」
靴入れから靴を降ろしながら、宗介が言った。
「大人になっても変わるなよ。うちには僕とお前の写真ばっか。特に幼稚舎の頃の。なんであんなに撮ってあるのかって位沢山あるよ。アルバムに入り切らないでダンボールに入ってる。」
「ふーん」
宗介は笑った。
「幼稚舎の頃お前が僕の頬にたまたまキスしてる写真があって、別にして置いたんだ。見せてやるから今度来な。可愛いよ。お前も多分気に入るよ。」
「ふーん。」
「また家に来た時お前の写真を撮ろうと思って。思い出が増えるのは楽しみになる。お前の写真大事にするよ。カメラ自分の持ってるから、何枚でも撮れる。そのつもりで居なね。」
「分かった。」
宗介が言った。
「写真いつまでも残るし、本当、僕達はずっと一緒だね。」
宗介は靴をつっかけながら、しゃがんで黙って靴を履いている恋の頭を、愛おしげにぽんぽん、と撫でた。
────6────
隣町の大型ショッピングモール。
昨日、店まで別々でなら、と言うと、美風は二つ返事で承知した。
今日恋は、美風とフードコートで2人で食事をする事になっていた。
手持ち無沙汰に、ロビーのベンチに座ると、入口のガラスに白いシャツを着た自分の姿が映っている。
間もなくして美風がやって来た。
美風は白いTシャツに白いパーカーを羽織っていて、歩いてくるところは雑誌モデルか何かの様に見えた。
ベンチの恋の姿を見ると美風は大股で歩いて来て、ロビーの小さなテーブルに屈んでにこっと笑った。
「新田さん、今日は何見ようか。」
美風が言った。
「一緒に洋服を見ても良いね。買ってあげるよ。親がフィアンセになら買っていいって言ってるんだ。お小遣いもカードも持ってきてる。何でも買うよ。」
「ええ、いいよ」
「遠慮しないで。僕が買ってあげられるのが嬉しい。新田さんに僕好みの服を着せられるのもね。甘めでもコンサバ系でも似合うな。新田さん、どんな服が好き?。」
二人はエスカレーターに乗って二階の洋服屋の並びに行った。
「ここ、広くて涼しくて、僕は好き。」
通行人の多い賑やかな店の並びを歩きながら、美風が言った。
「新田さんに意地悪言おう。上野と来たことがあるんだってね?。このショッピングモール。」
「うーん、たまに来るよ」
恋は繋いだ手をきまり悪そうにしながら言った。
「ここ、西中生徒のデートスポットだし。」
「確かにね。見るもの何でも揃ってる。映画館もあるし。喫茶店も雑貨屋もフードコートも入ってる。新田さん、上野と映画見たりする?」
「時々」
「サプライズに、今日は映画でも見ようか。」
美風が言った。
「同じものを見るって、カップルの基本だよ。僕最新の映画情報調べて来てる。やってるのチェックしてきたよ。」
────7────
恋と美風はエスカレーターに乗って最上階のシアターに向かった。
頭上に大きな広告が飾ってあるシアターは、人がほとんど居なくて静かだった。
チケットを買って中に入ると、館内は薄暗く、青いカーペットの上に赤いふかふかの椅子が並んでいる。
感動もののストーリーの映画のラストに恋が涙すると、美風はくすくす笑って隣から屈んで恋の額にキスした。
映画が終わって、美風のハンカチを借りて涙を拭いながら、恋と美風はシアターを出た。
────8────
フードコートは混んでいた。
見回すとぽつぽつと恋達の様な学生のカップルが居て、何やら熱心に話し込んでいる。
「もし君が僕より上野が良いって言ったらどうするか、考えてきてる。」
注文したベーコンとレタスのバーガーを食べながら、美風が言った。
「君が僕って言うまで一生離れない。それが僕の作戦。どう?」
「困るよ……」
「新田さんは上野を選ぶなら困るべきだよ。いつまでも両手に花なんかさせない。時々、」
美風は言葉を切った。
「新田さんの事を思いっきりひっ叩く想像をする。新田さんは上野に泣きつくんだけど、上野も打つんだよね、その中では君のこと。ダブルビンタっていうんだって。」
「……。」
「暴力。嘘でしょって言いなよ。嘘だから。」
ぞわんとした恋に美風がさっくり言った。
「恋人を打つ想像なんか絶対しないよ。好意の強調。言っただけ。」
「だよねえ。」
