【長】幼なじみは狐の子。
夢主設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝のホームルーム前、恋と理央は昇降口の掲示板の前に立っていた。
掲示板にはでかでかと、この間の体育祭の様子を報じる新聞が貼られていた。
2ページ目の新聞の、一番大きく引き延ばされた写真には、二人三脚の時の苛立ちを隠せない宗介と美風の顔が綺麗に写っている。
『西中新聞部報道』
晴天。体育祭。中学校生活の最高の思い出。
青春には、いつでも甘酸っぱい1ページがある。
今回、西中新聞部は、1年の二人三脚のイケメンペアに密着取材した。
上野宗介(右)と樋山美風(左)。
うーん、このルックス、匂い立つほどクール!。
聞く所よるとこの二人、女の子を取り合ってるんだとか。
新田恋(下)、結構かわいい女の子。
新聞部はこの問題を放っておけない。
新田さんについて、新聞部は彼氏(上野くん)に突撃取材した。
Q.いつから付き合ってるんですか?
A.やめてください。
Q.初恋ですか?
A.はい。でも関係ないでしょう。
Q.知り合ったきっかけは?
A.幼馴染で、生まれたときから知ってます。だから?。
うーん、ガードが硬い。埒が明かない。
樋山くんにも聞いてみたがしかし。
Q.片思いしてるんですか?
A.関係ないですよ。(ちょっと考えて)両思いです。
Q.新田さんの彼氏は上野くんだと言うけど上野くんに対しては?
A.嫌いです。別に。他に言う事はない。
Q.あなたはこの三角関係に勝算はある?
A.だから(迷惑そうに)やめてくださいって言ってるでしょう。聞いてどうするんですか、人の事茶化して。もう帰りますんで。
どっちもどっちでかたーいガード。
このままではいけない、と筆者は二人を知る人に緊急取材を行った。
取材相手はR.Kさん。小等部から二人を見てきたという。Rさんは快く取材に応じてくれた。
Q.二人(上野くんと樋山くん)は仲が悪いの?
A.はい、とっても。なんでかっていうと三角関係だからだけど。私的には、そんなに嫌い合う事ないと思うな。
Q.二人は新田さんの事をどう呼んでる?
A.上野くんが呼び捨てで、樋山くんはさん付けですよ。
Q.二人(上野くんと新田さん)の馴れ初めについて知ってる?
A.ああ、(笑顔で)2人は幼なじみなんですよ。学校も一緒に来るし、いつも一緒に居ますよ。
Q.この三角関係はどうなると思う?
A.(考えて)分かんないけど、永遠に続きそう。上野くんは恋以外見えてないし、樋山くんはぞっこんだし。恋(新田さん)がふらついたら、あんなに一途な上野くんが可哀想だと思うな。あっでも樋山くんも応援してます。
Q.そういえば二人三脚してたけど、その時の様子は?
A.(笑いながら)ついでですね。ノーコメント。あの2人仲悪いので言えない。分かんないです。
────1────
「恋!」
声がして振り向くと宗介が居た。
怒り半分呆れ半分、といった表情で、宗介も新聞を眺めている。
「あの人達、二人三脚の報道してないよ。」
恋が言った。
「だね。きっと三角関係が面白いんだ。ネタにされたね。」
「されたねで済むかよ。はああ?。何だよこれ。」
理央の言葉に宗介が言うと、教室の戸を開けて中から美風が出てきた。
新聞を見ている3人の近くまで来てから、美風は一面記事に貼られた自分の写真に気づいて眉をひそめた。
「何だよ、これ。」
「こんな風にされるなんて思わなかった。」
宗介が呟くと後ろから声がした。
「西中新聞部の一面記事、楽しんで貰えてるかしら?」
振り向くと伊鞠がポーズを取って立っていた。
隣に居た桂香が、カメラを取り出して、壁新聞の前に居る恋にすかさずぱちんとシャッターを切った。
「……自分の写真を見る三角関係の頂点」
