Young

(亜久津高校生設定。夢主は不良ぎみの中学生)


日本中に寒波がきて雪が降ったらしい。
私の地域には夜中ちらついただけでつもることなく、テレビの中で雪を見ただけだった。雪が降るくらいだから外にはとても居られないくらい寒い、それでも私達は外に出て集まる。

「ねぇ煙草あと何本ある?」

もう無い、私あるよ吸う?、それメンソールだからいらない、わがまま言うなよ!
寒空の下。寒い寒いと身を寄せ合いみんなでくだらない事に馬鹿みたいに笑った。ひそひそ話のような小さい声から突然大きい笑い声へ。私達の暇潰しの笑い声は空へと飛んでいった。
いつもコンビニの外で安いおでんだか、飲み物を割り勘で買って時間を潰している。大人たちは私達をチラリと見て冷たい目を向けるのだが、誰も注意はしないしどいてほしいとも言わない。「まだ若い女の子達なのに」。大人はみんなそう文句を言うものなんだと、私達は最初から拒絶していた。
帰る家も、遊びに行くお金もない。家に帰れば親はうるさいし、中学生なのだからバイトもできない。
皮肉にも時間だけはたっぷりある。誰か適当な男の先輩を捕まえて、カラオケにでも暖まりに行くのが最近の私達の過ごし方だった。

ねぇ、適当に先輩呼んでよ、そう1人が言い出しまた1人がスマホを取り出しその適当な先輩に電話をかけた。私はその一連の流れを見て紫煙を吐いた。
あぁ、アホみたい。親と仲がよければ、お金があれば。くだらない男の先輩なんかと絡まなくても済むのに。
煙草の煙なのか自分の息なのかわからない白い空気を吐き出し、私もまたスマホを取り出しラインを開いて適当な先輩を探すフリをした。

先輩だめだって、えーなんで?、なんか喧嘩で療養中だからだめらしいよ、何それ、なんかアクツって人と喧嘩したんだって。知ってるその人!この前〇〇君とも喧嘩してたもん。
友達が話すアクツや、〇〇君だのなんとか先輩だの、どうでもいい言葉を聞き流しながら適当な先輩を探す「フリ」作業をやめた。
最悪、どうする?今日解散する?
文句を言い騒ぐ彼女達に混ざって、私も適当な文句を垂れ流した。





「そういえばさぁ、私高校受かったわ」

もらった煙草に火をつけて、帰路を共にする彼女達に報告をした。山吹なんだけどと付け足して。
よくそんなとこ受かったね、頭だけはいいんだよ意外に。ケタケタわらう彼女達が楽しそうで私も口角をあげた。北風が吹く、風が冷たい、寒さでまた口角は下がる。

「それアクツがいるとこじゃん」

先輩が山吹までアクツに会いに行くって言ってた!
1人がそう騒ぎ出し、アクツってどんなん?見てみたいんだけど。イケメンだったらどうする?残りの彼女達も食い気味に話に参加した。
始まった、長いんだよこういう話は。近くの氷帝の子がイケメンだとか、隣の市の立海の子も負けてないだとか。女子ってどうしてこう男の話が好きなのか。私は自分自身も女子だという事を忘れ棚に上げ、盛り上がる彼女達を見ていた。

「私こっちのコンビニ寄って帰るわ、みんなおやすみ〜」

どうでもいい話を聞きたくなくて、別れを告げて先に彼女達と解散した。未だに氷帝だ立海だ青学だ、語り合う元気な彼女達の別れの挨拶は大声だった。ばいばーいおやすみー、夜の住宅街に響く高い声。ごめんね住民達、私は心の中で謝罪をして彼女達に手を振った。


