【長】幼なじみは狐の子。
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「今年の1年の競技は、ダンスと大縄跳びとリレーの徒競走障害物走、ならびに代表によるリレーと二人三脚です。」
体育祭、と大きく書かれた黒板の前、担任の錦戸先生が、イベント用に配られたファイルを見ながら読み上げていく。
恋は、窓際の席に座って天気の良い明るい窓の外を眺めていた。
2階の1年の教室の下にあるグラウンドには、今日も体育の授業を行う生徒達のジャージ姿が見えている。
緑色のジャージを着た生徒達が一箇所に集まって柔軟をする。
「中等部の体育祭の小等部の運動会との違いは、生徒数のおかげて赤白以外に青黄緑紫と6ブロックあること。えーうちのクラスは今年は白になりました。覚えやすいでしょう。」
恋は、窓際に小鳥が止まって鳴いたのを聞きながら小さくあくびをした。
「はちまきは自主保管。自分で洗濯して、なくさないように。これから配ります。ジャージもこまめに持って帰って洗濯すること。衛生面を考えましょう。」
先生は最後に言った。
「では、勝てとまでは言いませんが、志を高く持つように。全部楽しんでやるように。初めての体育祭、皆さん頑張っていきましょう。」
────1────
授業が終わった放課後、恋が帰り支度をしていると、鞄を背負った理央が、恋の机の前にやってきた。
「恋。」
「理央」
「体育祭の練習これから始まるね。あーあ、運動、面倒くさいなあ。」
理央は手に持った白いはちまきをひらひらさせた。
斜め前の席から、美風が振り返って口を開いた。
「体育祭とか文化祭って、青春って感じがする。本物は高校のだけど。 高等部の方は体育祭とか文化祭に力を入れてるらしいよ。もっと賑やかな大きいイベントになるんだって。新田さん、はちまきなくさないようにね。」
「樋山くん」
「樋山くんは運動神経凄く良いでしょう。私も良い方だけど、走らなきゃならないのは憂鬱。ねえ恋、恋一緒に徒競走走るフリして歩かない?」
「歩くのは……」
「恋!。」
後ろから鞄を背負ってやってきた宗介が、恋に呼びかけた。
「はちまき絶対なくすなよ。賭けてもいい位お前は物をなくすんだから。学校の備品、なくしたら怒られるに決まってるだろ。分かったら今日中にしまう場所を決めること。スクールバッグの中とか引き出しの中とか分かりやすい場所にして、僕に報告すること。」
「上野くん。」
理央が言った。
「上野くんも運動神経超良いけど、何かスポーツでも習ってたの?。上野くんも徒競走一緒に歩こうよ。」
「別に僕はなんにも。塾以外行ってなかったよ。別に習っても良かったけどね。駒井は面倒くさがんなよ。歩くなんて。」
「遊んでただけでそんな足早くなるかなあ。」
恋が不思議そうに首を傾げた。
「体質だろ。恋。話はそこじゃない。はちまきの事、言ったからね。ちゃんと分かったの?。」
「今年の体育祭、うちのクラスは白だって。紫とかの方がかっこよかったな。」
理央が言った。
美風が言った。
「なんでも良いよ。駒井の言うように、行事ってちょっと面倒くさいよね。盛り上がるのが義務みたいな気がして、一緒に盛り上がらないと除け者みたいな感じに思えたり。新田さん、体育祭に向けて、何か目標ある?」
「うーん、特には。」
「恋はあんまり行事にかまけない方がいいぞ。夢中になると他が疎かになる。良い?僕との約束、恋、僕と2人でする事以外に力を入れない。お前にはやらなきゃいけないことが沢山あるんだから。」
理央が言った。
「そういや上野くんも樋山くんも足めちゃめちゃ速いけど、2人ってどっちの方が早いんだっけ?」