桂香が無表情で呟いた。
「気分はどう?」
「最悪ですよ」
伊鞠に向かって宗介が怒り笑いで言った。
「ほんっと。三角関係の報道って、あんたら何考えてんですか。馬鹿なんですか。そもそもこういう新聞は学校で禁止すべきだろ。」
「私達はね」
伊鞠が言葉を切った。
「注目される記事を書きたいのよ。それには美男美女のゴシップが一番。」
「最低」
さっきから記事を目で追っていた美風が言った。
「ほとんど僕と新田さんと上野の事しか書かれてない。これじゃあ僕達、学校中の晒し者じゃないか」
「スターと捉えなさい」
伊鞠が言った。
「私達西中新聞部は決めた!。今年はこの三角関係を狙うと!。応援して頂戴」
廊下を行く生徒がポーズ取った伊鞠にぎょっとして身を引いたが、数名の物好きな生徒達は立ち止まって伊鞠に拍手した。
「するかよばかたれ。」
宗介が怒り笑いで言った。
「僕の事はどうでもいいけど、加納先輩も石巻先輩も、新田さんに今後近づかないでくださいよ。先輩方怪しすぎるんで。普通の人じゃない。」
記事を一通り読んだ美風が言った。
「当たり前。胡乱な新聞部の先輩達に、僕の恋をネタにされてたまるか。迷惑だ。」
「僕の恋って言った!。ネタ発見!」
パアァと顔を輝かせてガッツポーズした伊鞠にイラッとした表情の宗介。
伊鞠と桂香が拝むポーズをして頼み込んだ。
「お願いお願いこの記事一番人気なのよう」
「僕はどうだっていいけど。笑いものになるのはごめんだ。さて。ちょっとこの新聞剥がしますね。」
美風がさっそく掲示板の画鋲を抜きながら言った。
「……辞めて」
桂香が呟いてから美風を止めると見せかけてまた、美風に向かってただシャッターを切った。
────2────
恋は言い争いをしている宗介達を置いて、昇降口を抜けて教室へ入った。
恋が見ていると、先に教室に戻っていた理央は、自分の席でイラストの印刷されたプリントの様な物を見ていた。
「理央」
「うわっ」
後ろからそっと近づいていって声をかけると、理央は驚いて声をあげた。
「なんだ、恋か。びっくりした」
「新聞部の先輩達もう帰ったよ。何見てるの?」
恋が聞くと、理央は机の上の沢山のカラフルな部活動のビラを指差した。
「壁新聞の下にあったんだ。中学校生活、暇だし何かしようかなと思って。どうせだから部活入ろうと思ってるんだ。」
「へえ。」
恋は、理央に釣られて、机の上の『来たれ!卓球部。君の入部を待っている』という写真付きのビラと、『華道部で美しい花を愛でよう』というイラスト付きのビラを見た。
「一つ一つ見てみると沢山種類があるよ。どの部活も結構忙しいみたい。放課後使うんなら好きな事したいから、今慎重によってるところなんだ。」
「ふーん」
数人の生徒が廊下をすれ違っていく。
恋は、華道部の下の、『吹奏楽部で音楽に触れよう』や、『スポーツしよう!テニス部』のビラを見ながら、部活動のことを考えた。
理央がビラを撫でながら言った。
「サッカー部はいつも盛況。バスケ部とサッカー部はかっこいい男子が多いイメージがない?」
「分かる。」
「運動部のマネージャーをやってみたい気もするけど、中学ではないし、大変そうだから、それは諦めたんだ。」
「そうなんだ。」
恋が頷くと、理央は机の上の沢山のビラを重ねて並べ直した。
「樋山くんは写真部に入るのかな。上野くんはサッカー部ってイメージだけど、小等部のサッカークラブには入ってなかったよね?」
「多分」
「明日香は中学でも陸上部に入るって。私は手芸部に入ろうかと思ってるんだ。恋、恋も私と一緒に手芸部に入らない?」
「部活に?」
「中学校生活の思い出。恋も何かやった方が絶対良いよ。」
理央は沢山の重なったビラの角を撫でながら笑った。
────3────