彼女達が常に語ってる〇〇君やなんとか先輩だとかアクツとかよりも、私は気になる人がいるのだ。
背が高くて、銀髪のオールバック、気だるそうに歩きながら彼は21時くらいに、今から向かうコンビニにほぼ毎日のように煙草を買いに来る。そんな名前も知らない彼を一目見て好きになってしまったのだ。
最初に彼に話しかけた時、彼は重い一重の目でちらりと私を見て無視をした。けれど私は諦めなかった。ほぼ毎日彼を待ってコンビニに行った。目があう、手を振る、無視をされる。目があう、話しかける、舌打ちをされる。そんな日常を何回繰り返しただろう。
ある日突然、店内から出てきた彼は私の元に歩み寄って「ストーカー」、そう言って静かに笑いかけ帰宅していった。本当にストーカーだと思うならこのコンビニに来なくなるか通報するだろう、私はそれに気づいた。
その日から私はずっと彼の事で頭がいっぱいになった。学校にいても友達と話していても何をしていても。どきどきどき、一度動き出した恋心は止まらない。
最近ではなんとか一言二言うざがられながら言葉を交わして、それで大嫌いな親がいる自分の家へと帰る。これが私の好きな過ごし方だった。彼女達といるのも馬鹿らしくて楽しいけれど、きっと一、二歳年上であろう彼とほんの少しでも絡めるのが楽しみだった。
だから私は今日も寒空の下、コンビニの入り口で彼を待ち続ける。





「ストーカーかよ」

凍えそうな気温の中、いじる必要のないスマホをいじって座っていると頭上から声がした。顔を上げるとやはり予想した通り銀髪のお兄さんだった。顔が痛くなるほどに冷気が襲う、鼻が赤くなってない事を祈った。

「先輩、煙草もう無くなっちゃった」

名前すら知らないので、私の口から出る彼の呼び方もまた彼女達が言うような「先輩」なのが腹が立つ。ヘラヘラ笑って言えば彼は舌打ちをした。鬱陶しそうに私を見てガキは帰れ、そう悪態をついて店内に入っていった。
一言でもいい。彼と喋れるだけで日々の憂鬱な出来事とか、嫌な事がスッと無くなっていく。どきどきどき。この人でしか味わえないこの鼓動は、私を未知の感覚へと誘っていく。

自動ドアの開く音がして、その3秒後に頭上から軽い何かが落ちてきた。それは私の頭に当たり、痛みも音もなければ静かにアスファルトの地面に落下した。暗い夜空の中、コンビニの光で照らされたのは私の吸っている銘柄の煙草だった。

「先輩、ありがとうございます」

「そういう時だけ敬語になるのやめろ、うぜえ」

銘柄覚えてくれたんだね、嬉しくなって笑いながら煙草を手に取った。封もまだ開いていない、彼が私の為に買ってくれた煙草。私が手の中で大事に握りしめたのを見た彼は、何も言わずに帰路につこうとした。

「先輩」

「お前みたいな後輩持った覚えはねえ」

「だって名前知らないもん、先輩かお兄さんって呼ぶしかないから」

「…あくつ」

彼はため息をついて、嫌々小さく呟いた。
私は突然の事が理解できずに、彼の顔を見た。眉間に皺がよっている。不機嫌なのか普段からこうなのか、私には分からずにいた。

「あくつ?」

「呼び捨てしてんじゃねえよ」

「あくつ君!」

「なんだようるせえな」

あくつ、アクツ、あくつ、先程別れた彼女達の会話にでてきた彼の名を思い出し、名前を心の中で復唱した。なんとか先輩と〇〇君と喧嘩してたアクツ、山吹の高等部に通うアクツ。
彼だ、アクツ君か。私はみんなの言うアクツには興味ないつもりだったのに。

「この煙草今吸っていい?でも勿体ないかな」

「吸わねえなら返せ。俺が吸う」

「嫌だよ、これあくつ君に買ってもらったんだもん」

あくつ君から買ってもらったばかりの煙草を開け火をつけた。隣のあくつ君は変なやつと呟いて笑っている。
私はきっと、今日は大嫌いな家に揚々とした気分で帰れるだろう。
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