「さあ。知らない。比べた事ない。」
宗介が答えて、続けて美風が宗介を見て面倒そうに首を傾げた。
小等部で五指に入るくらい足が早いのは宗介だったが、美風は前の学校の中で一番足が早く、2人は足の速さを競争した事がなかった。
「体育祭って、運動神経良い男子映えるよね。絶対かっこよく見えるもん」
理央が言った。
「恋は走ることよりは、転ばないように気をつけた方が良いよ。恋よく転ぶから。怪我しない方が良いよ。」
鞄を降ろしてはちまきをしまいながら理央は話を変えた。
「そうそう、誘おうと思ってた。恋、今日帰り一緒にメイク用品見ようよ。海側のドラッグストアで。」
4人は教室を出ると、まだ生徒達の居る廊下をがやがやと話しながら昇降口へ向かった。
────2────
放課後、帰り道にあるドラッグストア。
美人モデルの微笑む広告の下棚に並んでいるのは化粧品で、金色のケースに入った白い白粉や、黒いアイシャドウ、オレンジのチークなど。
制服姿の恋と理央はその一角に立ち止まって、試供品の品物を一つ一つてのひらにつけて試しながら話をした。
「恋は上野くんと付き合ってるけど、樋山くんの事はなんとも思ってないの?」
青色のマニキュアを眺めながら、理央が聞いた。
「うーん、思ってないっていうか……」
恋は言い淀んで、口をつぐんだ。
恋は美風の事を全然好きだったが、宗介と付き合い出してしまったので、行き掛かり上流れのままに居た。
美風のアピールは続いていたが、恋はどっちつかずで、はっきりした意思表示をしないまま居た。
「私は別に良いけど、そういうのって、いつか歪みが来るよ。」
今度は緑色のマニキュアのキャップを取りながら、理央が言った。
理央は昔からメイクに興味があって、色々なメイク小物やお洒落雑貨を沢山家に持っていた。
「友達だから言うけど、恋自身のために、早く絞った方がい良いと思うんだよね。三角関係。絶対。」
それから言った。
「そういえば上野くん、恋が隠れて樋山くんに靡くようなら言ってくれって私に言ったよ。」
「宗介が?」
「うん、なんかちょっと怖い顔して。心配なんだって。恋覚えない?。」
「……。」
「恋、愛されてるんだから、信頼を裏切っちゃ駄目だよ。裏切ったらあんなに恋を大好きな上野くんがかわいそうだよ。大事にされてるんだし。」
理央はそう言ってから、緑のマニキュアを戻し、赤い色のお試しのマニキュアのキャップを取って爪に塗った。
恋が見ている前で理央の丸い爪が、ラメ入りの鮮やかな赤色に染まっていく。
「高校生になったら、メイクの学校行くんだ。」
マニキュアを塗ったてのひらを上にかざして見ながら、理央が言った。
「その時までに練習を積んでおくの。ねえ、上野くんも樋山くんも、高校生になったらどんな風になるかな。」
「さあ。」
「きっとかっこいいよ。この色綺麗だね。」
恋は首を傾げて、理央がマニキュアの瓶を棚に戻すのを見ていた。
────3────
体育祭の練習は賑やかに始まった。
ジャージ姿に着替えた恋達1年生は、今日は体育祭の徒競走の練習をしていた。
ピピっと笛が鳴って、生徒達が走り出す。
「次は徒競走の演習です。順番は決められた通り、整列してください。今日は50メートルをついでに計測します。」
恋は、生徒達と一緒に、頭にはちまきを巻いて順番通りに並んだ。
笛が鳴って、まっすぐな白線の上を宗介が走り出す。
足の速い男子の典型的なフォームでスパートをかけた宗介は白線を組の1位でゴールした。
次は美風の番だった。
恋が見ていると、なるほど美風は走るのが得意と言っていただけあって速く、亜麻色の癖っ毛が靡くのはほんのちょっとの間だけだった。