学校から帰って、宗介の家に行った恋は、リビングのテーブルの上に、理央が取ってくれた部活動のビラを取り出して眺めた。
今日貰って来ていないビラは、入る部活が今日決まらなければ、また明日加えて貰って来るつもりだった。
「部活か。学校の募集だね。恋、何かやりたいものでもあるの?」
ダイニングからお盆にアイスカフェオレのコップを2つ乗せて持ってきた宗介は、ビラを前にソファに深く座った。
「うーん、そういう訳でもないんだけど。」
「部活は時間を使うよ。上下関係もあるし、結構大変だよ。顧問の先生との相性もあるし。放課後使うの勿体ないよ。」
宗介は剣道部のビラを手に取って眺めながら、アイスカフェオレを一口飲む。
「みんなが宗介はサッカー部に入ってそうって言うけど、入らないの?」
「いや。僕は忙しいから。勉強あるし時間取られたくないし。だから中等部でも部活には入らないよ。面倒だしね。」
「ふーん。」
恋は持って帰ったビラを物珍し気に見た。
『卓球部で高みを目指そう』の後ろに、『写真部、校内新聞を盛り上げます』のビラ。
恋の通っている中等部は部活動の種類が多く、今日持って帰っている以外にも沢山部活があるはずだった。
恋は、ふと、『茶道部。一緒にお菓子を食べませんか?』という小さなビラに目を留めた。
茶道部のビラには、恋の好きないつも食べるお菓子や、和菓子の写真と一緒に、抹茶の写真が印刷されていた。
「お菓子の持ち込み歓迎……ゆったり和室……学年ごとの指導です。」
「学年ごと?。珍しいね。どれ?。」
恋が読み上げると、宗介が隣からビラを覗き込んだ。
「着物貸し出し……放課後おやつタイム。ふーん、変わった部活だな。面白そう。」
「宗介、茶道ってやった事ある?」
「そういや大昔に親に連れて行かれた教室で、一時抹茶飲まされてた。行儀とか精神修養に良いんだって。先生がこの近くにまだ住んでるはずだよ。あんまり覚えてないけど。」
「みんなでお喋りおやつタイムだって。良いなあこの部活。」
「入るの?」
宗介は恋を胡散臭気に見た。
「一回入ったら辞められないんだぞ。始めたら義務も責任も出てくるんだから。部員として活動するってそういう事だよ。そういうの全部分かってるの?。」
「分かってるよ」
「学年ごとに分かれてるのはいいけど、なんか嘘くさくないか?。おやつを食べるだけの部活なんてあるのかな。和服着るのは良いけど、本当は何をする部活なんだろう。」
「疑いすぎだよ、宗介」
「ふーん、じゃあ入るのね、そう。」
宗介はアイスカフェオレを一口飲んでから言った。あっさりと。
「決めた。僕も入ろ。」
「えっ宗介部活やるの?」
恋が驚いて聞き返した。
「お前が入るなら僕も入る。恋人同士。思い出になって良いから。入るんだろ?。」
「そうなの?。やったあ、理央は手芸部だし明日香は陸上部だから、1人で行かなきゃいけないかと思ってたんだ。」
「まったく。始めたら辞めない事。まずはお試しの入部だけど。恋、先生に丁寧に居ろよ。先輩方にも失礼ない様にね。」
恋と宗介は、アイスカフェオレを手に、それからまた部活の話を少しした。
────4────
朝のホームルーム前、恋と宗介は職員室の前に居た。
たまたま居合わせた当直の先生に仮入部の申し込み用紙を貰って、元来た通りまた階段を登る。
教室に戻ると、美風と理央が恋に気付いて声をかけてきた。
「恋!」
「新田さん、どこ行ってたの?」
「職員室。ちょっと用事があって。」
恋は応えると、机に仮入部の申し込み用紙を出した。
白い紙には部活動を書く欄と、氏名を書く欄があって、部活動を書く欄は四角で囲んであった。
「新田さん、部活入るんだ。何部?どこの部活?。僕も入れる?」
申し込み用紙を覗き込んだ美風が聞いた。