「たまに本当に引っ叩いてやりたくなるけどね。」
「……」
「嘘だよ。何で怖がってんの。好意の強調だって言ってるでしょ。そういう強調の仕方なだけ。」
美風は心底呆れたという顔をした。
「あのさ、恋人を打つわけないよ。てのひらの上で、守ってやって、温めたい。僕はいつも君をそうだよ。なんなら今後絶対打たないって約束する。」
「……」
「上野はペチペチよくキミのこと打つけど僕は打たない。女の子を打つなんて余っ程の事がなければありえないよ。……どうして上野なのかなっていつも考える。僕は絶対幼なじみだからっていうのに行き着くんだけど、幼なじみって変わらないし。あーあ。」
美風は、手を伸ばしてひょい、とトレーの上の恋の分のナゲットを掴むと口に入れた。
「味見。」
そう言って美風は笑った。恋も釣られて笑った。
「今日は楽しかった。新田さんもつまらなくはなかったでしょう?。」
「うん。」
と、その時。
恋と美風の後ろで、どこからかパシャリ、と小さな音がした。
恋は音に気付いて振り返ったが、後ろにはただ静かなフードコートが広がっているだけだった。
────気のせいかな?。
「新田さん、早く上野と別れて付き合ってよね。僕と。」
ニコ、と微笑んだ美風に恋はたじたじで、しどろもどろに今日はありがとうを言った。
────9────
翌朝。
制服を着て恋が学校に行くと、昇降口の掲示板に人だかりができていた。
宗介に新聞部には関わらないように言われているので、恋がそのまま掲示板を通り過ぎようとした時だった。
人だかりから理央と明日香が出て来て、恋の袖を掴んだ。
「恋!」
「理央。明日香。どうしたの?」
理央は黙って掲示板を指した。
掲示板にはいつもの壁新聞の他に、一回り小さいサイズの新聞が貼ってあった。
その新聞を見て恋は世界がひっくり返るほど驚いた。
『号外』と書かれたその新聞には、フードコートで喋る恋と美風の写真が引き伸ばされて貼られていたのだ。
新聞に文字はなく、ただ激写、と強調するポップがあった。
「恋、駄目だよ。二股は。」
明日香が真剣な顔で言った。
「揺れてるのは知ってたけど、二人きりで行っちゃったの?」
理央が聞いた。
「……。」
「あちゃあだね。上野くん怒るよ。上野くんのいつもからすると、恋今日ゲンコツだよ。」
「あんまりだよ恋、あんなに人気のある上野くんと付き合っておいて。この人でなし。」
「樋山くんも大人気だしね。これは女子にバッシングだなあ。気を付けなきゃ駄目だよ。どうすんの。」
「恋、ちゃんと言いなよ、間違いなら間違いだって。私は恋を信じてるからあれだけどさ、女子達うるさいよ、ズルだって。」
恋は呆然として、生徒たちにひそひそ囁かれる中、立ちすくんでいた。
と、その囁きが一段と大きくなったと思っていたら、後ろから宗介が現れた。
「恋。」
────10────
周りの生徒たちが2人を囲んでざわつくなか、宗介は首を傾げた。
笑顔で首を傾げるのは、宗介の怒っている時よくする癖だ。
「この写真なあに?」
「えっと……。」
冷や汗をかいた恋が言い淀んでいると、宗介は無言で、恋の顔にかかった髪を片手で軽く耳にかけた。
恋は目を瞑った。
こうなるよなと思ったらやっぱりだった。
宗介は髪を避けた方の恋のほっぺたを、手をあげてパッチーンと音を立てて叩き、だらりとなった恋の胸ぐらを掴んだ。
「よくも浮気したね。」
宗介は言った。
「この代償は払ってもらう。学校ですっぱ抜かれて笑い者にされて。僕の信用を裏切って。両手に花?。ふざけんなよ。」
宗介は忌々しげに恋の胸ぐらを離すと、呟いた。
「僕に何。ほんと。ほんっと最低。僕はこんなに恋を大事にしてるのに。一体何のつもりだよ?」
「ごめ……」
「謝るのもむかつく。ほんと腹立つ。大体お前は勝手だよな。人の気持ち踏みにじってへらへらして。やって良いことと悪いことがあんだよ。分かる?。考えたら分かるだろ。ビンタ1で許されると思ったら大間違い。帰ったら痛いゲンコと説教。ゲンコからだからね。」
恋が呆然としていると、宗介が微かに表情を変えた。
宗介は恋に浮気をさせない自信があった。
「どうしてやった?」
「……。」
宗介がハア、と短くため息をついた。