恋の番になると恋は一生懸命普段のフォームで50メートルを走り、走り終えたところで立ち止まって息を整えた。
「集合。」
号令がかかり生徒達がバラバラにグラウンドに座る。
体育の先生はボールペンを手に計測表を見ながら口を開いた。
「さっきは言わなかったんですが、計測ついでに白チームの選抜代表を今日決めました。上から順番です。」
先生はまずリレーの代表の名字を読み上げた。
「男子、松下、城田、樋山、上野、山内、浅井、森永。女子、井口、上原、山井、清竹、林、内田、中川。アンカーを決めるように。」
「選ばれたね」
恋が隣に居た宗介に囁くと、宗介は澄まし顔で
「面倒。」
と一言言った。
「選ぶの今日なら、ちゃんと走らなかったのに。ああ、だる。面倒くさ。わざわざ走る代表なんかやりたくないのに。」
「そんな」
「それから代表の二人三脚のペアです。」
恋が言う前に先生は続けた。
「上位六名。男子、松下、城田ペア。樋山、上野ペア。山内、浅井ペア。」
宗介と美風がぎょっとして顔を上げた。
「はああ?」
「先生、ちょっと、待ってください。」
美風が手を挙げた。
「ペアは変更できますよね?。1チーム目と僕替えてください。お願いします。」
「速い順です。」
先生は言った。
「変更すると足並みが揃わなくなる。変更は不可です。」
「今日の順位でしょう?。先生、今日僕本気で走ってません。本当です。」
美風が粘ったが、先生は是と言わなかった。
「はああ?。僕にあいつと走れって?」
美風がショックを受けた顔で言った。
「虫唾。肩組みたくない。仲間ヅラされたくない。おぞましい。吐き気がする。本気で言ってんのかな。」
「失礼な奴だな。こっちの台詞。そのままそっくりお返しするよ。」
宗介が毒づいた。
「恋を挟んで色々あんだよ。ああ、面倒。決まり。樋山は体育祭来んなよね。」
「はあ?。そっちが。お前の方が来なければいい話だろ。腹立つな。」
「静かに。」
先生の言葉で宗介と美風が口を閉じて静かになる。
「決定事項です。代表者以外も、気を抜かないように。本気で走るように。怠けたら校庭一周。」
恋は面白いような困った様な気持ちで居た。
「以上。」
この体育祭どうなることやら。
────4────
体育祭の練習はいよいよ本格的になってきた。
授業を丸一日使った1年から3年までの合同練習がある日も、この頃は珍しくはなくなってきた。
朝早くからの合同練習の初日、リレーの予行練習の後、宗介と美風は嫌そうな顔でだるそうに二人三脚の列に並ぼうとしていた。
「足の紐を結んであげる。」
自分の出場種目が終わって、戻ってきていた恋が困り笑いで声を掛けた。
「2人とも足早いから。やっぱり多分学年で五指に入るってまた言われてるよ。」
「だるい。出たくない。何でこいつと。ほんっと腹立つ。」
宗介が言った。
「こっちのセリフ。何でこうなったかな。今まで生きてきた中で最悪の思い出だ。」
美風が暗い顔で言った。
「見に来る家族も、僕がこいつ大嫌いなの知ってる。みんな僕を気の毒に思ってる。」
「決まっちゃったんだからって言うけど、何で?。先生は横暴だ。変更不可って意味分かんない。」
宗介が言った。
「そういう融通は利かせるべきだ。相性悪い奴とペアな時点で、負け決定。この体育祭に超要らない。」
「僕体育の行事で負けた事ない。足の速さはピカいちなんだ。上野のせいで負けるんだからな。」
「はあ?」
「お前とペアになって、気分は最悪だ。迷惑。鬱になりそう。新田さんを手放すなら、大目に見てやってもいいけど。」
「ふざけんなよ。僕が恋を手放す訳ないだろ。そっちが恋を早く諦めろよ。」
「まあまあ」