「茶道部だよ。和菓子食べ放題なんだって。樋山くんは写真部でしょう?」
美風はちょっと微妙な顔をした。
「いや、僕は今帰宅部。写真は1人でやった方が気楽だから、部活には入らない事にしたんだ。結構面倒くさいしね。」
美風が言った。
「もちろん時々顔出すけど。家でもできるし。校内新聞見て嫌になった。新聞部と合同だし学校の雑用だよ。写真本来の芸術性なんてない。」
「そうなの?」
「うん。新田さんが茶道部なら、決めた。よし、僕も茶道部に入ろ。そうしよう。」
「うざ。」
後ろの方の席から、宗介があからさまに不満げな声を出した。
「樋山は来んなよ。邪魔。僕と恋のデートの部活なんだぞ。お前は余計。」
「嫌だ。どこの部活に入ろうが僕の勝手だ。僕は部活を自由に決めていい権利がある。僕は新田さんの居る部活に入る。もう決めた。」
「面倒くさ……恋、やっぱり部活入るのやめようぜ。樋山が邪魔でお茶なんか飲めねーよ。なんで呼んでもいないのに。」
「え、困るよ、もう書いたのに。」
「ちょっと待ってて。申し込み用紙、僕も貰ってくる。すぐ書くから。」
美風が急いで席を立って教室を出ていくと、そのすぐ後に宗介が恋の席にやって来た。
「あーあ、うざった。樋山、あいつ絶対邪魔しに来るぞ。面倒くさ。」
苦い顔で宗介が言った。
理央が聞いた。
「恋、恋のママ恋に甘いでしょう、部活なんて言ってた?」
「うちのママはお菓子食べれていいわねえ、うちからもお持たせ持っていきなさいだって。喜んでたよ。」
「お前んとこのおばさんはお前がやるものなら何でも歓迎なんだから、簡単で良いね。僕は着物を買った方が良いのか家にあるので良いのか聞いて来いって言われた。部活まで恋人に合わせるのかって、笑ってたよ。」
「ふーん、家によってやっぱ言う事違うね。」
理央が言った。
「私んとこも、頑張んなさいって言われた。ビーズ作り、前から好きだったから。ねえ恋、考え直さない?。やっぱり一緒に手芸部に入ろうよ。」
美風が申し込み用紙を持って教室に入って来た所で、チャイムが鳴った。
────5────
そして待ちに待った仮入部初日。
宗介は一階にある男子更衣室で濃紺の着物と袴に着替えて、部活動をする茶室へ向かった。
戸を開けて入って行くと茶室となる和室には、先に来た美風が一人で座っていた。
ベージュの着物に袴を履いた美風は宗介が来たのを見ると舌打ちした。
「何だよ。」
「別に。」
「うざ。」
宗介は毒づいて、美風の居ない方の畳に座った。
「上野」
美風が呼んだ。
「何」
「新田さんと別れろよ。お前たち釣り合わないんだよ。待ってんだよね、こっちは。いい加減。」
「嫌だね。」
宗介が言った。
「一生恋を大事にして結婚するんだ。僕たちは。樋山の出る幕はない。お前はただの邪魔者なんだよ。」
美風はしかしシカトして聞いた。
「早く別れろ。お前たちいつなら別れる?。新田さんを諦めたら誰か紹介してやるのに。好きなタイプの子見つけてやるよ。」
「別れねーよ。しつこい。紹介超要らねーんだよ。恋に一生一途、僕は。」
「僕の新田さんに近づかれて、本当に鬱陶しい。邪魔。茶道は僕の見せ場だ。部活だって来なきゃ良いのに。」
「こっちのセリフ。迷惑。お前が僕達のデートにくっついて来たんだろ。」
「僕は新田さんが好きなんだ。」
きっぱりとそう言った美風に、宗介は不機嫌な顔で黙った。
2人だけの空間には、殺伐とした空気の他に、仲の悪い2人が2人きりで居ることによるちょっと不思議な気配が漂っている。
美風が呟いた。
「新田さんは何でこんな奴が良いんだろう。確かに顔が良いのは認めるけど、それだけじゃんか。」
宗介はイラッと来て思わず引きつり笑いを浮かべた。
同じ事を思っていたのだ。
────6────
お点前はゆっくりと始まった。