理央がやってきて、笑顔で2人を宥めた。
「2人とも俊足だからだよ。ねえ知ってる?。上野くんと樋山くん、この学校きってのイケメンペアってみんなに言われてるよ。恋と一緒に、イケメンペアの三角関係って言われてる。」
「イケメンペアの三角関係?」
「顔の事で騒がれるの好きじゃない。みんな顔しか見てないんだから。ジロジロ見られるの嫌いだしね。」
美風がそう言ったところで、突然、後ろからパシャっとシャッター切る軽い音がした。
「ちょっと君たち!。」
恋達が目をパチクリしていると、後ろから茶髪のポニーテールの背の高い女の子と、黒髪のおかっぱでメガネをかけている女の子が現れた。
2人とも、メモ帳を片手に持ち、ジャージの上から胸にカメラを下げている。
「誰?」
「以降お見知り置きを。私が新聞部の
「……3年」
背の高い方が自己紹介すると、メガネの方がぼそっと呟いた。
「って事は先輩かあ。何か用ですか?」
いつでもフレンドリーな理央が聞き返すと、伊鞠は芝居がかった仕草で宗介と美風を指差した。
「その2人」
「?」
「この体育祭の新聞のメインよ。1年のルーキー二人三脚イケメンペア!」
伊鞠の剣幕に圧倒されていると、桂香がカメラを取って、いきなり2人にシャッターを切った。
「!?」
「ねえ上野くんに樋山くん。今年の体育祭の新聞のメインになる気持ちはどう?」
「はあ?」
宗介が眉をひそめた。
美風が言った。
「肖像権の侵害。僕はこいつと居る所を写真に撮られたくない。迷惑だ。」
「僕だって。僕のアルバムに樋山の顔が残るのは不快だ。そうして欲しくない。」
「義務よ。君たちの。」
伊鞠があっさり言った。
それからいきなりガバっと回転して伊鞠が恋の方を向いたので、ぎょっとした恋は驚きで一瞬体が固まった。
「時に。」
伊鞠が言った。
「時に……えっと、この子が恋さん?」
「ええ恋ですよ。新田恋、1年の。」
理央が言うと、伊鞠は嬉しそうな顔で恋の方を見た。
それから言った。
「新田さん。さっき小耳に挟んだけど、あなた1年のイケメンペアの三角関係の中心なんだって。あなたとこのイケメンたちの関係を深く深く教えて貰えるかな?。」
メモ帳とペンを手にハアハアと息遣いが荒い伊鞠を見て、宗介が言った。
「先輩。ちょっと、先輩達怪しいんで。恋に口聞かないでもらえますか。困るんで。」
「そうそう。変な人に新田さんに近づいて欲しくない。もし悪影響があったら大変だ。」
美風が言うと、伊鞠は鼻で笑った。
「変な人じゃないわよう。私達は新聞部のホープ。」
伊鞠は続けた。
「何が何でも取材させて貰いますからね!。」
伊鞠は声音を変えた。
「時に新田さん。あなたはこの二人、どっちの恋人?」
「僕」
宗介が応えた。
「あなたたちは三角関係だって言うけど、それは本当?。」
「不快。関係ない。学校の新聞に。」
美風が腹を立ててそう言い返すと、その顔を桂香がパシャリとカメラに収めた。
「……美しい」
桂香が呟いた。
「この綺麗な顔の二人の三角関係、絶対メインの特ダネになるわ!。」
伊鞠がそう叫んだ時、キーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
またまたどうなることやら。
────5────
夕方、学校から帰った恋は、宗介の家に遊びに来ていた。
連日の体育祭の練習で、恋はちょっと疲れていて、宗介にそんな弱音を言いたい気もする。
宗介がお盆にお茶とお菓子を乗せてキッチンから出て来た。
「今日も体育祭の練習、昨日も体育祭の練習。これじゃあ他の事をする時間がなくなっちゃうね」
恋はソファに寄りかかって言った。