顧問の先生は外から通ってくる免状のあるお婆さんで、こちらも上品な着物を着ていた。
お作法通り、お茶を点ててから順番通りお菓子を頂く。
昔お茶を習った事があるという宗介と美風は行儀良く、慣れた動作の様に優雅にお茶を点てた。
恋達が部活動をしていると、開いた戸の向こうの方から、茶色い髪のポニーテールとおかっぱ頭のメガネ、新聞部の伊鞠と桂香が歩いてやってくるのが見えた。
同時に宗介がかなり苛立った笑顔をして、美風がお皿の和菓子をしらけた目で見つめたので、顧問の先生は2人を不思議そうに見た。
「いらっしゃい」
先生に迎えられて、伊鞠と桂香は、新聞部の挨拶をしてから、和室にあがって、宗介と美風と恋にシャッターを切り始めた。
他の生徒たちも居るのに、カメラを向けられたのはなぜか宗介と美風と恋だけだった。
「いい加減にしてください」
「左に同じ」
宗介が伊鞠たちを睨み、美風が冷めた目で言った。
「あら、心外。新聞部は仮入部の報道もするのよ。」
伊鞠が済まして言った。
「この間みたいに、おかしな使い方しないでください。ほんっと腹立つ。迷惑なんですよ。先輩方失礼ですよ。」
「僕の写真使って、変なこと書かないでもらえません?。不快です。いつもいつも片思い呼ばわりして。」
「ちょっと新田さんに絡むだけよ。」
「困ります。そのちょっとが嫌なんですよ。恋、言え。」
「迷惑というか……」
「ところで新田さん。」
伊鞠がいきなり話を変えた。
「時にこの2人の袴姿をどう思って?」
「……シャッターチャンス」
桂香がぼそりと言った。
「どうって……」
「こ・れ・は写真入りの記事にするしかないのよ!。ええ、絶対にそうしますとも!。体育祭の時みたいに引き伸ばして、一面記事の真ん中に貼るしかないわね。」
「いや……」
テンションの高い伊鞠についていけない恋は、ただ一応愛想笑いをした。
「質問を変えるわ。」
伊鞠が言った。
「新田さん、あなた、この三角関係でずばり今後浮気の予定はおあり?」
「そこまで。」
恋が応える前に、宗介が立ち上がって恋を庇うように恋の前に出た。
「恋に絡まないでくださいって前にも言ったでしょう。迷惑なんだよ。正直言って目障りなんですよ。先輩方。」
「僕からも。」
美風が言った。
「新聞部でなぶりものにされて、教室まで僕達を見に来る奴居るんですよ。どうしてくれるんですか?。迷惑ですよ。」
「迷惑?あらあら。」
伊鞠が言った。
「スター冥利に尽きると思いなさいよ。」
「……和服アイドル」
桂香が恋を見てぼそりと言った。
伊鞠と桂香は帰らなかった。
2人はそれから取材と称して3人をつつき回したので、宗介と美風のイライラは続いた。
────7────
その日の夜、恋はたまたま遅くまで起きていた。
理央から借りた本が面白く、ベッドの上で、うつらうつらしながら、ついつい徹夜してしまったのだ。
翌朝眠い目を擦りながら制服に着替えた恋は、登校していつもの様に授業を受けた。
放課後部活動の時間になると、恋はまだ誰も居ない部室に入り、部屋の隅で壁に寄りかかって、あくびしてそれからゆっくりと静かに微睡んで瞼を閉じた。
────8────
放課後。
たまたま男子更衣室の着替えが一緒になった宗介と美風は、袴姿で小声で罵り合いながら部室へ向かった。
和室の戸が大きく開いて、着物姿の生徒達がバタバタしていたので、2人は部室の様子が普段とは違っている事にすぐに気付いた。
「どうかしたんですか?」
宗介がやってきた先生に聞くと、先生は困り顔で言った。
「部室でちょっとね。狐が出たんですよ。」
宗介と美風の表情が変わった。
宗介が平静を装って聞いた。
「その狐、どっちの方に行ったか分かりますか?」
「職員室の方に走って行ったけど……今先生方が捕まえようとしてますよ」
宗介と美風は袴のまま職員室へ急いだ。
────9────
職員室では、箒を持った先生が、学校に紛れ込んだ小狐を捕まえようとしていた。
慌ただしく戸を開けて職員室に入って来た袴姿の2人を見て、先生は目をぱちくり。
そしてその生徒が迷い込んだ小狐を睨みつけて、小声で何か囁いたので、先生はもっとびっくりした。
「待て待て今なんて言った?」
居合わせた教頭先生が、宗介に向かって聞いた。
「ああ、裏山に帰りな、って言ったんですよ。逃がしてきます。」
宗介は肩で小狐を抱き上げながら笑顔で言った。
────10────
本当は、宗介が言ったのは、どうするか見てな、という脅し文句だった。
小狐はバタバタと宗介の手の中で逃げようともがいたが、結局放して貰えなかった。
学校の裏山で狐から人に戻った恋は、すぐに袴姿の宗介から痛いげんこを一発と、美風から含蓄のあるお小言を沢山食らった。
「こら」
宗介が言った。
「人前で狐にならないよう気をつけろっていつも言ってるだろ!。もう、ほんとに。よりにもよって部室で眠って変身するなんて。ああ、心臓止まるかと思った。もうバレたのかとばっかり。」
「新田さん、ほんとに気を付けた方が良いよ。僕だからあれだけど、普通だったらこういう風にはいかないんだから。ああびっくりした。」
美風が言った。
「寝てる間に狐になることがあるなら、外出中は眠くならないようにしなきゃ。もう絶対、外では眠るなよ。新田さん、ちょっと油断しすぎだよ。僕に何か言う事は?。」
「わざとじゃないのに。」
恋は文句を言った。
「わざとかどうかは関係ない。当たり前だろ。もう一回言うよ、恋、お前は気をつけなきゃならないの。ほんとに狐なんだから。僕の心配を何で分からないんだよ。」
宗介は目を釣り上げて怒った。
「お前があやかし狐だってバレて、学校から追い出されたら?。テレビや雑誌に追い回される様になったら?。僕達の関係は破滅だぞ。頭悪い。それを何で分からないんだよ。」
「新田さん、人が狐に変身する確率、どれだけ珍しいか分かってる?。確かにこの地方はあやかしの人が多いけど、みんなひっそり生活してる。見せつけてる人なんて居ないよ。それを今日みたいにして。」
「樋山の言う通り。あやかしは怖がられるから、隠れていなきゃいけないの。もし存在を知られたらその土地から追い出されるのが普通だろ。お前んとこのおばさんだって滅多に狐にはなってない。それが何でだか分かる?。もしも僕から離れて暮らさなきゃいけなくなったら一生許さないから。」
「僕は狐好きだけど、狐自体を嫌がる人も居るし。学校で変身してもし変な生徒に捕まって保健所送りになったりしたらどうするんだよ。ちゃんと考えなよ。」
「裏山が近くにあるからごまかせる様なものの、もしこれがなかったら。ったく。考えなしなんだから。」
「新田さん、今日は誰にも変身するところを見られなかったんでしょう?」
美風が聞いた。
「多分……」
「良かった。じゃあ先生達はただ狐が出たと思ってるだけだな。わざわざ疑わないだろうし。まさか部室で眠り込んだ新田さんが狐に変身したとは思わない。本当に、次はないよ、新田さん。」
美風がため息をついた。
「とにかく。過失でも。次やったらただじゃ置かない。やったらげんこ、思い切り。痛いから覚えなね。お前は今後絶対、外で狐にはならない。約束。分かった?。」
「僕もそうする。これは協定。新田さん、いい?。分かった?。」
「返事。」
2人に睨まれた恋は、ぶーたれていたが、そうしないともっと怒られる事になるので、はい、と仕方なく返事した。
その時の事があったので、恋は、なんとなく気がひけて、それから後に部活動に入るのを辞めてしまった。
結局、恋は、帰宅部で、いつも家でうだうだしてばかり居た。