「みんな燃えてるもんね、白組勝とうって。」
「僕はそんな事ない。どこが勝ったって構わないし、必要以上にやる気はない。面倒くさ。熱くなってる奴らに言ってやりたい、無益だって。」
宗介はお茶を一口飲むと口を開いた。
「新聞部の先輩。あれ、どうにかなんない?。特ダネ特ダネって、今日も教室来てた。本当に面倒くさい。」
「イケメンペアっていうのが、余っ程珍しいんだろうね。」
「恋はあいつらに構うなよ。聞かれても答えないこと。あの先輩たちがネタにしてるの、僕達に対して失礼だからな。ちゃんと分かれよ、そういう事。」
「うん、分かってるよ。」
恋の答えを聞きながら、宗介はふと、恋の半ズボンの膝に擦り傷があるのに目を留めた。
「あ、こら。」
宗介が言った。
「まーた怪我して。」
宗介は立ち上がってダイニングの棚から救急箱を出して来ると、蓋を開けて消毒液を出した。
「しみるから嫌だよ。」
「平気。」
宗介は自分の事のようにそう応えると、コットンに消毒液を含ませて傷口を拭いた。
「まったく。擦り傷なんて作ってこないの。馬鹿なんだから。」
傷口に絆創膏を貼りながら、宗介が言った。
「お前はいつも不注意なんだから。心配するだろ。気をつけないのが悪いの。まったく。怪我したら僕に悪いと思いなね。……ああ嫌だ嫌だ、ほんとに。体育祭、早く終わんないかな。」
ぽんぽん、と仕上げに叩かれた絆創膏の傷を見ながら、そうだね、と恋はなんとなく返事をした。
────6────
そしていよいよ体育祭当日。
恋達生徒は、朝早くに登校して更衣室でジャージに着替えてから、グラウンドに椅子出しをするため、一旦教室に戻った。
入場門の方には、先に椅子出しを終えていた男子達が集まっていた。
恋は、持って来た椅子をクラスごとの定位置に並べると、入場門へ向かった。
最初に全員整列しての選手宣誓があって、体育祭が始まった。
一番始めの競技はダンスで、入場門から入っていった1年はグラウンドに等間隔に並んで今日のために練習したダンスを披露した。
その次に徒競走があって、恋達は練習通り整列して50メートルを走った。
「ああ、面倒くさ」
観客席ではちまきをした美風が椅子に俯いて座って言った。
「僕は今日が早く来て欲しかったんだ。早ければ早いほどすぐ終わるから。かったるい。最初っからやる気なんてない。」
「今日晴れてよかったね」
立ち上がってこちらにやってきた理央が言った。
「もうすぐ樋山くんと上野くんが出るリレーだよ。応援するからね。」
「リレーは良いよ。走るだけだから。好きな方、走るのは。気分も上がるし。得意だしね。」
「問題は二人三脚。」
近くに座っていたはちまきを付けた宗介が暗い顔で言った。
「練習で何回もこけた。多分今日もそうなるな。何が悲しくてグラウンドで醜態さらして。樋山のせいで。あーあ。」
「うざ。上野のせいの間違いだろ。お前が遅いんだよ。僕の足を引っ張って。」
宗介と美風は足並みが揃わず二人の二人三脚は壊滅的と言われていた。
二人ともやる気がなく先生が叱ってはっぱをかけても、時々立ち止まって歩いたりしていた。
「その代わりリレーは。うちのクラスが絶対勝つって言われてるよ。」
理央が明るく言った。
「上野くんも樋山くんも頑張ってね。」
「リレーはね。」
宗介が言った。
「走るだけだから良い。まったく何が楽しくて。ああ、だる。この世から二人三脚を消したい。歩調を合わせる気なんか最初からないし。恋、僕の応援しなよ。」
恋ははちまきを巻き直しながら、うん、と頷いた。
ブロック対抗のリレーが始まると、観客は大いに沸いた。
宗介の走るのは恋のクラスの席の前だったので、恋は一番前に座って宗介の勇姿を見た。
走者が走ってきて宗介の番になると、バトンを受け取った宗介は勢いよく走り出した。
だんだん宗介が近づいてきて恋の目の前を走る時、恋は思わず立ち上がって応援した。
「宗介!」
「上野くんかっこいー!」
「かっこいー!惚れるー!」
「上野くん頑張れ!」
恋と女の子達の大きな声援の中、宗介はあっという間にスパートをかけて見えなくなり、一人抜かして、次の走者にバトンを渡した。
────7────
向こうの方を走る事になっていた美風の応援に回った後、恋は自分のクラスの席に戻ってきていた。
後ろから肩を叩かれて振り向くと新聞部の伊鞠と桂香が居たので、恋はぎょっとして身を引いた。
伊鞠と桂香はやはりカメラを持っていた。
今日は新聞部は大活躍で、部員たちは全員カメラを持ってグラウンドをうろうろしていた。
「さっきリレーが終わったわね。上野くんと樋山くん、リレーも代表だったでしょう。」
伊鞠がそう言ってから聞いた。
「特ダネ特ダネ。新田さん、あなたはずばりどっちを応援してる?」
「両方してますよ」
恋が困り顔で言った。
「……伊鞠、リレーより三角関係」
桂香が呟いた。
「その通り!。新田さん、あなたとあの1年のイケメン2名の交流を、写真を交えながら特集したいのよ。」
「困ります」
「あ」
リレーからクラスの席に戻ってきていた宗介が気づいて思い切り作り笑顔をした。
「先輩。何か用ですか?」
「その通り。」
伊鞠が口を開こうとする前に宗介が言った。
「僕達なら良いけど、恋に関する事だったら迷惑なんで。っていうか、3年のブロックに帰ってもらえません?。話す気ないし困るんで。」
きっぱり言って帰らせようとする宗介に、伊鞠も負けずに言い返す。
押し問答はしばらく続いた。
「そんな事より、もうすぐ二人三脚だけど。」
伊鞠が言った。
「勝算は?。勝つためにやっている事はある?。」
「特にないです。僕に絡まないでもらえませんか。僕達に。樋山に聞いたら?。」
宗介が怒り笑いをしてから、ハア、とため息をつくと、桂香が黙ってそんな宗介の写真をパシャリと一枚撮った。
────8────
果たして二人三脚。
宗介と美風は、リレーの勝利に沸いているクラスから抜けて、別々に二人三脚の列に並んだ。
順番が近づく前に足を結んで、その辺を軽く走る。
「ハア……」
並んで順番を待っている時、美風が盛大にため息をついた。
「うざ。」
宗介が言った。
「こっちのセリフだよ。まったく何が悲しくてお前なんかと。テンション下がる。鬱になる。」
「今日で終わるから良い。練習最悪だった。僕も生きてきた中で最低の思い出だ。お前相手によく頑張ったよ。」
「言っとく。新田さんは渡さない。お前と歩調合わせる気なんかない。二人三脚なんてくそくらえだ。体育祭なんてなければ良かったんだ。」
「恋はとっくの昔から僕の彼女で、恋人で、図々しいんだよ。いつもいつも恋に付きまとって。目障りだ。今日まで僕はよく我慢した。お前に。」
美風は聞こえる様に舌打ちした。
「ああうぜえ。新田さんの前でこけたくないから走るけど、足引っ張んなよ。お前の方が僕より遅いんだから。」
「遅いのはお前の方だろ。足はお前が引っ張るんだ。ああ嫌だ嫌だ。体育祭もううんざり。」
それから2人はむっつりした顔で黙った。
伊鞠と桂香がカメラ席に来て、二人の写真を連続して色んな角度から何枚も撮ったので、順番が来る頃2人の苛立ちはピークに達していた。
白線の後ろに下がって、二人の出番になると、二人は肩を組んだ。
「畜生」
「喋んなうぜえから」
ピストルが鳴ると、果たして二人は砂埃を蹴散らして猛スピードでグラウンドを駆け抜けた。